オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き
(2009年8~9月)
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

利上げ局面へと転換するオーストラリア経済

世界経済を仰天させたリーマン・ブラザースの経営破綻から1年が経過し、各国政府による懸命の景気回復策により、世界経済は、全体としてようやく低迷を脱しつつあるようである。その中でも、特に豪州経済は、連邦政府の思い切った財政面からのテコ入れ(Stimulus Package)の効果もあり、景気後退にも陥らずに、経済先進国の中では、いち早く景気上昇を迎えることになりそうな状況になっている。日本経済も、輸出依存という体質は変わらないものの、中国を中心とする外需の拡大により、下降していた経済活動も上向いている。民主党政権の誕生を契機に、社会全体としてもこれまでの閉塞的ムードを一新し、新たな成長戦略の導入が期待される。オーストラリア経済では、年末に向けて、いつ金利の引き上げがあるのかが焦点になっている。早ければ11月にも、という観測もある中で、無条件的に利上げを嫌う政治家は、これをけん制するのに懸命というのが現状である。

 

2期続けてプラス成長―豪州経済

9月2日に連邦統計局から発表された6月4半期の国民所得統計によると、今年6月4半期の豪州経済は、対前期比で0.6%(季節調整値。以下同じ)拡大した。この結果、豪州経済は、2四半期連続のプラス成長となり、年率でも同じ0.6%の成長となり、この1年間でもプラス成長を確保した。経済全体が縮小した先進国が多い中での、拡大となった。

ただ、資源価格の低迷を背景に、交易条件は7.4%下落し、実質国内総所得も1.1%減少した。

国内総生産を押し上げたのは、新規設備投資と家計消費であり、逆に、成長の阻害要因となったのは、新規建築投資と輸入であった。

豪州経済が、昨年12月四半期を底に上向きに転じていることは、次第に明らかになってきている。より確かな経済成長を図るためには、中国やインドでの経済成長がより明確になるとともに、日本を含む先進国での経済の立ち直りが必要であるが、現在のような状況の中でもプラス成長を確保できたことに、豪州経済の力強い自立性が示されているといえよう。

失業率の変動は、実体経済の動きよりも遅れる傾向にあるが(遅行指標)、9月10日に発表された8月の失業率は5.8%となり、これで3カ月連続して同じ数字となった。今年3月以降ほぼ同じ水準で移行しており、底を打ったという見方もできよう。もっとも、フルタイム雇用がパートタイム雇用になるなど、同じ数字でも内実は、必ずしも同じではないが、総雇用時間でも減少傾向は落ち着いてきており、反転が近づいていることは確かであろう。

 

財政当局vs中央銀行

国家による経済政策は、財政政策と金融政策に大きく分類される。財政政策を担当するのが財政当局(豪州では連邦財務省)であり、金融政策を受け持つのが中央銀行である豪州連邦準備銀行(連銀=RBA)である。日本でいえば、財務省と日本銀行ということになる。

この強力な権限を握る2つの組織の関係は、微妙である。日本でいえば、以前は財務省(旧大蔵省)が圧倒的優位を誇っており、さながら金融政策も財務省の管轄下にあるごとく、日銀は従属的な立場に甘んじていたが、日本銀行法の改正により、日銀の独立性は格段に高められた。3代続いて日銀総裁が日銀出身者から選ばれたことに、端的に象徴されている。それ以前は、大蔵省と日銀の出身者が交互に日銀総裁に就任するという、暗黙の了解があった。日銀総裁の任命は国会承認事項であったが、現実には、大蔵省が指名権を持っているかのようであった。

日本銀行が1882年に設立され、120年を超える沿革を持つのに対し、オーストラリア連銀の歴史は、比較的新しい。1959年に、金融政策を独立して担当するために、当時中央銀行と商業銀行の両機能を担当していた、国営銀行であったコモンウェルス銀行の一部が分離独立して、連銀が誕生した。この歴史に示されているように、当初は、連邦政府組織の一部と見られるくらいに独立性の弱いものであった。

その後、金融政策の重要性と政策決定過程での独立性が求められるにつれて、連銀の独立性や権限が強化された。2000年代に入ってからは、連邦財務相との協定により、インフレ目標政策を中核にして、金融政策を実施するという方向性も明記されている。連銀が、政治的に独立している要因の1つとして、首都のキャンベラでなく、シドニーに本部があることも指摘されよう。連銀総裁は、2代続けて内部からストレート昇格している。

一昨年来の、100年に1度とされる経済危機に対応し、連邦政府と連銀は経済政策を総動員して、景気の浮揚に懸命である。その柱となるのは、思い切った財政支出と金利の引き下げである。経済政策の発動状況については、経済先進国が採用したものほとんど同じであるが、金利水準や財政支出の中身については、かなりの違いがある。

日本、米国や英国の公定歩合がほぼゼロであるのに対し、オーストラリアの金利水準は、経済危機以前の半分以下に下がったとはいえ、3%と相対的に高いものに留まっている。財政支出についても、オーストラリアが、GDP(国内総生産)に比較して相対的に大きなものを素早く国民に支給したのに対し、ほかの先進国では、日本に象徴されるように、相対的に小さいものを時間を掛けて交付している。

その即効的効果もあって、豪州経済は、ほかの経済先進国よりもいち早く景気回復に成功している、という評価を受けている。問題は、この緊急避難的政策をいつ通常の政策に戻すのかということであろう。これをめぐっては、既に連銀と財政当局との間での微妙な関係が表面化している。

グレン・スティーブンス連銀総裁は、8月12日に開催された講演で、豪州経済にとって今回の景気後退は深刻なものではなく、失業率も当初見込まれた8.5%にはいかない可能性が高いと指摘し、金利水準もより通常のレベルに近々戻るであろうとした。これは、現在の金利が歴史的にも異常なレベルにあり、将来のインフレを招くことのないように金利政策を運営したいとする、中央銀行総裁としての考えを披歴したものであろう。

これに対し、財政当局の意見を示すように、ドン・ヘンリー連邦財務省事務次官は、豪州経済がほかの先進経済よりは立ち直りが早いことは認めながら、第2の経済ショックがある可能性も指摘し、経済運営の手綱を緩められないとした。これは、これまでの財政運営を続ける必要性を強調したものである。

景気浮揚策としての財政政策は呼び水政策であり、いつまでも続けることはできず、いつ止めるのかのタイミングが極めて重要となる。スワン連邦財務相も、豪州経済の回復力はまだ弱く、経済の成長を図るためにもStimulus Packageの持続を主張した。

総額で430億ドルとされる今回のStimulus Packageについて連邦野党側は、早い段階から、大き過ぎる数字であり、膨大な財政赤字を招き、将来の金利高騰リスクを指摘してきた。この主張の狙いは、高金利の回避にあり、ここでも政治家が高い金利を嫌うのかがよく現われている。

豪州連邦政府のStimulus Packageは、その規模、発動タイミングなどで、ほかの政府や国際機関から高い評価を受けている。問題は、それだけ逆に、止めるのが難しいということである。金利の引き下げとともに、財政政策の引き締めがいつ行われるのかが大きな焦点になろう。

 

メディア界の総動

オーストラリアのメディア業界では、ルパート・マードック氏、故ケリー・パッカー氏など、Mogulと称される大立者の動きで話題に事欠かなかった。ケリー・パッカー氏が死亡してからは、後継者のジェームズ・パッカー氏が事業の柱をカジノ業に向けたこともあって、大きな話題を集めることも少なくなっていた。しかし、ここにきて小ケリーと称されてきたケリー・ストークス氏が突如、表舞台に現れ、経営権をめぐってチャンネル7と元チャンネル9両陣営の闘いが俄然注目を浴びる事態となっている。

ジェームズ・パッカー氏がカジノ事業に投資するため、チャンネル9の経営権を手放す過程は複雑であるが、究極的には、カジノ買収の所要資金を調達するため、地上テレビ放送局チャンネル9の経営権を投資ファンドに売却し、メディアの経営は、有線テレビ放送に絞ったということである。そのための企業Consolidated Media Holdings(CMH)の経営権は、手放さないでいた。

これまでチャンネル9を目標としてきたチャンネル7は、視聴率的にも凌駕した勢いに乗り、念願の有線テレビ事業分野でも主導権を取得するために、CMHの経営権を掌握する目的で同社株の買い占めに乗り出したのである。ケリー・パッカー氏の活躍中は小僧っ子扱いされたケリー・ストークス氏にとっては、リベンジの戦いでもあった。

メディア業界の規制法により、チャンネル7の株式保有割合は20%を超えられないため、チャンネル7陣営は、20%近くまで株式を買い進めた。この事態に対し、パッカー氏側も、対抗策としてほかの資産を売却して資金を得、CMH株を買い増した。カジノ事業に傾注しているパッカー氏であるが、肝心のカジノ事業では、国内事業は比較的良好であるものの、ラスベガスやマカオでは、思惑通りに事業展開できず、苦しい状況が続いている。しかし、父親から引き継いだメディア事業の最後の砦は死守する意図のようである。投資会社チャレンジャー社の株式を売ってまでも防衛に努めている。

この戦いは、最後まで行き着くものと思われたが、9月10日になって突如休戦状態になった。パッカー氏側が、取締役のイス2つを差し出すことで、ストークス氏側と妥協を図ったからである。ストークス氏側としても、法の制約がある上に、資金的にも限界に近づいており、経営権の一翼を得たことで、落とし所と判断したのであろう。

ケリー・パッカーという、異彩な人物を失った、オーストラリアのメディア業界は、おとなしい業界になってしまった。ジェームス氏が父親を乗り越える日は、永久に来ないように思われる。

このほかの経済的ニュースとしては、WA州のゴーゴン・ガス田から今後20年間にわたり天然ガスを供給する総額700億ドルの契約が日本・韓国との間で締結されたことや、日本での郵政改革見直しとは逆行するように、豪州郵便局が民間損害保険も扱うようになったことなどが大きな話題となった。

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