第2次ギラード労働党政権の発足と 今後の政局

政局展望

第2次ギラード労働党政権の発足と今後の政局

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

9月14日、ブライス連邦総督公邸において、労働党政権の新閣僚および政務次官の認証・宣誓式が実施され、同日より第2次ギラード政権が正式に発足している。ただ同政権の前途は極めて多難である。

労働党政権継続の経緯

8月21日(土)に実施された連邦下院選挙は、実に約70年ぶりという「ハング・パーラメント」の状況となり、政権の行方は下院の非2大政党系議員、すなわちグリーンズ(緑の党)の1議員と無所属議員4人の意向次第となった。

そのため、ギラード労働党首相ならびにアボット野党保守連合代表は、選挙直後から、当該議員の支持を得て過半数の76議席以上を獲得すべく、さまざまな懐柔策の提示、具体的には、各種政策や議会制度の改革案、地元や地方へのばら撒き、あるいは議員へのポストの提供などを提示するとともに、各議員からの要求事項も検討しつつ、各議員との交渉を鋭意進めてきた。

そして9月1日には、既に労働党への支持を明らかにしていたグリーンズと与党が公式の連携覚書を交換し、翌2日にはTAS州選出の無所属議員であるウィルキーが、労働党への支持を表明している。その結果、与党労働党は74議席を確保した一方で、野党は73議席のままであった。

結局、政権の行方は、保守系3無所属議員、すなわちQLD州のカッター、NSW州のウィンザー、NSW州のオークショット次第となったが、連邦選挙から2週間以上が経過した9月7日の午後、まずカッターが野党保守連合への支持を表明している。カッターの野党への支持表明は、一部の人々には野党の政権奪取の可能性を高めるものと映ったかもしれない。しかしながら、カッターが単独記者会見を召集した段階で、要するにカッターが野党への支持表明を行う前ですら、カッターが野党を支持するであろうこと、そしてウィンザーとオークショットは労働党を支持するであろうことは、かなりの程度予想できたと言える。

この点について説明すると、まずカッターがわざわざ単独で表明を行ったのは、取りも直さず、カッターとほかの2人の意見が割れたことを示すものであった(注:仲のいい3人が、一般公表の前に互いの支持政党を知らなかったことは有り得ない)。仮に3人が同一政党を支持するのであれば、3者が同時に記者会見を開けばよかったからだ。

他方、上記の仮定に基づけば、仮にカッターが労働党を支持したとすれば、残りの2人は野党支持となるが、その場合、与野党は75議席ずつで並び、3無所属議員全員が是非とも回避したいと願っている下院再選挙の可能性が一挙に高まる。したがって、カッターが単独の記者会見を開くことを公表した段階で、カッターが保守連合支持を表明することが予想されたし(注:カッターは野党が「負け組」になることを承知しながら、すなわち自身の影響力が大きく低下することを承知の上で、野党支持を明らかにしている)、同時に残り2人が労働党を支持することも予想されたのである。

実際に、カッターの記者会見から約1時間半を経て実施されたウィンザーとオークショットの共同記者会見では、はじめに演説したウィンザーが冒頭で労働党への支持を表明し、この時点で(上記の仮定から)労働党政権の続投はほぼ確実となった。数字の上から見ても、ウィンザーの表明時点で与党は75、野党の方は74と、仮にオークショットが野党側につけば、与野党が同数となり、下院再選挙はほぼ不可避となるからだ。

予想通りオークショットも演説の最後に労働党への支持を明言し、その結果、労働党がグリーンズ1議員と無所属議員3人の支持を確保して、何とか合計76の過半数に達し、ようやくにして労働党政権の存続が確定している。

第2次ギラード労働党政権の組閣

政権の維持には成功したものの、後述するように、労働党政府の前途には問題点、障害が山積しているが、ギラード首相は9月11日、そういった困難な状況を乗り切るための新チーム、すなわち第2次ギラード政権の組閣内容を公表している。それによると、閣僚ポストの総数はラッド第1次並びにギラード第1次労働党政権の時と同じく30で、また閣内大臣のポストは20、閣外大臣のポストは10と、その構成比にも変化はない。

周知の通り、6月24日に首相の座に就いたギラードは、連邦選挙を間近に控えていたこともあって、必要とされた改造はごく最低限に留めている。ただ労働党が選挙で勝利を果たした暁には、「ギラード色」を旗幟鮮明にするためにも、また指導力を内外に誇示するためにも、大きな人事変更が実施されるものと予想されていた。

実際にギラード第2次組閣の内容は、政治家ばかりか、各ポートフォリオにも相当な変更がなされるなど、選挙前のフロント・ベンチに比べて大規模な改造人事となっている。一方、一応は閣僚への登竜門とされる政務次官の人事だが、ポスト総数は選挙前と同数の合計12である。

さて今次組閣の特徴だが、その内の1つは信賞人事というものである。2007年12月に発足した第1次ラッド政権の組閣は、フィッツギボンの国防大臣就任、そしてスノードンの閣外大臣就任の2つを例外に、実力主義人事と呼んでよいものであった。ギラードの独自色を鮮明にしたギラード第2次政権の組閣内容にも、首を傾げたくなるような人事はなく、その意味で実力主義人事と見なせるもので、何人かの降格人事にしても、大部分は十分な理由に基づくものであった。ただギラードの人事には、一定の実力は前提としつつも、やはり信賞人事的な面、あるいは論功行賞的な面があるのも否定はできない。

それを如実に示すのが、ショーテンを初入閣させるとともに、アビブを昇格させた人事であった。言うまでもなく「褒美」の理由は、2人がギラード首相誕生の最大の功労者、すなわち「ラッド降ろし」クーデターの中心人物であったからにほかならない。

ただ、以前から将来の党首候補と目されてきた実力者で、人気もあるショーテンはまだいいとしても、「カーテンの背後」で活躍する典型的な派閥実力者であるアビブの昇格人事は、ギラードにはダメージを与える恐れがある。というのも同人事により、ギラードは派閥や労動組合の「紐付き」、あるいは「得体の知れない政治屋」(faceless men)の操り人形、との野党側の攻撃は必至であるからだ。

さらにアビブの昇格は、党内求心力を低める恐れもある。その理由は、党内には現役の首相を葬ったアビブを恨む向きもあるし、また今次選挙での労働党の大苦戦は稚拙な選挙キャンペーン戦略によるところが大であったのだが、その戦略策定を担当したのはアビブの盟友のビター労働党連邦書記長で、しかもアビブ自身も一定の関与をしていたからだ。

さらにギラードの信賞人事の証左としては、(広義の)フロント・ベンチャーである政務次官の人事が挙げられる。今次人事では、07年選挙で上院議員となった2人の議員、すなわちVICのフィーニーと、SAのファレルが新政務次官に抜擢されたが、一般には馴染みが薄いものの、両議員ともに党内右派の実力者で、しかもショーテンやアビブとともに、「ラッド降ろし」で活躍した政治家である。

今後の政局

さて、ギリギリの状況で辛うじて政権維持に成功したとはいえ、ギラード労働党政権の前途は極めて多難である。というのも、与党が上記4議員の支持を得たとは言っても、4人から受けた保証とは、政権維持のために不可欠な2要件のみ、すなわち、㈰政府に対する不信任動議が上程された場合に、同案を支持しないとの保証、そして㈪政府の本予算案に反対票を投じないとの保証、の2つに過ぎないからだ。

換言すれば、政府が今後上程するさまざまな一般法案については、上記4議員は法案ごとに「ケース・バイ・ケース」で対応することとなる。政府にとって問題なのは、労働党とグリーンズおよび左派系無所属議員との間ばかりか、グリーンズおよび左派系無所属議員と保守系の2無所属議員との間にも、イシューによっては相当なスタンスの違いがあることだ。

ところが、与党には採決における票の「余裕」はほとんどない状況で、そのため下院の段階でも、論争を呼ぶような改革、政策関連法案の策定、可決は困難な状況となろう。ギラード首相はグリーンズや無所属3議員と相談しつつ、次期連邦選挙は下院の任期満了近く、あるいは満了後に実施し、しかも選挙日までを特定する予定だが、ただ政局運営が極めて難航した場合には、堪忍袋の緒の切れた労働党政権が、早目の選挙に訴える可能性も排除はできない。

逆に上記政権維持のための2要件の㈰についても、厳密に言えば条件付きで、4人の支持議員は大規模な政府の汚職スキャンダルなどが発生した場合は、要件㈰も保証できないと述べており、仮に4無所属議員、あるいはその一部が、政府への怒り、不満を募らせた場合には、連携破棄を宣言する可能性もあろう。

さらに言えば、仮に労働党議員が何らかの理由で離党した場合や、あるいは労働党議員に欠員が生じ、下院補欠選挙が実施されて野党が勝利した場合など、わずか1議員の変化によっても、労働党は政権の維持に重大な支障を来たすこととなる。しかも下院の状況に加えて、労働党政府は、重要な、それにもかかわらず「ネジレ現象」の続く上院でも、より困難な政局運営を迫られることになろう。

今次半数改選選挙の結果が反映される、新上院の任期がスタートするのは来年の7月1日だが、労働党政権はこれから来年6月までの政局運営でも困難に直面する可能性がある。その理由は、今次選挙で落選した家族優先党のフィールディング上院議員の存在である。

08年7月からスタートした現行上院では、野党保守連合は37議席を保有しており、したがって野党保守連合とフィールディングが反対に回れば、政府法案を否決することができる。ところがそのフィールディングは、今次選挙で落選したのは、グリーンズ候補に優先的に選好票を回すことを決定した労働党のせい、と政府を逆恨みしており、政府に意趣返しする機会を狙っている。

一方、来年の7月1日からスタートする新上院の勢力分布は、労働党31、保守連合34、グリーンズが9、そのほかが2と、グリーンズが単独で「バランス・オブ・パワー」を掌握することとなる。要するに政府の各種法案の内、野党が反対する法案については、グリーンズの支持がない限りは可決できないこととなる。当然のことながら、グリーンズの影響力、発言力が大きく高まることは必至で、今後労働党政府の各種政策は、影響力を増したグリーンズの方へと引っ張られる可能性もあろう。

ただ極めて重要なイシュー、法案に関しては、野党が国益の観点から、グリーンズの反対する政府法案に修正を盛込ませた上で、支持票を投ずる可能性も考えられる。

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