オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き
(2010年1〜2月)
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

景気回復足踏み、二番底の懸念は薄らぐ

新年に入り、出だしの良い勢いを見せていた豪州経済は、ここに来てやや回復のテンポが鈍り始めてきた。急上昇していた株価も10%ほど下落し、豪ドルにも一時の勢いが見られない。頼みとする中国経済では、バブル状況に対処して金融が引き締められ、経済成長率の低下が懸念される一方、世界経済では、欧州での信用不安が表面化してきたからである。

昨年末から年始にかけての状況では、必至とみられていた2月の公定歩合(キャッシュ・レート)の引き上げは見送られた。連邦準備銀行(連銀)も、一本調子の景気上昇はないとみたのであろう。しかし、景気が再び下降に向かう局面(二番底)は、その可能性が低いとみているようである。

事実、世界経済の中心である米国経済では、景気回復傾向がうかがわれ、商業銀行に対する政策金利であるDISCOUNT RATEが引き上げられた(公定歩合に相当する政策金利は据え置き)。日本経済も、昨年12月四半期の国民所得統計の速報値によると、実質で1.1%、年率換算では4.6%という、大きな伸びを見せた。しかし、名目成長率が実質成長率を下回るという、名実逆転は4四半期連続して続いており、依然としてデフレ状態から脱出できないでいる。

この四半期では、経済先進地域では、いずれもプラス成長をなし遂げており、これを持続的な成長につなげられるかどうかが、今後の課題である。

 

豪州経済に対する連銀の見方

2月の連銀理事会が発表した声明によると、金融政策の発動(公定歩合の引き上げ)を見送った理由として、これまでの3回の公定歩合引き上げの効果を見たいことと、とりわけ懸念している住宅ローンについては、公定歩合の引き上げ幅よりも大きな引き上げを住宅ローン貸手が行っているので、引き上げの目的はある程度達成されているとしている。

この声明の中で特に注目されるのは、国債などのソブリン債に関する懸念を表明したことであろう。ギリシヤ、スペイン、アイルランドやポルトガルなどの国債の利払いが停止されるという不安が顕在化したからである。これが引き金となって、再び金融不安が世界中に拡大する悪夢が恐れられたのであろう。この問題は、欧州同盟が支援することにより、当面は沈静化した感があるが、火種は完全には消えていない。

国債といえば、国内総生産(GDP)の2倍にも及ぼうとする莫大な借金を抱える日本のソブリン債の問題が出てこないのは、日本には、その額を上回る巨額な金融資産が国内にあることと、そもそも日本国債が海外ではほとんど所持されていないことによる。しかし、ひとたび世界的な格付会社が格付けを下げれば、国債価格は暴落(利回りは上昇)する危険性は、内包されている。

連銀の見方では、豪州経済は予想よりも力強い回復を見せているとしている。その理由として、過去の不況期ほどには失業率が上がらず、所得面からの落ち込みが軽かったことである。連邦政府による家計に対する不況対策の効果が消えてくると、今度はインフラ整備の公共投資が下支えをするようになり、さらに住宅投資も復活してくるほか、資源ブームの恩恵により設備投資も活発であったなど、経済を立ち直らせる原動力が絶えることがなかったとしている。

世界的な経済不安が再熱しなければ、豪州経済は、歴史的に平均的なペースにまで成長速度を上げ、中期的に持続可能な経済成長を図るために、金利水準も本年末までには標準的なレベルにまで戻るというのが、連銀の描くシナリオである。

 

連銀創立50年

連銀といえば、2月8日には創立50年を迎え、記念の式典が行われた。

世界の中央銀行の嚆矢とされる英国のイングランド(英蘭)銀行が400年以上の、日本銀行が約120年の、米国の連邦準備制度でも約90年の歴史を持つのと比べると歴史は短いが、マクロ経済政策で果たす重要性では同じであり、過去の実績でも十分なものがある。

一般に、中央銀行の役割といえば次のように指摘されよう。

 

・発券銀行——主に紙幣を発行するのは、中央銀行である。
・銀行の銀行——金融機関との取引により市場の資金量を調節し、金利に影響を与える。
・政府の銀行——中央政府の出納機関として、政府に出入りするお金を管理する。
・国際金融——他国の中央銀行や国際機関と協力して、国際金融を円滑化する。

豪州連邦準備銀行は、1959年の立法により、それまで中央銀行と商業銀行を併営していたコモンウェルス銀行の中央銀行機能を分離し、連銀として発足したものである。

過去においては、通貨の安定を通じて経済の発展に寄与するという、やや消極的な捉え方であったが、マクロ経済政策における金融政策の重要性が認識されることに伴い、金融政策の機動的な発動により、経済成長に資するという積極的な役割を担っている。

連銀は、連邦政府との協定により、インフレ目標政策を通じて経済を発展させるという確認を行っている。また、金融機関の監督という機能も以前には持っていたが、これは、金融政策と金融監督機能の分離という、ウォリス委員会の答申を受けた連邦政府の方針に基づき、預金取扱金融機関の監督は、連邦金融庁(APRA)に、証券会社やノンバンクなどの監督権限は、連邦証券投資委員会(ASIC)に分離・統合された。

2月8日にシドニーで開催された記念式典には、歴代の連邦首相、連銀総裁のほか、各国中央銀行の現職総裁などが多数参列し、創立50年を祝った。

主な経済指標の動き(2009年11月)
All Ords $US / $A TWI \/$A 日経ダウ Topix
先月末 4882.7 89.69 69.7 82.82 10546.44 907.59
月 末 4596.9 89.09 69.2 80.12 10198.04 901.12
最 高 4981.2 93.09 71.7 85.95 10982.10 966.40
最 低 4596.9 89.09 69.2 80.12 10198.04 901.12

豪州も高齢化社会へ

経済に関する予測は当たらない場合が多いが、人口動態に関する予測は、ほぼ的中する。それでも、日本と違い、オーストラリアの場合には、移住者の占める割合が相対的に大きいので、予測と結果がずれることもある。

2月1日に連邦財務省から発表された世代間報告書(Intergeneration Report)(三訂版)によると、高齢化は今後ますます進行するものの、2007年時の二訂版の予測よりは、やや緩やかとなる見込みである。それでも、全人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は、現在の14%から2050年には23%となる見込みである(ちなみに、日本の高齢化率は、現時点でも既に20%を上回っており、2025年には30%に達するとみられている)。

経済成長率を左右する要素として、人口数、労働力参加率(生産年齢人口に占める就業可能者の割合)と生産性がある。社会の高齢化に伴い、就業可能者数の減少が懸念される状況では、労働力参加率を高める施策が求められる。具体的には、高齢者も就労可能な労働環境の整備や既婚女性でも生涯働けるような労働条件や保育施設などの確保である。しかし、もっと重要なのは生産性の向上である。

ケビン・ラッド連邦首相は1月18日の演説で、高齢化社会を迎えるオーストラリアが、これまでと同じように生活水準を維持・発展させるためには、労働生産性の飛躍的な向上が必要である、と強調した。その論拠として、1970年代には65歳以上の高齢者1人を7.5人の就労者が支えていたが、現在では5人が支えている。これが2050年には、2.7人になると予測されるとしている。

オーストラリアの労働生産性については、1990年ごろまでは、年間の平均向上率は1%に届かず、OECD(経済協力開発機構)の平均1.5%をかなり下回っていた。これが1970年代以降、豪州経済が低迷していた原因であった。1990年代は、生産性を高めるための民営化や構造改革が実施され、生産性は年平均で2%程度に高まり、豪州経済は大きな飛躍を遂げた。しかし2000年以降は、労働生産性の上昇率は年平均で1.5%にも満たなくなったと計算されている。

ラッド連邦首相が強調したのは、現状のままでは年間経済成長率は2.7%程度にとどまり、過去40年間の歴史的な平均水準である3.3%に達することはできないというものである。労働生産性の年間向上率を2%にまで高めることができれば、高齢化社会を考慮しても、3%の経済成長率が可能としている。そのためには、教育、技術革新やインフラ整備などでの思い切った、長期的な対策が必要となろう。

ラッド連邦首相はこのところ、将来の高齢化社会を見据えた発言を繰り返し行っている。公立病院を州政府から連邦政府に管轄下に移すことは、前回の選挙での公約であったが、さまざまな問題に直面して、実現には至っていない。このことに関連して、現状では、例えばNSW州予算の25%程度が医療関連に向けられているが、このまま推移すれば、20年後には歳出の半分は医療関連になるとした。州の税収(連邦から直接交付されるGSTを除く)の全部よりも医療関連予算の方が多くなることも強調した。

また、1度連邦議会上院で否決された民間医療保険加入によるメディケア超過課税の適用除外に、一定の条件を盛り込む法案を上下両院の解散をちらつかせながら、再度提案する構えを見せている。将来的にこの負担額が膨大な額になるのを防ぐためだとしているが、その金額の算出根拠については、十分な説明をしていない。

ラッド連邦首相が、このように高齢化社会における財政負担の大きさを繰り返し強調するのは、来たるべき税制の抜本的改正のためであるとみられている。税制改革の報告書(リーダーのケン・ヘンリー連邦財務省事務次官の名前によりヘンリー・レポートといわれる)は、既にスワン連邦財務相に提出されているが、一般にはまだ公表されていない(本稿執筆時)。この改正は、国民に相当な税負担増を求めるものとみられ、ラッド連邦首相は、予防線を張っているのではないか、という見方もある。

オーストラリア経済の動き
■世代ごとの人口比率の推移予測(出典=2010年世代間報告書)

いずれにしても、高齢化社会の到来により、医療費を中心に、膨大な財政需要が発生することは間違いがない。オーストラリアよりもはるかに高齢化率が高く、気の遠くなるような累積赤字を抱える日本では、ようやく税制の抜本的改正に向けての議論を始めようとしている。鳩山首相は、次の選挙までは消費税率を上げないとしているが、そんなにのんびりできる状況なのであろうか。税収よりも国債収入の方が多いという国家財政の惨状に危機感がなさ過ぎると言えよう。

このほかの経済的ニュースとしては、これも日本の高速道路無料化施策への教訓となるが、シドニーからブルー・マウンテンに行く時に利用する高速道路M4が有料道供用期間の満了により州政府に返還され無料道となったこと、これとは対照的に、有料道レーンコーブ・トンネルを運営する企業が経営破綻となったことや、日本の英語学校が経営する英語学校が突然閉鎖されたこと、今年1月に販売された新車の原産国で、日本、韓国に次いで、はじめてタイが第3位となり、オーストラリアが第4位に転落したことなどが大きな話題となった。

■オーストラリアの人口推移予測(単位=百万人)
1970年 2010年 2020年 2030年 2040年 2050年
0〜14歳 3.6 4.2 4.9 5.4 5.7 6.2
15〜64歳 7.9 15.0 16.6 18.2 20.0 21.6
65〜84歳 1.0 2.6 3.7 4.8 5.6 6.3
85歳以上 0.1 0.4 0.5 0.8 1.3 1.8
合計 12.5 22.2 25.7 29.2 32.6 35.9

(出典=2010年世代間報告書)

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