オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き
(2009年11~12月)
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

さらに続く金利の引き上げ

連邦準備銀行(連銀)は、12月1日に開催された理事会により公定歩合(キャッシュ・レート)の0.25%ポイントの引き上げを決定し、翌2日から実施された。これで3カ月連続の引き上げとなり、新しい金利水準は、3.75%となった。

世界の経済先進国が今回の経済危機時の金利水準(日本を含む多くの国で事実上ゼロ金利)のままに据え置いている中での、豪州連銀の動きは突出している。中国をはじめとする近隣発展途上国の恩恵を受けて比較的素早い回復を見せている豪州経済ではあるが、何よりもインフレ目標政策を金融政策の基本原則としている以上、インフレ上昇傾向を事前に抑えるための先制的対策といえるであろう。

連銀としては、できる限り早く通常の金利水準(5%前後)に戻したいという意向だ。1月には連銀理事会は開催されないのが通例なので、次回の2月の理事会が注目される。

11月30日、アラブ首長国連邦のドバイ政府の投資持株会社ドバイワールド社が、突然、債務返済の一部凍結を発表し、リーマン・ブラザーズ経営破綻の再来かと、大騒ぎになった。ドバイ自体は石油産出国ではなく、中東の金融やリゾートの中心を目指しているので、いわば、莫大な不動産投資のバブルがはじけたというのが、真相であろう。

主に欧州系の金融機関が多額の貸し出しを行っており、近隣の首長国も支援を表明しているので、今回の件も世界的な金融不安には拡大しない見込みであるが、世界中の多くの所に金融不安の危険性があることを露呈するものとなった。

新しい年2010年を迎えたものの、世界経済の本格的な立ち直りと安定化には、まだ時間が必要であろう。

12月1日に発表された連銀総裁声明の中で、連銀理事会は、豪州経済の現状を次のように指摘した。

 

・世界経済は緩やかながら回復しつつあり、特に金融危機の影響が少なかったアジア経済は以前の状態に戻りつつあること

・豪州経済は、財政上の支援策の効果が薄れ、個人消費も勢いは落ちているが、インフラ整備投資や民間設備投資の効果が表れてきていること

・インフレ傾向は、国際商品価格の低下や労務コストの落ち着きにより、昨年の高水準からは下落しており、為替効果もあって、目標内に入ると見込まれること

・住宅価格の上昇が見込まれ、家計部門の資産は増加が予想されること

以上のような状況判断により、連銀は公定歩合を引き上げたのだが、豪州経済の回復ぶりを考えると、金融面からの景気刺激策が減じても、安定して、持続的な経済成長とインフレ目標を達成できる、と連銀は結論付けている。

連銀のこのような判断は、現状の世界の中央銀行では数少ないものであろう。日本銀行が今回の経済危機では初めて公式的にデフレ傾向を認めたのと、全く対照的に見える。しかし、その根底に共通するものは、できる限り早く通常の金利水準に戻りたいということである。つまり、長期的な異常な金利水準や膨大な財政赤字は、将来的に必ずその影響が現れ、経済が激動に見舞われるという、過去の教訓に根差すものであろう。

現在の経済学の理論では、なかなか説明がつかない長期的なゼロ金利という現象が将来の経済にどのような影響をもたらすのか、日本や米国は、その行方を見守るしかないようである。

もう1つ、豪州経済で注目されるのは経常収支の動向である。景気が上向くと、輸入が急増し、貿易収支、ひいては経常収支が悪化するのがこれまでの通例であった。ここ数年は資源ブームの恩恵により、石炭や鉄鉱石などの輸出が増加し、ここ1年は、財貿易の収支は黒字傾向となりひと息ついていたが、それでも明確な黒字基調にはならなかった。貿易外収支などを加えた経常収支の赤字幅の拡大、その結果としての対外債務の増加は、豪州経済の抱えるガン病巣というべきものである。

12月8日に公表された9月四半期の経常収支では、再び赤字幅が増加して160億ドルとなった。1年前と比較して約50%増、昨年3月四半期と比べると2倍程度になっている。これは、資源ブームが一段落し、干ばつの影響で農産物輸出も減少して、輸出が2%以上落ち込んだのに対し、輸入が6%近くも増加したことによるものである。

しかし、明るい材料としては、輸入増加の主因が資本財輸入の増加であることである。主に天然ガス採掘を目的として、資源部門での機械類輸入が急増したことが主な要因であった。これは将来的に輸出の増加になる。消費財の輸入に伴う悪い赤字ではなく、いわば、良い赤字といえよう。

もう1つの懸念は、農産物輸出である。雨不足により、穀物の夏季収穫は10%近い減少が見込まれている。鉱産物とともに農産物は、輸出の中核であり、その影響は無視できない。

経常収支の赤字額は、国内総生産(GDP)の6%が危機ラインといわれている。以前には、この水準を突破したことがあったが、ここ数年は3、4%台となり、危機感が薄れていたようである。依然として楽観できない水準であったが、今回の赤字拡大により、改めて5%台となった。大きな警鐘としたい。

公定歩合の引き上げと住宅ローン金利の関係

日本の住宅ローンでは、固定金利、しかも長期間のものが主流であり、公定歩合の変動が住宅ローンに直ちに及ぼす影響は、それほど大きくはない。これに対し、オーストラリアでは変動金利が大部分を占めており、公定歩合の増減が、直接、住宅ローン保有者の返済額を変化させ、生活にも影響を与える。そのため日刊紙は、公定歩合の変動がある度に、ローン返済額がどのように変わるのかを詳細に報道する。

経済危機への対応策として生活支援金などを支給したウェイン・スワン連邦財務相は、連銀による引き上げ幅を超えて返済額を引き上げる根拠はないと、これまでも特に大手四大銀行の出方をけん制してきた。

今回の公定歩合の引き上げでは、ウエストパック銀行が直後に0.45ポイント引き上げることを発表した。公定歩合引き上げ幅の2倍近くという、スワン連邦財務相の要請を断固拒否した形となり、面目丸つぶれになった。同銀行側は、調達金地の高騰を理由とし、これまでの抑制分を一部取り返したに過ぎないことを強調した。また、事業ローン金利などを大きく引き上げて、それを住宅ローン金利抑制の補てんとすることはできないと弁明した。

しかし、その次に金利見直しを明らかにしたナショナル銀行は、公定歩合と同じ0.25ポイントの引き上げとなり、最大の住宅ローン貸手であるコモンウェルス銀行は0.37ポイント、ANZ銀行は、0.35ポイント、ウエストパック銀行の完全子会社である第5位のセント・ジョージ銀行は0.39ポイントと、引き上げ幅で大手五行がそれぞれ異なるという、異例の展開となった。これまでは、大手銀行はほぼ足並みをそろえていたのである。そのほかの金融機関では、0.30ポイントとした地方銀行や0.24ポイントとした信用組合がある。

各行の対応が分かれた背景には、住宅ローンの市場シェアや預金金利の引き上げ幅が関係している。住宅ローン貸手市場で優位に立つコモンウェルス銀行やウエストパック銀行/セント・ジョージ銀行連合は、ローン金利を大きく引き上げる代わりに、預金金利も比較的高く引き上げて、預金の獲得増加を目論んだ。それに対し、住宅ローンでは出遅れ感のあるナショナル銀行は、引き上げ幅を抑えて、新規顧客の獲得を目指す作戦に出たようである。連銀の調査によると、住宅ローンの利ザヤ(貸出金利と調達金利の差)は、縮小傾向にあり、ウエストパック銀行の論拠を裏付けている。

オーストラリアの金融機関にとっての最大の収益源である住宅ローン市場では、住宅抵当企業や住宅貯蓄組合・地方銀行のシェアが減少し、ますます大手銀行に集中する傾向がある。資金の調達先の相当部分を海外に依存している大手銀行も、外的要因により調達金利水準が大きく変動したという今回の経済危機の教訓から、できる限り国内で調達するという方針を示している。その意味では、今後、銀行間での預金獲得競争が激化することが予想される。

連邦政府による預金保証期限まで2年を切り、投資から預金へ、地方銀行から大手銀行への流れに変化が出てくるのに加え、金融機関間の激しい競争は国内経済を活性化させるだろう。

 

企業経営者の法的責任

2001年5月は、豪州企業史上では最悪の月の1つとして記憶されよう。

大手航空会社アンセット社と新興電気通信企業One.Tel社が相次いで経営破綻したからである。それから8年余、11月18日にNSW州最高裁で1つの判決が出された。

連邦証券投資委員会(ASIC)が経営破綻した会社の取締役に対する損害賠償を請求した民事裁判であり、原告側の敗訴となった。裁判の背景は以下の通りである。

1995年に設立された電話会社One.Tel社は、既存の大手電話企業よりも安い料金で利用でき、顧客の獲得にも成功していた。1997年には株式市場に上場した。創業者の2人、リッチ氏とキーリング氏は、豪州を代表する経済界の大物マードック氏とパッカー氏の息子たちから合わせて10億ドル近い出資の同意を取り付け、企業の財政基盤も盤石とみられていた。2000年の時点では、株式時価総額は60億ドルを超えていた。

ところが、2001年5月29日に突如、破産管財人が任命され、事実上倒産した。直接の契機は、1億ドルを上回る増資が見送られたことにより、資金繰りがつかないことであった。同社の顧客は順調に増加したが、入金の管理状況が悪く、キャッシュ・フローに窮していた。創業者の2人は、現状を乗り切れば自力滑走ができると考え、パッカー氏に増資を要請した。しかし最後の段階で、父親の故ケリー・パッカー氏が増資引き受けを拒否したために、万事休したのであった。

取締役の法的責任(忠実義務)を追求したASICは、キーリング氏と当時の会長とは和解していた。リッチ氏と財務担当取締役の2人とは、裁判で民事責任を追求することになった。

裁判の争点は、2人が財務状況を正確に取締役会に報告したかどうかであった。判決の中で裁判長は、1億ドルを超える増資があれば経営破綻は免れた可能性が高く、2人が増資を受けられると判断したことに過失はなかった、とした。ASICとしては、連邦最高裁への上告の途も残されていたが、敗訴に伴う訴訟費用の負担を被告側と協議したと伝えられている。訴訟費用は1,500万ドルに上ると推定されている。

また、リッチ氏は、増資を拒否したマードック氏とパッカー氏の親会社への損害賠償請求も行う予定だといわれている。関係当事者の運命を大きく変えた企業破綻も、全面的に終止符を打つ時も近いものと思われる。

このほかの経済的ニュースとしては、QLD州営鉄道の貨物輸送部門が民営化・株式上場されること(70億ドルの見込み)や、連銀が住宅価格は今後も上昇すると発表したことなどが大きな話題となった。

主な経済指標の動き(2009年11月)
All Ords $US / $A TWI \/$A 日経ダウ Topix
先月末 4646.9 91.45 70.7 85.51 10034.74 894.67
月 末 4715.5 91.53 69.9 81.27 9345.55 839.94
最 高 4773.8 93.48 71.6 85.56 9871.68 878.87
最 低 4519.2 90.15 69.8 81.27 9081.52 811.01

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