与党労働党の勝利に終わる見込みのACT選挙

政局展望

与党労働党の勝利に終わる見込みのACT選挙

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

 

10月20日に実施されたACT選挙は、セセルジャ率いる野党自由党が善戦したものの、現状通りに労働党がグリーンズの支持を得て、マイノリティー政権の維持に成功する見込みである。

選挙結果とACTの選挙制度

 10月24日時点での選挙管理委員会の票集計によると、与党労働党には1.5%のプラスのスウィング(注:前回の選挙と比較した場合の票の増減)が発生し、ガラハー率いる与党の第1次選好票の得票率は38.9%となっている。

一方、野党自由党の方には、実に7.3%という高率のプラス・スウィングが発生し、野党の得票率も38.9%となっている。

ところが第3政党であるグリーンズには、逆に4.9%のマイナス・スウィングが発生している。

一院制で、4年間の固定任期制を採用するACT議会の政党勢力分布だが、定数17のうち、労働党は7議席(注:選挙前も7)、自由党が8(同6)、そしてグリーンズは2(同4)になるものと予想されている。

結局、前回2008年選挙以降と同様に、政権の行方は「バランス・オブ・パワー」を握るグリーンズ次第となる見込みだが、グリーンズが自由党を支持する公算は低く、労働党は政権の維持に成功するばかりか、連続4選の偉業を達成する見込みである。

さて、連邦直轄地のACTに自治政府が誕生したのは1989年、すなわちホーク連邦労働党政権の時代であったが、皮肉なことに、ACTの住民の多数は自治政府の設置には反対であった。そのACTは、世界でもユニークな選挙/投票制度を採用する豪州の中でも、さらにユニークな選挙/投票制度を採用している。

まず1992年以降、TAS州と同様に、「ヘアー・クラーク制度」という特殊な選挙制度を採用している。これはACTを計3つの選挙区に分け、各選挙区ごとに議員定数を比例代表方式で選出するというものである。

3選挙区の議員定数は、北西部に位置するジニンデラ選挙区が5、南部に位置する広大なブリンダベラ選挙区も同じく5、そして両選挙区のほぼ中間に位置し、ACTの中心部を含むモロングロ選挙区が7となっている。投票は各候補者に優先順位を付ける連記投票制で、ACT有権者には各選挙区の少なくとも定数分の候補者に順位をつけることが要求される。

比例代表制を採用する連邦上院選挙と同様に、ACT選挙でも、いわゆる「当選基数」と呼ばれる当選ライン以上の第1順位票を獲得した候補者がまず当選するが、当選者の数が定数に満たない場合は、当選者の余剰票、すなわち「当選者の得票数マイナス当選基数」が、当選者の得票に記載された第2順位の候補者名にしたがって、当選基数に達していない各候補者に比例配分される。

ちなみに当選基数は、全有効票を定数プラス1で割った票数プラス1票であることから、ジニンデラとブリンダベラの場合は有効票の16.67%、一方、モロングロの場合は有効票の12.5%を得票すれば当選となる。

なお、ACTの人口数は36万5,000人ほどで、有権者数は約25万6,000人となっている。この「ヘアー・クラーク制度」の下では、小政党や無所属議員も比較的容易に議席を獲得することができ、そのため2大政党の一方が議会で過半数を制することは極めて困難となる。

またACTでは、「ヘアー・クラーク制度」に加えて、「ロブソン・ローテーション方式」という、ユニークな制度も採用している。これは、候補者名の記載順が異なる投票用紙を印刷するというものである。すなわちACTの投票用紙では、各政党グループの記載位置は選挙区内の全投票用紙で共通しているのだが、政党グループ内の各候補者名の記載順位が異なっているのだ(注:その結果、1選挙区で何百種類の異なる投票用紙が存在する)。

同方式が採用された理由は、義務/強制投票制を採用する豪州では、任意投票制では決して投票などしない政治的無関心層、あるいは相当に「いい加減な」有権者までが投票を強いられ、こういった有権者は候補者記載順に上から番号をふっていくことが多いからだ。

その意味するところは、候補者記載順が上の候補者ほど有利になることで、そのため「ロブソン・ローテーション方式」では、公平さを確保するために、わざわざ記載順の異なる投票用紙を印刷しているのである。ただ当然のことながら、マニュアルでの集計作業が複雑化することとなり、集計には相当な時間を要することになる。

さらにACTでは01年の選挙より、全国でも初の試みとして、一部の投票所においてオンライン投票方式を採用している。ただ当該投票所でも、有権者が希望すれば、投票用紙を使った通常の投票も可能である。

今次ACT選挙の特徴と意味合い

今次ACT選挙は、結果的には、①与党労働党にはほぼ満足のいくもの、②野党自由党にとってはかなり満足なもの、そして③グリーンズを大いに失望させるものであった。

まず上記の①だが、労働党は議席数を維持する見込みであるばかりか、プラスのスウィングを達成している。確かに、グリーンズとの政権担当交渉がスタートするのはこれからで、野党リーダーのセセルジャは選挙日夜の演説において、今回の選挙でACT有権者が労働党―グリーンズの統治を否定したのは明白と述べつつ、最大議席を擁する見込みの自由党が政権の座に就くのが当然と主張している。ただ、セセルジャのグリーンズ批判の言動からも明らかなように、セセルジャ自身がグリーンズの支持を受けることなど期待していないと言える。

労働党とグリーンズはイデオロギー的にも近いし、一方、とりわけグリーンズが重視する気候変動対策や、同性愛の婚姻問題といった社会政策分野において、グリーンズと自由党とのスタンスには相当な差があるからだ。また、労働党政府の計画する税制改革をグリーンズは支持してきたが、自由党は同改革に反対しているとの事情もあり、グリーンズが自由党を支持することはなおさら困難となっている。何よりも、グリーンズが自由党を支持することは、グリーンズ支持層を裏切る行為であり、「草の根」の強い反撥を惹起する恐れがある。

したがって労働党は、引き続き「キングメーカー」のグリーンズの支持を得て、政権の維持にも成功する見込みである。労働党の長期政権が続いており、そのため、いわゆる「イッツ・タイム・シンドローム」の発生が懸念されていただけに(注:長期政権に飽きがきて、有権者の間にそろそろ政権を替える時期とのムードが生まれること)、政権を維持できるだけでも労働党には満足のいく結果と言えよう。

労働党の善戦の背景には、ガラハーにとって今次選挙が主席大臣としては初陣であったこと、しかもガラハーの個人的人気の高さがあった。

ところで、ACT労働党政権が存続する見込みであることについては、連邦労働党も安堵に胸を撫で下ろしている。というのも、ACTは州のステータスを持たない特別地域で、しかも選挙争点はローカル・イシューに過ぎなかったとは言え、連邦政治のお膝元であるし、しかもACTが労働党の票田という事実から、仮にACT労働党が苦戦、いわんや敗北していた場合には、連邦政治上へのインパクトは必至であったからだ。

より正確に言えば、ACT選挙の結果が一般的な観点から解釈されるのは必至であった。具体的には、連続して労働党が敗北中という、2010年の連邦選挙以降の各地の選挙結果に鑑かんがみ、労働党という「ブランド」自体に回復の困難な傷が付いているとのパーセプションが、一挙に強化される恐れがあった。これは、ギラード連邦労働党内の士気を挫くじく危険なもので、士気の低下が回避されたことに連邦労働党は安堵しているのである。

次に②だが、何と言っても今次選挙での最大の勝者は自由党であった。政権奪取には失敗したものの、そもそもACTは「公務員の街」であることから、保守政党よりは「大きな政府」を標榜する労働党の地盤地域である。そういった中で、ほぼ確実に議席数を2増加させて、ACT自由党としては記録的な8議席を擁し、しかも3大政党の中で最大の議席数を確保したことは、相当な快挙と言えよう。

自由党の躍進の理由だが、まず第1に、自由党の選挙キャンペーン戦略が功を奏したことが挙げられる。連邦制を採用する豪州では、初等・中等教育、保健・医療、道路などの運輸インフラ整備といった、国民の生活に密着する分野は州が主管していることから、州選挙ではこういった分野が常に重要な政策争点となる。一方、ACTは35万人程の人口を抱えるに過ぎない首都特別地域で、しかも州政府の下層に位置する地方自治体も存在していない。そのためACT政府には、州政府よりも地域住民の生活に密着したサービスの提供が要請されることから、上記の生活関連イシューはより重要となる。

その中でACT自由党がターゲットにしたのが、アボット連邦野党保守連合も頻繁に取り上げる生活コストの上昇問題、具体的には住居税の問題であった(注:ACTや地方自治体が徴収する税で、管轄内の不動産所有者に課税される。税額は毎年の地価査定額に基づき決定)。

現在、ガラハー労働党政府は税制改革、すなわち長期的には非効率な給与税や印紙税を廃棄する改革を計画中だが、廃棄に伴いACTの税収入は減少することになる。そのために政府は、住居税の増税で補うことも計画しているのだが、これを自由党は取り上げて、「政府は住居税を3倍に引き上げる計画」とのスケアー・キャンペーンを展開したのである。

これは事実に反するもので、言うまでもなく労働党は強く反論してきたばかりか、「野党は嘘つき」と攻撃してきた。また世論調査では住居税問題は有権者の関心は薄いとされてきたものの、単純かつセンセーショナルな同キャンペーンが効果を上げたのは間違いない。

自由党が大善戦した第2の理由としては、事前の世論調査の影響が指摘できよう。すなわち今週の前半に、地元キャンベラ・タイムズ紙の委託した世論調査の結果が公表されたのだが、同調査は労働党の勝利を強く示唆するもので、またリーダーの評価では、ガラハーがセセルジャを圧倒的にリードしていた。同世論調査結果が、「浮動層」の一部の自由党投票インセンティブを高めたものと思われる。

最後に③だが、前回の08年選挙がグリーンズの躍進を最大の特徴としていたのに対して、今次選挙の最大の特徴はグリーンズの低迷であった。確かに、そもそも前回選挙でグリーンズが4議席を確保したこと自体ができ過ぎであったし、前回選挙での躍進は、単に2大政党への「抗議票」のおかげという面もあった。

ただ今次選挙において、3大政党の中で唯一の「負け組」がグリーンズであるのは否定できない。

グリーンズ低迷の理由だが、過去4年間にわたるACT労働党とグリーンズとの関係は相当にスムーズなものであったことから、前回選挙でグリーンズを支持した一部有権者が、グリーンズによる政局運営の妨害、あるいはわがままぶりに立腹して、今次選挙でグリーンズ離れしたとは考え難い。

むしろACTグリーンズの低迷は、10年8月の前回連邦選挙以降に明らかとなった、全国的なグリーンズの凋落トレンドの一環と見るべきであろう。周知の通り、10年連邦選挙の後に実施された各州選挙、具体的には、VIC州、NSW州、QLD州の各選挙では、グリーンズは軒並み期待以下の戦績となっており、やはり前回連邦選挙でグリーンズ人気はピークを迎えた公算が高い。

しかも今年の4月に「グリーンズの顔」であったブラウンが党首を辞任し、後任にはカリスマ性の欠如したミルが就任したことから、この凋落トレンドにも一層拍車が掛かるものと予想されたが、グリーンズが強いはずのACTでの低迷は(注:ACTでグリーンズがかなり強いとされるのは、グリーンズ支持層にはインテリ層が多いが、ACTは住民の学歴が全国でも最も高い地域であるから)、その予想の正しさを裏付けるものと言えよう。

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