なでしこジャパン、 咲かせた大輪の花

スポーツ特集

FIFA女子ワールドカップ2011ドイツ大会

なでしこジャパン、
咲かせた大輪の花

文=植松久隆(本紙サッカー特約記者)

6月18日(当地時間)まで開催されていたFIFA女子W杯ドイツ大会で、日本女子 代表「なでしこジャパン」が優勝の快挙を成し遂げた。決勝トーナメント(以下・ 決勝T)初戦で開催国ドイツを沈め、勢いづいた日本は準決勝でスウェーデン、決 勝で世界最強の米国を抑え世界の頂点に立った。世界を驚かせたなでしこジャパ ンの快挙を、本紙サッカー特約記者・植松久隆が改めて振りかえる。(文中敬称略)

 

世界に驚き、国内に勇気を与えた快挙

「ドイツか、これは厳しい。無念、ここ までか…」

決勝Tの組み合わせを知った瞬間の偽ら ざる感想だ。同時に「もし、勝ったら勢 いで決勝まで進める」とも思ったが、そ の「もし」が起きた上に、決勝ではどう しても越えられなかった米国という壁を 乗り越えた。そのなでしこジャパンの世 界制覇のニュースは世界を駆けめぐり、 さまざまな海外メディアが、ほかの強豪 国に比べ体格の劣る日本の快挙を驚きと 賞賛をもって伝えた。

国内への影響も計り知れない。3月の大 震災以来、疲弊し切った東日本大震災の 被災地と被災者を勇気付け、国民の気持 ちを1つにした功績はとてつもなく大き い。前例がないとはいえ、なでしこジャ パンのチーム全体に国民栄誉賞を授ける べき、との声が聞こえるのも頷けるだけ の快挙を、彼女たちは成し遂げた。

 

サッカーの神様が微笑んだ

なでしこジャパンの今大会前段階での FIFAランキングは4位。今までの実績を 考えれば、決勝T進出はノルマ、願わくば メダルを逃し4位に終わった北京五輪以上 の成績を、というのが現実的な目標だっ たろう。それが終わってみれば、望外の 優勝。これには長年日本サッカー界を牽 引、なでしこジャパンの名付け親でもあ る川淵三郎・日本サッカー協会名誉会長を して「奇跡ってのは起きるもんだな」と 率直な感想を述べさせた。

そのなでしこジャパンを率いる佐々木 則夫監督は、就任後5連敗(通算成績も試 合前の段階で24戦3分21敗)と圧倒的に 分が悪い米国との決勝を前に「そろそろ サッカーの神様は僕に1勝をくれるでしょ う」と語った。予選3試合、そして決勝T のドイツ、スウェーデンという強敵を連 破してきた中で確実に上がってきたチー ム状態に、監督にも選手にも「最高の舞 台で“米国越え”を果たす」という強い目 的意識が芽生えた。その共通意識が、2度 リードされて2度追いつく粘り強い戦いぶ りに表れた。

その諦めない頑張りに、サッカーの神様 もPK戦の土壇場で「ほろり」と来たのだ ろうか。最後に笑ったのは日本だった。

 

強い気持ちで掴んだ世界の頂点

そもそもなでしこジャパンには、勝た なければならない理由があった。

PK戦に敗れ、表彰式でも悔しさを隠そ うとしなかった米国GKのホープ・ソロ。 彼女の「我々以外なら日本に勝ってもら いたいと思っていた」という試合後のコ メントがすべてを物語る。これは、決して敗者の負け惜しみではない。「国民を勇 気付ける」という崇高な目的の下でチャ レンジし続けるなでしこジャパンの頑張り は、相手選手の心をも捉えた。

表彰式後、岩手県出身のDF岩清水梓が 掲げた被災地へのメッセージには、「東 北の皆さんへ、忘れたことはありませ ん。いつも自分にできることを考えてい ます。今回『良い結果を届ける』その一 心でした」とあった。この思いが日本の 強い気持ちの源泉だった。

W杯のような大会で勝ち上がるには、 実力だけではなく運も味方にしなければ ならない。その運は往々にして強い気持 ちによって導かれる。この大会で日本と 同等かそれ以上のモチベーションを持ち えた国はなかった。

もともとの実力に強い気持ちを併せ 持った日本が、何かに導かれるように世 界の頂点へと駆け上がったのも自明の理 であった。

 

和を以て、世界を制す

今大会の日本は、体格とフィジカルに 勝る相手にパスをつなぎボールを動かし 続けるサッカーで対抗した。今や世代・性 別を問わず日本サッカーの代名詞になっ たその美しいパス・サッカーで、並みいる 強豪を打ち破り、世界の頂点に立った。

そのなでしこジャパンの屋台骨が、攻 守にわたってチームをリードし続けた キャプテンの澤穂希。攻めては決勝戦の起死回生の同点ゴールなど5得点で大会得 点王を獲得、チームの優勝と大会MVPも あわせて見事3冠に輝いた。

澤のような絶対的な存在を抱えながら も、なでしこジャパンの強みは個の力に 限らない。その強さの真髄は、控え選手 も含めてのチームの和にある。決勝を控 えた試合前会見での佐々木監督と選手た ちのリラックスした掛け合い、帰国後の 爆笑チーム会見などチームワークの良さがそこかしこに見て取れた。

ピッチの外でははつらつと笑い、ひと たびピッチに入れば一致団結して強敵に 立ち向かうなでしこジャパン。

和を以て、世界を制す——。こんな表 現で、彼女たちの大会を総括したい。

 

25戦目の大きな“勝利”

ここまで書き進めて、「実はまだ日本 は米国に勝っていない」と書くと「何を 言っているんだ」とお叱りを受けるだろ う。実は、サッカーの公式記録上はPK戦 の勝利は勝ちにカウントされない。あく までも「両軍死力を尽くした120分の激 闘むなしく、試合は引き分け。どちらが 勝者を決めるためのPK戦を行い、結果、 日本が勝者と決した」ということにな る。要は、今回の対戦で米国との通算成 績は25戦4分21敗となっただけで、記録 上は日本は米国に未勝利のままだという こと。

キャプテンの澤は試合後「米国には90 分で勝たねばならない」とコメント。 正真正銘の“米国越え”を果たせていない ことを選手たちはわきまえている。さら に、帰国会見で澤は「人間、欲が出るも ので。ロンドン五輪でも金メダルが欲し い」と宣言。

大一番の直後に次の照準を定め、きっ ちりと「兜の緒を締める」ことのできる 彼女が引っ張るなでしこジャパンなら ば、きっちり“米国越え”を果たしてのロ ンドン五輪での二冠達成も大いに期待し ていいだろう。

 

なでしこの大輪、 決して萎ませることなかれ

なでしこジャパンが世界の舞台で咲か せた大輪の花。その輝きを一過性のブー ムに終わらせてはならない。これを機に 劣悪な女子サッカー界の待遇は改善され る必要があるし、選手層の底上げを担う なでしこリーグの活性化も急務だ。

ほかの強豪国に遠く及ばない女子サッ カーの競技人口を増やすための普及に も、競技人口は国の競技レベル向上に大 きく関連するだけに、さまざまな策を講 じていかねばならない。

日本中に感動を与えた今大会の成功体験 は、男女問わずアジアの真のサッカー大国 を目指す日本にとって大きな道標となる。 日本サッカー発展の道程で、来年のロンド ン五輪、次のW杯でさらなる大きな花を咲 かせ続けられるよう、日本サッカー界がや らねばならないことは多い。

なでしこの大輪の花を決して萎ませる ことなかれ、そう強く願う。

※さらに詳しい試合の解説は49ページのコラムを参照。

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