政局展望「アルバニーゼ野党労働党の行方」

アルバニーゼ野党労働党の行方

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

2019年5月18日の連邦選挙では、大方の予想に反して敗北を喫した野党労働党だが、ショーテンの後任となったアルバニーゼ党首の下で、新生労働党へと脱皮すべく始動している。現時点で既に明らかとなった新生労働党の主要特徴とは、経済成長路線の重視と労働組合には距離を置くとの姿勢である。

19年選挙分析報告書の公表

アンソニー・アルバニーゼ野党労働党党首
アンソニー・アルバニーゼ野党労働党党首

11月7日、労働党の元大物政治家2人を長とする、すなわちウェザール前SA州首相と、ギラード連邦労働党政権下で閣内の貿易大臣を務めたエマーソンの2人が中心となってまとめられた、19年5月の連邦選挙の分析報告書が公表されている。同様な選挙レビューは、選挙終了後には必ず実施されるものではあるものの、何と言っても19年選挙は、大方の予想に反して野党労働党が敗北を喫した「驚天動地」の選挙であったことから、今次分析報告書の内容は通常以上に注目されている。ただし、報告書の分析内容、結論、提言はほぼ予想通りのものであった。

91ページからなる同報告書には、合計60の「発見」、そして「発見」に基づく計26の提言が含まれている。最も注目されていた野党労働党の選挙敗因については、つまるところリーダーシップの問題、すなわち、ショーテン野党リーダーの人気のなさと、選挙での勝利を当然視したことに起因する、選挙戦略の弱さ、統合性の欠如、不適切さにあったと結論付けている。

そして報告書は以上の問題点を踏まえ、労働党が新生するための処方箋として、(1)労働党の「政治的価値観」の保持、(2)いわゆる「大きな標的戦略」の破棄、(3)経済成長や雇用創出問題の強調、(4)「階級闘争カード」の破棄、(5)政策/意思決定過程の変更、(6)伝統的支持基盤であるブルー・カラー層へのコミットメントと、キリスト教系有権者層、中国系有権者層の再確保、そして(7)統合/統一戦略の策定、などを提言している。

選挙分析報告書の注目ポイント

選挙レビューの結論で最も興味深い点は、労働党の主要敗因として、何よりもリーダーシップ問題を指摘している点である。周知の通り、与野党の経済運営能力への「漠然とした」評価と並び、与野党のリーダーシップに対する評価、リーダーへの好悪は、それが政党のイメージ形成や好悪につながり、結果的に一部有権者の投票行動を決定するゆえに、極めて重要な非政策争点である。そして以上のような状況の背景には、豪州が義務/強制投票制度を採用していることから、選挙投票者のおそらく3割程度は、イメージだけで政党を選択する「いい加減な」投票者であるとの事情がある。

もちろん、リーダーへの評価が高ければ選挙での勝利が約束されているわけでも、逆に評価が低ければ、選挙での敗北が保証されているわけでもない。ただ、これが選挙帰趨(きすう)を決定する上で一定の、しばしば重大な影響力を持つことは否定できない。

さて、ショーテンのリーダーシップを重要敗因と結論付けた同報告書については、ショーテンの支持陣営を中心にして「不公平な見方」、あるいはショーテンの「スケープ・ゴート」化といった反論、批判がなされている。こういった支持者層は、敗北の主因は、ボーウェン前影の財務大臣が中心となって策定した、主として労働党の税政策等に対する有権者の反発、恐れであり、ショーテンの不人気は、不人気な経済政策に起因するものに過ぎず、決して逆ではない、云々と主張している。

ただし、この主張には重大な瑕疵(かし)がある。それは、労働党が「大きな標的」戦略を採用したのは、すなわち、広範囲かつ詳細な政策を公表するようになったのは、16年7月の選挙からしばらくしてからのこと、要するに比較的最近のことであったが、ショーテンの不人気さ、評価の低さは、労働党が「小さな標的」戦略を採用していた時代から一貫してのもの、という厳然たる事実だ。この点から、ショーテン不人気が党の政策といった、「外因」に因るものではなく、ショーテンの個人的資質、個人的事情に起因するものであるのは間違いない。

19年選挙におけるリーダーシップ問題の位置付け、解釈は、実のところ、労働党の将来のリーダーシップ問題の行方の観点からも重要である。その理由は、番狂わせの敗北を喫したショーテンが、将来リーダーに返り咲くことを虎視眈々(こしたんたん)と狙っていると見られているからだ。そこで、仮にリーダーシップの低評価の原因が、ショーテン個人の問題とのコンセンサスが党内で生まれた場合には、将来にショーテンが返り咲く可能性は著しく低下し、逆にアルバニーゼ現党首のリーダーシップは安泰となるのだ。

一方、レビュー報告書が強調しているもう1つの主要敗因が、選挙戦略の失敗、より正確には、統合/統一され、適切かつ断固とした選挙戦略の策定に失敗したことであった。

具体的には、第1に、昨年の8月に自由党の党首、すなわち首相がターンブルからモリソンに代わり、それに伴って、当然のことながら戦略環境も変化したにもかかわらず、選挙に対する過剰な自信や怠慢さによって、ショーテン野党が戦略の調整に失敗し、結果的にモリソンへの個人攻撃に失敗した点が指摘されている。

第2に、何よりも「大きな標的」戦略への批判、換言すれば、必要を大きく上回る数の政策を公表した結果、有権者の多くにとって、全ての政策が曖昧模糊(もこ)、理解困難なものとなった点を指摘している。

第3に、政策の効果的な「売り込み」戦略が欠如していたこと。選挙レビューは、例えば野心的とされてきた労働党の温室効果ガス新中期削減目標値ばかりか、有権者の多くに警戒感を抱かせたとされる税政策そのものについては、批判、否定もしていない。ただ、例えば地球温暖化対策、その中核である再生可能エネルギー源の一層の活用については、それが雇用創出にいかに貢献するかを強調すべきであったとして、労働党の政策「売り込み」、宣伝/PR戦略に大きな問題があったとの見方をしている。他方で、労働党が温暖化対策の「コスト問題」を蔑(ないがし)ろにしたことや、クイーンズランド州のアダニ石炭プロジェクトへの姿勢が、労働党の伝統的支持層であるブルー・カラー層の離反を招いたと批判している。

戦略失敗の第4点は、16年選挙では大きな効果を上げ、一方、予算、資金投入を増大させた19年選挙では、前選挙以上の効果が期待されていたデジタル選挙キャンペーン、ソーシャル・メディア・キャンペーンが失敗に終わった点が指摘されている。

最後に第5点として、ショーテン野党が多用した「階級闘争カード」、そして経済政策全体への基本姿勢に、経済の「パイ」の拡大ではなく「パイ」の分配を据えたことも、重大な選挙戦略の失敗として挙げられている。

アルバニーゼ新野党党首の演説

上記選挙分析報告書が公表される前の10月29日、ショーテンの後任の連邦野党労働党首に就任したアルバニーゼが西オーストラリア州の州都パースで講演し、労働党の今後の政策路線の一部に関し、その大まかな方向性を明らかにしている。

近い将来にアルバニーゼ野党が、労働党の新政策の詳細を策定する見込み、いわんや公表する見込みは皆無であるが、おそらく選挙分析報告書の内容を既に熟知した上で、アルバニーゼがパース演説で強く示唆した路線とは、具体的には、①持続的経済成長路線の重視、優先、②労働組合へのややクールな姿勢、③)資源・エネルギー産業並びに製造業の重視、そして④労働党の伝統的支持層であるブルー・カラー層の重視など、ショーテン前党首下の労働党路線からは明瞭に訣別したものとなっている。

左派のアルバニーゼが目指すのは、右派のショーテンによって「左旋回」させられた路線を、できるだけ「右旋回」させ、もって伝統的な労働党の立ち位置である「中道左派」へと戻すことに他ならない。アルバニーゼは、通常3年に1回開催される重要な連邦労働党党大会を、1年ほど前倒しにして来年の末ごろに実施することを決定したが、今後、次期第49回党大会まで、労働党内では新政策路線を巡って侃々諤々(かんかんがくがく)の政策論争、党内右派と左派の派閥間闘争が激化するものと予想される。

さて今回のパース演説は、アルバニーゼ率いる新野党労働党の基盤的、根本的な路線、政策路線の大まかな方向性を描写したもので、しかも政策路線の一部だけを披歴した、その第1回演説に過ぎないものであった。実際にアルバニーゼは、他の政策分野における「基本路線」レベルについては、今後何回にもわたって鋭意公表していくとしている。しかしながら第1回目の演説の内容は、上述したように、既にショーテン時代の路線とは大きく異なるものであった。その中でも特筆に値するのは上記の①と②、とりわけ重要なのは②、すなわちアルバニーゼの労働組合への冷ややかな姿勢である。

言うまでもなく、労働党とは労組が創設した政党であり、票集めマシン、政治献金マシン、さらには人材供給マシンとして、労働党の「パトロン」である労組は、同党に対し強い影響力を持つ。そして、豪州最古の右派系名門労組である「豪州労働者組合」(AWU)のトップを経て政界入りしたショーテンは、おそらく歴代労働党党首の中でも労組と最も親密なリーダーであった。附言すれば、ショーテンは労働党の右派だが、党内の支持基盤に関しては左派にも強く依存していたことから、労組の中でも最も親密であったのは、好戦的な左派系大労組の「建設・森林・海運・鉱業・エネルギー組合」(CFMMEU)であった。

ショーテンのCFMMEUへの阿(おもね)り、配慮ぶりを如実に示したのが、悪名高い同労組建設部門幹部への甘い姿勢や、とりわけCFMMEUが強く反対する2国間自由貿易協定(FTA)への、ショーテンの冷淡な姿勢であった。後者だが、これまでの労働党は、貿易交渉における「バイ」を容認はしてきたものの、その姿勢は決して積極的なものではなかった。こういった労働党の姿勢は、13年に労働党が下野し、ショーテンが野党党首に就任して以降にも踏襲されていた、それどころか、むしろショーテンによって強化されていたのである。その実例が、2国政府間で合意した後の豪中FTAに対して、ショーテンが再交渉を要求したことであった。

ところがアルバニーゼ野党は、経済成長にも資するインドネシアや、香港、チリとのFTAを支持しているばかりか、党首就任直後に約束した通り、CFMMEU幹部の中でも最も物議を醸してきた、セッカ同労組建設部門VIC州支部書記長を、労働党から排除することにも成功している。ショーテンに比べると遥かに労組との関係が希薄なアルバニーゼ現党首には、ショーテンのような「しがらみ」はなく、それが労組に冷淡なアルバニーゼの姿勢を可能にしているのだ。

以上のような、「労組とは距離を置く」とのアルバニーゼの姿勢は、今回のパース演説でも再確認されている。具体的には、臨時雇用の形態に対するアルバニーゼの前向き発言である。これが意義深い理由は、労働組合頂上組織の「豪州労働組合評議会」(ACTU)を始めとする労組側は、臨時雇用形態がいかに労働者に不利か、あるいは搾取の危険性があるかを訴えてきたからであった。

周知の通り、過去数十年にわたって労働組合組織率は凋落の一途を辿っている。その理由としては、①もともと組織率の低かったパート・タイマーや臨時労働者の増加、②サービス産業など、伝統的に労組組織率の低かった産業の興隆、③労組加入率の低い女性の大量職場進出に代表される、産業、雇用、社会構造の変化、④ハワード保守政権による分散的労働条件交渉制度の構築など、労使制度の変化、⑤「草の根」労組員の福利に無関心に見える大労組への失望感、⑥豪州経済が総じて堅調であったことから、労働者の職への不安や危機意識も比較的希薄となりつつあったこと、以上に加えて、皮肉なことに、⑦豪州労組、労働運動の「成功物語」が、労組の凋落に繋がった、などが指摘できる。

マクマナスACTU書記長が主導する臨時雇用問題の解決、臨時雇用から正規雇用への転換要求が、実のところ労組組織率の向上を主要動機とするものであるのは論を待たないが、今回のパース演説でアルバニーゼは、ACTUの主張に反して、臨時雇用形態を時代の趨勢(すうせい)、あるいは、しばしば被雇用者の利益に適うもの、自ら選択したものといった、より積極的な捉え方をすべきと示唆したのである。

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