連邦予算案の公表

政局展望ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

 周知の通り、今年の初頭から本格化した「百年に一度の一大事件」とされるCOVID-19の世界的感染問題によって、豪州ばかりか、世界を取り巻く環境は激変している。そういった中、モリソン率いる自由党・国民党連邦保守連合政権が10月6日(火)に、通常の公表時期よりも5カ月ほど遅れて連邦予算案を公表している(注:通常は5月の第2火曜日に公表)。

保守連合政権と財政再建

 保守連合政権が誕生したのは2013年の9月で、その後アボット保守政権時代に2回、15年9月に誕生したターンブル政権時代に3回、そして一昨年の8月に発足したモリソン政権としては、今回が2回目の予算案であることから、保守連合政権としては、これで通算7回目の連邦予算案となる。

 当然のことながら、アボット/ターンブル/モリソン保守政権の全7回の予算案は、恐らく「双子予算案」と形容できた第5回目と第6回目を例外として、その内容はそれぞれに「個性的」なものであった。ただ実は、前回までの合計6回の予算案には、共通した特徴、一貫したテーマも看
取(かんしゅ)された。それは、国家財政の再建を重視するという姿勢であった。財政の状況は、有権者にとって政党の経済 運営能力を判断する上で重要な「試金石」であり、そのためリーダーシップへの評価や好悪と並んで、有権者の投票行動を決める重要要因でもあるからだ。また「安価な政府」や市場競争原理を標榜する自由党が、伝統的に重視する分野だからでもある。

 ただし、保守政権の財政再建努力も、「(広義)のネジレ現象」が恒常化している連邦上院による、政府歳出削減策への強い抵抗などもあって、その進展は遅々としたものであった。ところが前々回の18年予算案や、とりわけ前回の19年予算案では、財政再建まで正にあと1歩の状況であった。こういった財政再建問題を巡るポジティブな見方は、つい最近まで、正確には昨年の12月に公表された連邦財務省の年央経済・財政概況報告書(MYEFO)の中でも看取され、同報告書でも昨年度(FY2019/20)には12年ぶりに黒字転換し、その後黒字幅が増大すると予測されていたのである。

COVID-19感染問題と予算案

 ところがCOVID-19の世界的感染問題によって、国内、国際環境が激変している。すなわち、膨大なウイルス感染者数、並びに死亡者数といった、保健、医療問題におけるインパクトはもちろんのこと、それによって一挙に世界経済が低迷する事態となったのである。

 欧州や米国、南米諸国と比較すれば、感染状況は相当に「穏やか」とは言え、豪州でも経済への影響は甚大である。実際に今年の3月四半期に続き、6月四半期も連続してマイナスの経済成長を記録して、景気後退の局面に突入し(注:2四半期連続のマイナス成長と言うのが、景気後退の定義である)、過去29年連続という、経済成長の世界的記録にも終止符が打たれることとなった。

 今回公表された20年連邦予算案は、以上のような劇的な環境変化の中で策定されたもので、当然のことながら、その内容は景気回復、雇用の維持や創出を目的とした、莫大な財政出動策となっている。その結果、昨年度以降の財政の黒字転換どころか、昨年度の基礎現金収支は853億豪ドルの赤字で、今年度は実に2,317億豪ドルもの赤字と予測されている。しかも、今年度がピークとは言え、残り3カ年の予算案見積もり期間中も赤字で、それどころか恐らくは10年後にも財政赤字は解消されない見込みである。

主要政策の骨子

 今次連邦予算案の特筆すべき政策、「目玉」策としては、莫大な規模の財政出動策、すなわち雇用維持/創出のためのビジネス支援策と、一昨年、昨年に続き、消費者コンフィデンスの強化や消費の喚起を目的とした、大規模な個人所得税の減税政策が挙げられる。

 前 者は、例えば即時償却措置の一層の重視である。同施策を通じ、政府は22年の中ごろまでに5万の雇用創出を期待している。また即時償却策と並ぶ 、今次予算 案内のビジネス支援策の双璧が、欠損金の繰り戻し還付政策(Offset Losses)である。更に「ジョブメーカー」(JobMaker)政策も重要で、政府は4カ年で95万の雇用創出を期待している。

 一方、消費の喚起などのための「目玉」、また予算案全体でも最大の「目玉」と言えるのが、既に施行法案が成立している、個人所得減 税
策の第2段階の減税を2年間前倒しにして、今年の7月1日より遡及(さっきゅう)的にスタートさせるとの政策である。コストは4カ年度で178億豪ドルで、変更法案は早々と成立している。なお、24年7月1日より実施される構造的税制改革、すなわち最重要な減税第3段階は、現在のところオリジナル計画通りとなっている。

連邦予算案の特徴と行方

 モリソン保守連合政権にとっては2回目の連邦予算案は、「百年に1度」という、COVID-19の世界的感染の下で策定されたものである。そのため、今次予算案の内容は相当に異例なものとなっている。その特徴、ポイントとしては、主として以下の4点が挙げられよう。

 すなわち、①何と言っても今次予算案の最大の特徴とは、深刻な経済の低迷からの脱却、具体的には、雇用の維持並びに創出を最優先にしていること、②何よりも雇用の維持、雇用の創出を最優先にした、景気回復、経済復興を目指すものとは言え、同時に来年の後半と予想される次期連邦選挙を強く意識した、いわば「一石二鳥」を狙った予算案であること、③これまで財政問題で労働党を徹底的に攻撃してきた保守連合が、財政の悪化をあたかも当然視しているが、これは「プラグマティズム」と言うよりも、保守の根本的な政治哲学、信条を軽視した「節操のなさ」と捉えられる恐れもある、そして④連邦財務省、というよりもモリソン保守連合政府が、COVID-19感染問題と金利問題に関し重大な仮定、要するに政府にやや都合の良い仮定を設定し、それを基に、あるいは土台として、今次予算案を策定していることから、予算案の信頼性に疑義が呈されている、などが挙げられる。

 最後に予算案の行方であるが、確かに今次予算案そのものには不安定要因、不確定要因が存在しているが、ただ各層の反応は相当に好意的である。しかもこういった「非常時」だけに、少なくとも政府政策の施行に関する限りは、通常の予算案に比べて実現性は高いものと思料される。

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