オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き
(2009年12月〜2010年1月)
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

幸先の良い新年の出だし

100年に1度とさえいわれた大不況からの脱出の気配が、世界経済にようやく見えてきている。新年に入り、各種の経済指標は上向きを見せている。株価指数でみると、豪州市場では、昨年1年間で約33%上昇した(それでも最高値であった2007年11月水準より3割下回っている)。ニューヨーク市場の株価指数は、2割上がった。東京市場の日経平均も同じく20%近く上昇し、戦後最大の下落率となった前年のマイナス42%からは、大幅に改善された(もっとも、史上最高水準からは約4分の1の低水準である)。経済先進国よりもいち早く立ち直った発展途上国、特に、中国の恩恵にあずかる豪州経済には、力強さが目に見えてきている。

中国といえば、暦年で見た国内総生産(GDP)で、中国が日本を追い抜いたことは確実となった。今までは、日本経済には「世界第2位の」という形容がよく使われたが、今後は、「世界第3位の」ということになろう。もっとも、中国の統計の信頼性には疑問もあるので、本当はもっと以前に追い抜いていたかもしれない。

中国の人口は、日本の10倍以上であるので、1人当たりのGDPでは、はるかに少ないということになる。しかし、時代は確実に中国に向かっている。豪州経済も、その波に乗れるのか、押し流されるのかが、分かれ目となろう。

12月四半期が鍵となるGDPの動き

昨年12月16日に発表された9月四半期の国民所得統計によると、この四半期に豪州経済は0.2%(季節調整値。以下同じ)増加し、年間では0.5%の拡大となった。

世界的な不況の中、経済先進国では、韓国、シンガポールとともに、数少ないプラス成長国となった。しかし、6月四半期の0.6%成長と比べると、相当に減速している。

経済成長の原動力である個人消費と企業設備投資の伸び悩みが原因である。景気浮揚策としての財政政策の効果が弱くなってきたからであろう。それを補う形での輸出の増加(主として対中国)により、プラス成長を確保したといえる。

スワン連邦財務相の指摘するように、総額430億ドルとされる景気刺激策がなければ、年間を通じてマイナス成長であった可能性が高い。この統計発表の直後では、同財務相は、今後も景気刺激策の必要性を強調していた。しかし、その後に明らかにされた経済統計によると、クリスマス商戦を中心に豪州経済には活気が戻ってきており、経済は底堅いことが明らかになっている。

2月2日に開催される連邦準備銀行理事会でも、公定歩合の引上げが確実視されており、経済活動の活性化が織り込まれようとしている。一昨年12月四半期には、マイナス成長となったので、今後の豪州経済の動きを見定めるためには、この12月4半期の動向が大きな鍵を握っているといえよう。

旺盛な個人消費

世界的な不況の影響を最も大きく受け、失業率も高かったNSW州でも、消費者の財布のひもは緩んできている。

調査対象の6割を超える小売店が、前年よりも売上げが伸びたとした。昨年11月の外食消費額は前年に比べ40%以上も増加し、テイクアウェイの売上げも2割を超えて増加したとの、非公式な統計も発表された。

この調査によると、衣服や履物類の購入も対前年同月比で2桁の割合で増加している。この衣服・履物類や自動車は、輸入が大半であり、この1月から関税が引き下げられることや豪ドル高で実質的に価格が下がることから、さらなる売上の増加も見込まれる。

景気後退の局面で最も問題となるのは、雇用である。景気後退→雇用削減→所得の減少→景気後退の悪化という悪循環が続き、社会的な問題も発生するからである。景気の回復がうかがえる米国経済でも、力強さがまだ出ていないのは、失業率が2桁で高止りしているからである。景気上昇→雇用拡大→所得の増加→景気上昇の促進という好循環にならない限り、本格的な景気回復は望めない。

今回の不況局面では、豪州経済での失業率は7.5%程度にまで上昇するとみられていた。しかし、6%台寸前で上げ止まりした後、昨年12月には、5.5%とやや下がった。これは、今までの経験では、もう上昇のピークを過ぎたことになる。ほかの経済指標が示すように、景気の回復が本物であれば、もうこれ以上失業率が上がることはなく、これまでの不況時に比較して、はるかに低い水準で不況を脱したことになる

求人広告にも景気回復の様子が見られる。ANZ銀行求人広告件数統計によれば、昨年12月の求人広告件数は、新聞で対前月比11.6%、インターネットで5.6%増え、全体では6%の増加となった。全体の求人広告件数は、今回の底であった昨年7月からは、約19%も増加している。

失業率関連統計は、実際の景気循環よりは遅れる遅行指標とされており、また、求人広告件数は、半年先の現実の求人を示すとされているので、この求人広告件数統計が本物であれば、景気回復は確かであり、今後は雇用件数は増加が見込まれ、前述の好循環が進行することになる。

豪州経済は、景気が上昇すると、輸入が大きく増加し、貿易収支、ひいては経常収支がすぐに悪化し、その対策として公定歩合が引き上げられるために、景気上昇の足が引っ張られるという、傾向があった。今回は、輸入がそれほど増えず、鉄鉱石などの国際取引商品の輸出が好調のため、貿易収支が大幅に悪化しないですんでいる。

昨年11月の貿易収支(財・サービス)は17億ドルの赤字となり、10月の約21億ドルよりは改善した。これも、12月の数字がどうなるのかが重要となろう。

もう1つ注目される経済指標は外国為替である。昨年始め、約70セントでスタートした対米ドル相場は、90セントを超える水準で終了した。対日本円では、64円水準から20円も上昇した。自国通貨の相場上昇は、経済界や政治家には目の敵にされる。特に日本ではその反応が目立っている。オーストラリアでもその傾向はあるが、日本ほど顕著ではない。原則的には、自国通貨の値上がりは経済的には良いことである。輸入物価が下がり、発動できる経済政策の幅が広がるからである。

今年内には、豪ドルと米ドルの水準が等しくなる(Parity)という見方もある。著名なエコノミスト6人の回答では、3人がほぼ現状を、2人が1ドル超えを予想している。歴史的に、最後にパリティーとなったのは1983年であるので、約27年ぶりのこととなるかもしれない。

豪ドル高は、輸入物価の下落や実質的な体外債務の減少となり、豪州経済全体にとっては、望ましいといえよう。

参考までに、6人のエコノミストの回答では、経済成長率は3%から4%となっており、ほぼ共通している。公定歩合でも、最低4.5%から最高5.25%と、大きな差はない。そのほかの項目でも、だいたい同様の予測範囲となっている。この種の予想は、あまり当たらないのが現実であるが、今回は専門家の見方がほぼ同じことから、今年の豪州経済の動きには、意外性が少ないのかもしれない。

総じて、豪州経済は順調に回復過程をたどっているといえよう。

主な経済指標の動き(2009年11月)
All Ords $US / $A TWI \/$A 日経ダウ Topix
先月末 4715.5 91.53 69.9 81.27 9345.55 839.94
月 末 4882.7 89.69 69.7 82.82 10546.44 907.59
最 高 4773.8 92.82 70.8 84.28 10634.29 915.87
最 低 4622.9 87.60 68.4 80.80 9572.20 857.76

逝く人・来る人

Paul Samuelson

経済学者として著名であり、第2回目ノーベル経済学賞(1970年)に輝いたポール・サミュエルソン氏が昨年12月13日に死去した。94歳であった(1915〜2009)。

米国に移住したユダヤ系ポーランド人の子どもであるサミュエルソンは、シカゴ大学で経済学を学んだ後、ハーバード大学院に進み、博士号を取得するとともに、数学や物理学を修得した。

経済学と数学を融合した、計量経済学の発展に寄与したが、日本では、経済学の基礎的教科書である「経済学(都留重人訳)」の著者として有名であり、この本は、1970年代前後に経済学を学んだ学生にとって、まさにバイブルであった。

25歳でMIT(マサチューセッツ工科大学)の助教授となり、32歳で教授になるという、俊才であった。その後1985年に引退するまで、MIT一筋で学者人生を全うした。計量経済学という理論的色彩の濃いものを教える一方で、現実の経済政策にも大きく関係した点でも特筆に値する。

1960年代には、経済顧問としてケインズ経済学説に基づく減税による景気刺激策をケネディ大統領に提言したほか、さまざまな政府機関にも関係した。元来は民主党の系列であったが、1970年代には共和党フォード大統領の経済政策にも関与し、上昇する失業率とインフレが併発する状況をさしたスタグフレーションと呼ぶ新語を有名にした(造語したのは、英国蔵相とされている)。

マネタリストとケインジアンという米国経済学の2大源流の内、マネタリストの牙城であるシカゴ大学で経済学を学び始めながら、ケインズ経済が主流である東部の大学に移ったサミュエルソン氏は、多数の著作と政策的提言で大きな業績を残した。

1930年代の大不況に対処する経済学の樹立が学ぶ動機となったが、今回の不況の完全克服を見ない内に亡くなったのは、心残りであろう。

 

Ahmed Fahour

このほど、豪州郵便公社の最高経営責任者に任命されたファアワー氏は、この数年間大きな人生の転機を迎えた後、ようやく念願の大組織の長というポストに就任した。日本でも郵政事業の見直しが検討されているが、金融機関で業績を上げた同氏が、物流が主体の郵政公社に金融事業を定着させることができるのかが、注目される。

レバノン系移住者の息子であるファアワー氏は、1960年生まれで、メルボルンのラトローブ大学を卒業した後、ANZ銀行で銀行員として歩み始めた。その後、米国大手金融機関で頭角を現した後、ナショナル・オーストラリア銀行の国内営業部の責任者にヘッドハントされた。約束された4年間の成功報酬は3,400万ドルとされ、大きな話題を呼んだ。

同行次期頭取と思われていたが、外部からのクライネ氏に敗れた形となった。同行を去るに当たり、今度は、連邦政府による大規模商業施設への支援ファンド(ラッド銀行と揶揄)のトップに内定していたが、連邦議会上院でこのための法案が成立せず、このファンドは、結局日の目を見ないことになった。

失意の内に、同氏は、バーレーンにあるアラブ系投資銀行の経営に従事していたが、このたび、郵便公社総裁に就任することになった。

ファアワー氏の経歴から見ても、郵政公社が金融機関を志向していることは確かであろう。郵便事業自体は、インターネットの一般化により、斜陽傾向にある。そのため、郵便局は、文具などの物品販売、公共料金などの収納代理、パウポート発行などのサービス業務に手を広げ、最近では、一部の郵便局で代理銀行業務も取り扱っているほか、外国為替も扱っている。

問題の核心は、代理ではなく、直接に自ら銀行業務(預金取扱い)を行うかであろう。モデル・ケースとしては、隣国ニュージーランドのキウィ銀行が挙げられよう。同国では、商業銀行の多くが大手豪州銀行に系列化されているため、その対抗として2002年にニュージーランド郵便公社が、キウィ銀行を立ち上げた。同銀行は、預金、保険、カード、為替など、商業銀行とほとんど同じ業務を行っている。

就任した直後のファアワー氏は、組合員によるストライキの洗礼を受けた。また、赤字傾向にある郵便事業立て直しのため、料金引上げ申請という厄介な仕事もある。しかし、将来的には、銀行業務の立ち上げという、大きな目標があることは確かであろう。

このほかの経済的ニュースとしては、新年から新しい労使関係法(Fair Work)が発効したことや、州別経済成長ではNSW州が過去10年間では最低であったという調査が発表されたことなどが大きな話題となった。

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