アボット第1次保守連合政権の内閣改造

政局展望

 

アボット第1次保守連合政権の内閣改造

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

2014年12月19日、財務副大臣ポストを停職中であった自由党のシノディノス上院議員が、同ポストから辞任することを公表。これを受けてアボット首相は21日、第1次保守連合政権の改造内閣の陣容を公表している。

内閣改造の動機

政権党は次期選挙を戦う前に、政府が実力主義で選ばれた精鋭で構成されているとのイメージ、あるいはフレッシュなイメージを有権者に売り込むため、内閣の改造を実施することが一般的である。この動機に基づく改造は、2大政党ともに、次期選挙の予想時期のほぼ1年ほど前に実施されることが多い。その理由は、選挙からあまりにかけ離れた時期では、改造による「フレッシュ効果」も選挙までに薄れてしまうし、他方で、選挙に近過ぎた場合には、新しい所掌を担当した閣僚が、選挙直前に担当分野の知識不足を露呈するといった危険性があるからだ。周知の通り、13年9月に政権の座に就いたアボット第1次保守連合政権の場合は、これまでに一度も改造は実施されておらず、スキャンダル絡みでシノディノス財務副大臣が停職扱いとなっていたことを除き、政府の陣容はスタート時と同様であった。そのため、早晩、改造が実施されることは当然視されていたが、実は選挙イメージ対策以外にも、アボットに改造を迫る事情が存在していた。それは、アボット第1次組閣が継続性、安定性を重視するあまり、影の内閣をほぼ横滑りさせただけで、結果的に必ずしも実力主義での人事ではなかったことだ。


13年9月に政権の座に就いて以来、まだ一度も内閣改造は実施されていない(Photo: AFP)

そもそも影の内閣、影の閣僚制度の趣旨は、政権党の閣僚と同様の所掌を野党有力議員に担当させて、当該所掌の専門的な知識、また当該所掌を担当する上で必要な経験を身につけさせることにある。また影の閣僚制度の存在により、野党の政府へのチェック機能も高まるし、しかも政権が交代した場合には、新政権の閣僚は遅滞なく、かつスムーズに閣僚としての職務を遂行できることとなる。したがって新政権の組閣人事が、影の組閣の人事内容と大きく異なることは有り得ず、アボット野党保守連合下で影の閣僚であった者の多くも、そのままの所掌を担当する閣僚となることが予想されたのである。ただ、第1次アボット政権の最大の特徴と言えるのは、持続性、継続性がとりわけ強いという点であった。その背景には、野党時代のアボットが、頻繁に改造を行ってきたギラード労働党政権から保守連合を「差別化」することを狙って、保守連合の影の閣僚の安定性を盛んに喧伝してきたとの事情があった。例えば13年の選挙キャンペーンでは、アボットは保守連合のフロント・ベンチ・チームの経験の豊富さを喧伝し、その証左として、影の閣僚の実に半数弱にも当たる15人が、ハワード保守政権時代の閣僚経験者であると繰り返し喧伝していた。ただそのことは、既に「賞味期限が切れた」政治家が、依然としてフロント・ベンチャーにいること、あるいは閣僚として、かつて「落第点」を取った政治家が居座っていることを示すもので、そして第1次組閣での現状維持志向は、世代交代の希薄さ、そして信賞必罰人事の希薄さを意味するものでもあった。

自由党の若手議員の中には、能力と野心を具えた有望株もかなり見受けられることから、内閣改造によって少なくともその一部を登用しない限り、アボット政府は深刻な火種を抱え続ける恐れがあったのである。附言すれば、伝統的に労働党では、閣僚に誰を選出するかは、党首ではなく、労働党議員総会「コーカス」での投票によって決定される(注:ただし、各議員は自由意思で投票するのではなく、所属派閥の意向、決定に従って投票する)。こうして選出された閣僚候補に対して、党首がポートフォリオを割り振ってきたのである。ところが、07年の選挙で大勝利を果たし、一躍党の英雄となったラッドは、選挙後の第1次ラッド政権の組閣では、誰を、どの所掌に据えるかをほぼ自分だけで決定している。

この新たな人事決定方式は、ギラードにも継承されたが、13年選挙で労働党が下野した後は、伝統的な決定方式が復活している。一方、自由党の場合は、誰を、どこに据えるかは党首の専権事項だが、ただ自由党は国民党と連立しているため、いくつかの「指定席」閣僚ポストについては国民党に渡した上で、任命に関しても国民党の意向を尊重する。国民党議員の「指定席」ポストとは、運輸、農林水産、そして貿易といった、地方在住の第1次産業従事者層、すなわち国民党の支持基盤と密接に関係した閣内の閣僚ポストを指す。ただ、アボット第1次政権の組閣では、実に60年振りに、貿易大臣には自由党のロブが就任している。

改造のタイミング

上述したように、政権党は次期選挙の1年ほど前に内閣改造を実施するのが一般的だが、次期選挙は通常通りの下院解散と上院半数改選選挙の同時選挙となる公算が高く、その場合の実施時期は2016年の8月以降となる。過去の歴史に照らせば、改造の時期は今年の8月前後となるが、評価が低迷し続けているアボット政府には手をこまねいている余裕はなく、改造は今年の第1四半期、早ければ今年の2月9日に議会が再開された直後に実施されると見る向きもあった。それが昨年のクリスマス前にまで早まったのは、シノディノスの辞任宣言があったためだ。そして、昨年の3月より停職中であったシノディノスが突然辞任宣言をした背景には、シノディノスが関与した疑い、あるいは承知していた疑いが持たれている、NSW州の汚職摘発機関による汚職/不正行為への調査が長引き、調査報告書の公表が今年の3月になるとの事情があった。このシノディノスは、ハワード首相の首席顧問として高く評価されていた人物で、しかも経済分野のプロでもある(注:もともとは連邦財務省の高級官僚であった。経済の知識、経済政策の立案能力ではホッキー財務大臣を凌駕し、おそらく保守連合の中では財務相に最適任の人物と言える)。今年度連邦予算案への反撥が強く、また来年度予算案の策定にも困難が予想されることから、シノディノスは極めて貴重な戦力となり得るわけだが、3月にシノディノスの潔白が証明されるまで、改造を延期するのはますます困難な情勢で、しかもシノディノスの潔白が保証されているわけでもない(注:また潔白となったとしても、沈着冷静な賢者と言われてきたシノディノスに油断があった点、慎重さや用心さを欠いていた点は否定できず、シノディノスは政治的には既に「キズモノ」となってしまった)。

そのため、アボットとも相談、合意の上で、シノディノスの早期辞任表明となり、また内閣改造となったものである。ただアボットとしては、とりあえず財務副大臣のポストだけを埋めて、本格的な改造は今年の前半に実施するとの選択肢もあったはずである。ところが比較的小規模とはいえ、今回一挙に改造を実施している。これを、低評価にあえぐアボット指導部の危機感の顕(あらわ)れ、すなわち、可及的速やかに人事を刷新して今後に備えない限り、支持率、評価を浮揚させることはますます困難になる、との指導部の危機感の顕れと見ることも可能であろう。ただ、アボットにとって早期改造のより大きな動機は、党内対策、要するに、自由党党首の絶大な人事権を行使することを通じて、リーダーシップ、権威を誇示し、箍(たが)が緩んだかに見える党内を早急に引き締めることにあったものと考えられる。

内閣改造の内容

今次改造の具体的内容は、①閣内のモリソン移民・国境保全大臣が閣内の社会サービス相に異動(注:「保育」の所掌が追加に)、②モリソンの後任に閣内のダットン保健相兼スポーツ相、③ダットンの後任に閣外のレイ教育補佐相(注:これで閣内の女性閣僚はビショップ外相とレイの2人に)、④閣外のシノディノス財務副大臣が辞任し、後任として政務次官のフライデンバークが初入閣、⑤閣内のパイン教育相が教育・職業訓練相に、⑥政務次官のバーミングハムが閣外の教育・職業訓練補佐相として初入閣(注:レイの後任)、⑦閣内のマクファーレン産業相が産業・科学相に、⑧閣内のジョンストン国防相が更迭されて陣笠議員に、⑨ジョンストンの後任に閣内のアンドリューズ社会サービス相、などとなっている。

また今次改造では、3人の陣笠議員、すなわちポーター、オドワイアー女史、そしてアンドリューズ女史の3人が、閣僚への登竜門とされる政務次官に任命されている。注目すべきはポーターとオドワイアーで、前者はWA保守政権で財務相や法務相を歴任した人物だが、バーネットWA州首相の後継最右翼として、次期WA州首相の座がほぼ保証されていたにもかかわらず、13年の選挙で連邦政界に鞍替えした逸材である。

一方、後者は、かつて自由党のコステロ財務相の顧問であった人物で、弁も立つ若手有望株の1人である。なお、改造後の閣僚総数も、法律による制限枠である30人で、その内、閣内閣僚の数も同じく19人で、また閣外閣僚の数も同じく11人である。ところで内閣あるいは閣議といった場合は、通常は閣内閣僚で構成され、閣内閣僚が常時出席する会議を指し、閣外閣僚は必要に応じて会議に出席するという形をとる。通常、全閣僚30人が参集する会議は年にわずかしか開催されない。一方、幹部政治家と見なされる、あるいは広義の「フロント・ベンチャー」に含まれる政務次官には、法律で最大12人との制限があるが、今次改造後も総数は変化なしの合計12である。ところで、今回の改造で異動したのは全て自由党の議員であり、そのためアボットの裁量だけで改造人事が決定されている。

内閣改造の特徴

今回の内閣改造は、パフォーマンスの低かったアンドリューズが、重要な国防相へと異動したことについては大いに疑問が残るものの、全体的には信賞必罰人事、女性の一層の登用、若手実力者の登用など、ポジティブな特徴を持つものであった。上述した通り、13年の第1次組閣は持続性を最大の特徴とするもの、影の内閣の人事をほぼそのままの形で継承したことを特徴とするもので、換言すれば、必ずしも実力主義に基づくものではなかった。そのため、若手実力者を中心に党内に不満が醸成されていたわけだが、今回の改造人事によって、何よりも人事上の不満から上がっていた指導部に関する「雑音」も、今後はやや低下するものと思われる。信賞必罰人事に関して補足すると、今回の改造人事の内、唯一の更迭人事は⑧のジョンストンの人事だけで、それ以外は昇格人事、あるいは、少なくとも「横滑り人事」であるように見える。ただ、上記②のダットンの移民・国境保全への異動は、実は降格人事である可能性が高い。その理由は、ダットンが所管してきたのは保健・医療分野だが、今年度連邦予算案の中でも最も物議を醸し、政府に大きなダメージを与えてきたのはメディケア共同拠出策であったし、しかもダットンはその変更策が提示された直後に「戦線から離脱」させられたからだ。

また、つい最近まで大きな政治問題で、したがって移民・国境保全の所掌の中では最重要であった、密入国ボート・ピープルの流入も既にストップし、保守政権が存続する限りは、今後大きく増加する可能性も極めて低いが、他方で、強制抑留施設の暴動問題等は今後も燻り続けるからだ。要するに移民の所掌は、最大の戦略目標は既に達成された一方で、政治的ダメージとなる問題を抱え続けているという、担当閣僚にとっては「割に合わない」所掌と言える。最後に、上記①のモリソンの人事だが、改造内容に関しほぼ確実視されていたのはジョンソンの更迭だが、ジョンソンの後任の国防相の最右翼と見なされていたのはモリソンであった。ただモリソンは、今回の社会サービス相への異動には大いに満足しているものと思われる。その理由は、同所掌は莫大な予算を扱う重要な経済関連所掌で(注:予算問題に関する最重要機関である歳出閣僚委員会の構成メンバーでもある)、将来の自由党リーダーを狙うモリソンとしては、経験しておいて損のない、というよりも、安全保障関連分野で経験を積んだモリソンとしては、次に経験しておくべき重要所掌であるからだ。

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