政局展望「求心力低下の与党国民党」

求心力低下の与党国民党

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

自由党と連立関係にある国民党の求心力が低下しており、同党のリーダーシップ問題が今後も燻(いぶ)り続ける可能性や、「造反」議員の活動の先鋭化、そしてシニアー・パートナーである自由党との関係が齟齬(そご)を来すことが懸念されている。

経緯と最近の動き

年が明けてからモリソン与党保守連合政権は、山火事大災害への稚拙な対応ぶりに加えて、昨年5月の連邦選挙の直前に政府が決定したコミュニティー・スポーツ助成プロジェクトが、あまりに露骨な「ポーク・バレル(利益誘導)」であったことから、強い批判に晒(さら)されてきた。前者の山火事問題は、モリソンのリーダーとしての権威を大きく毀損(きそん)し、一方、後者のスポーツ助成スキャンダルでは、当時担当大臣であった国民党のマッケンジー副党首が、閣内の農業大臣ポストばかりか、同党副党首からも辞任する事態となった。これを受けて、与党国民党は2月4日に国民党連邦議員総会を開き、後任の副党首を選出することを余儀なくされている。

ところが、副党首の失脚で国民党内の求心力が大きく脆弱(ぜいじゃく)化した間隙(かんげき)を突き、それまでリーダーへの返り咲きを虎視眈々(こしたんたん)と狙っていたジョイス前党首が、マコーマック党首への挑戦を行っている。ただ所属議員による選挙では、僅差ながら現職のマコーマックが勝利し、再選されている。そしてマッケンジーの後任の副党首には、次期党首の本命と見られている、クイーンズランド(QLD)州のリトルプライド水資源・旱魃(かんばつ)・地方財政・自然災害・緊急事態管理担当大臣が選出された。

また国民党指導部人事の変更に加えて、国民党の実力派であるカナバン資源・北部豪州担当相が、党首選挙でジョイスを支持するためとして、自ら閣僚からの辞任を表明したことに伴い、6日にモリソン保守政府は、国民党の閣僚を対象とした、ごく小規模な改造を公表している。

例えば重要閣内人事としては、①閣内のリトルプライド水資源・旱魃・地方財政・自然災害・緊急事態管理担当相が、マッケンジーの農業のポートフォーリオを追加された一方で、水資源、地方財政、自然災害を喪失、②閣外のチェスター退役軍人・国防人事相が、所掌(しょしょう)は同じままで閣内相に昇格、③ジョイスの支持者である閣内のカナバンが陣笠議員に、そして④陣笠議員に過ぎなかったピットが(注:温暖化対策消極派。一方、原子力発電の支持者)、一挙に閣内の資源・水資源・北部豪州担当相に、などとなっている。

求心力低下の背景

国民党のホームページ
国民党のホームページ

国民党内の求心力が大きく低下し、それが、ジョイスによる党首挑戦にまで発展した背景には、何よりも、一昨年の2月に国民党党首に就任したマコーマックのパフォーマンスに対し、党内で不満が嵩(こう)じていたとの事情がある。そしてマコーマックへの不満の背景には、マコーマックが連立先でシニアー・パートナーであるモリソン自由党に迎合し過ぎる、あるいは追従し過ぎるとの不満と、またマコーマックが地味過ぎて、地方有権者層に訴える力や政策を「売り込む」力が不足している、との国民党議員の思いがある。

そのことが強く実感されたのが、旱魃政策を巡る保守連合内の軋轢(あつれき)、正確には、モリソンに対する国民党側の不満であった。ただし、それはモリソンの対策内容が不十分といった、政策内容に関する不満ではなく、むしろモリソンの積極性に対する不満であった。周知の通り、モリソンは18年8月24日、すなわち、自由党党首に就任した直後に開かれた自由党新正副党首の記者会見で、当面の最優先課題、政策として、ニュー・サウス・ウェールズ州等で深刻な大旱魃への対策を挙げている。これは、当時ギクシャクとしていた連立先の国民党への懐柔策としても、重要なものであった。ところが皮肉なことに、モリソンの同問題に関する熱心さ、指導力が、連立先の自由党に対する国民党の不満を高めてきたのだ。

その理由は単純で、国民党の「レゾン・デートル(存在理由)」とは地方有権者、とりわけ第1次産業従業層の権益擁護、増進に他ならず、国民党としては当然のことながら、旱魃対策については国民党が前面に出て、しかも主導すべきと考えているのだ。要するに、「1人で目立っている」モリソンへのやっかみとも言えるが、旱魃の規模の大きさ、それゆえ問題の深刻度の大きさ、他方で、地方有権者の国民党への期待、さらにワン・ネーション党に加えて、釣り・射撃愛好家・農民党といったライバル小政党の出現などから、国民党は「クレジット」の獲得に必死となっているのだ。そして、多数の国民党議員のモリソンへの不満は、結局、そういった状況を現出させたマコーマックの指導力の弱さ、自由党への弱腰ぶりへの批判となって顕れているのだ。

マッケンジー前副党首を巡る、「汚職」スキャンダルの一件も同様である。確かに、スポーツ助成問題を直接担当していたのはスポーツ大臣時代のマッケンジーであり、また助成プロジェクトの決定過程におけるマッケンジーのパフォーマンスが、周囲への配慮を欠く、お粗末で杜撰(ずさん)なものであったのは否定できない。しかしながら、国営ABC放送のジャーナリストに漏洩(ろうえい)された政府内部文書からも明らかなように、採用プロジェクトの決定には、モリソン首相オフィスも深く関与している。また、マッケンジーの閣僚並びに副党首ポストからの辞任に繋がった、閣僚規約に違反としたとの連邦首相府(PM&C)調査の結論にしても、理由はマッケンジーの「利益相反/利害の衝突」、それもマッケンジーが射撃クラブに所属している事実を開示することなしに、同クラブのマイナーな助成プロジェクトを採用したというものであった。

おそらくマッケンジーの同意があったとは思われるものの、これは、スポーツ助成スキャンダルをマッケンジー個人の失策と限定することによって、同スキャンダルの問題の本質を糊塗(こと)しようとの試み、要するに、マッケンジーを「スケープ・ゴート」とすることに他ならない。この点については、マッケンジーの副党首、あるいは農業相としてのパフォーマンスに批判的であった一部国民党議員も憤慨しており、そして旱魃対策と同様に、それを許したマコーマック党首の弱腰ぶりが党内でも批判されているのだ。

求心力低下の政治的意味合い

今回の国民党内紛の意味合い、国民党、そして保守連合への影響だが、まず第1に、今回ジョイスが敗北し、マコーマックが党首に再選されたことで、モリソンは安堵に胸を撫で下ろしていると言える。周知の通り、ジョイスは政界入り直後から、与党議員でありながら、しばしばハワード保守連合政府の法案に反対票を投ずるなど、何よりも国民党の党益、都合、それどころか自己の都合を最優先にしてきた「問題」議員であった。ところが上述したように、マコーマックの方は、自由党に迎合し過ぎるとして党の内部から批判されているリーダーである。モリソンにとり、どちらが連立先の党首として好ましいかは明白であろう。いずれにせよモリソンとしては、国民党との良好な関係、そして「ウマの合う」マコーマックとの良好な関係を維持し、またマコーマックの地位を保全するためにも、国民党により「花を持たせる」機会を設けることが必要である。

第2に、ただジョイスの敗北、そして党首選挙でジョイスを支持するため、カナバンが潔(いさぎよ)く閣内閣僚から辞任したことは、国民党のパフォーマンスをかなりの程度低下させるもの、ひいては保守連合全体のパフォーマンスを低下させるものである。エキセントリックで、がき大将がそのまま大きくなったようなジョイスは、依然として地方在住層の間では根強い人気を誇るからだ(註:ただジョイスの「不倫」スキャンダルによって、一部の保守層は逆にジョイスから離れていったが)。

一方のカナバンだが、テレビのパネル・ディスカッションなどでのパフォーマンスや言動、具体的には、攻撃的で小賢(こざか)しい姿勢や言動を見る限り、およそ好感を抱かれる人物とは言い難い。ただカナバンは、大手会計事務所のKPMGや連邦財務省傘下のシンク・タンク的機関である「生産性委員会」(PC)で揉まれた、「現実社会」を知る、しかも計数にも強い実力派の政治家であり、また将来の国民党党首の有力候補でもある。確かに、ジュニア・パートナーである国民党の議員は(注:現在下院議員16人、上院議員5人の計21人。なお、つい最近陣笠下院議員のオブライエンが離党を表明したが、引き続き保守連合議員として振る舞っている)、人事面で優遇されており、おそらく自由党であれば閣僚になるのは不可能な人物でも、しばしば閣僚に抜擢される。そういった中で、カナバンは間違いなく閣僚の器、しかも高パフォーマンスが期待できる閣僚の器であることから、国民党や保守連合の「戦力」という観点からは、カナバンが陣笠議員に留まるのは大いにマイナスで、宝の持ち腐れである。附言すれば、そのカナバンを以前から重用して、育ててきたのがジョイスで(注:カナバンは一時期ジョイスのスタッフであった)、そのためカナバンもジョイスには大いに恩義を感じているとの事情がある。

第3に、国民党の求心力低下によって、今回副党首に就任したリトルプラウドの、党首への就任が後押しされる、あるいは加速化される可能性がある。このリトルプラウドは、16年7月の選挙でQLD州から政界入りしたばかりの若手政治家である。ところが、17年12月に実施された第2次ターンブル保守連合政権の第1次改造で、農業・水資源相に任命されている。それまで1年生議員で、しかも陣笠議員という、地元以外ではほぼ「無名」の政治家であったのが、閣外閣僚どころか、閣僚の登竜門とされる政務次官も経ずに(注:ターンブル政権は補佐大臣と呼称)、いきなり閣内閣僚に大抜擢されたのである。そして、今回の政変では、政界入りからわずか3年半ほどで、伝統ある政党の副党首に早々と就任した次第である。

ちなみに大抜擢人事の背景には、連邦選挙においてはQLD州での戦績が重要なことや、同州がワン・ネーション党の本場であること、そして同州の自由国民党が(注:08年に同州自由党と国民党が合併して誕生)、QLD州選出保守連合議員の閣僚数が少ないとして不満を抱いてきた、などの諸事情があった。また上述したように、自由党と連立する国民党には、同党の議員数や議員の実力とはやや不相応に、寛大な閣僚数枠や閣僚の「指定席」が認められているとの事情もある。しかしながら、仮にマコーマックが今後失脚した場合(注:既にマコーマックの情実/報復閣僚人事に批判の声が上がっている)、それはジョイスが返り咲くとのシナリオではなく、党首ポストに最も近い副党首のポストに納まった、リトルプライドの昇格によるものと見る向きが多い。

第4に、国民党の内紛、そしてジョイスを始めとする「造反」議員の存在によって、今後も国民党の低求心力の状況は継続する見込みであり、そのため、特定政策を巡って、自由党との関係がギクシャクとなる恐れがある。自由党と国民党は長年にわたって連立関係を結んできたことから、両党を括(くく)った上で、労働党と共に2大政党などと呼んでいるが、もちろん、その「重心」が中道右派で、小ビジネス層などを支持基盤とする自由党と、右派で地方在住層、とりわけ農業従事者層を支持基盤とする国民党では、各種政策分野で少なからぬ、あるいは小さからぬ差異がある。例えば、国民党はミクロ経済改革などには不熱心だが、より強力で、改革志向の自由党と連立していることから、「地方の声」と自由党との板挟みにあってきた。そのため、しばしば両党は軋轢を起こすことから、モリソンとしても注意が必要である。

具体的には、地球温暖化政策や資源政策、エネルギー政策を巡るものである。そもそも地球温暖化/エネルギー政策は、これまでも長年にわたって連立関係を緊張させてきたものである。というのも、とりわけQLD州の自由国民党には、地方経済が強く資源、とりわけ石炭産業に強く依存することもあって、積極的な温暖化対策には激烈に反発する議員が多く、一方、石炭火力発電を重視し、新規に同発電所を建設すべきと主張する向きもあるからだ。

ところが他方で、最近の山火事大災害によって、温暖化対策には消極的なモリソンも、より積極的な温暖化政策を採用すべき、との一部国民からの強い圧力に晒されている。そのため、同政策を巡り、与党自由党と国民党の「造反」議員が、再度鋭く衝突する可能性があるのだ。これは、保守連合内の求心力の低下に他ならず、モリソンのリーダーシップを一層毀損させるものである。当面の注目イシュー、注目議論は、2050年までに温室効果ガスの排出をネットでゼロにするとの問題であろう。

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