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Stopped by a Promise/法律相談室

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第73回 日豪プレス法律相談室
Stopped by a Promise

 豪州には公正な商取引を確保するため、“Promissory Estoppel(約束的禁反言)”という法的概念があります。この法律用語は“Stopped by a Promise” の意。約束を信じて不利益を被った人を衡平の観点から保護するための概念です。今回は“Promissory Estoppel”について、例を挙げて説明します。

 シドニー在住のAさんは、アデレードのB社に転職が決まり、転居の準備を進めていました。両者はメールなどで連絡を取り合い、主な雇用条件について合意に至っていました。その時点でB社はAさんと正式な雇用契約を結んでいませんでしたが、Aさんは勤め先を退職し、アデレードへの転居準備を進めました。それから間もなくB社はAさんに、別の人材を雇うのでAさんを雇用する話はなくなったと伝えました。

 この場合、Aさんはpromissory estoppelに従い、B社を訴えることができます。Aさんに雇用を約束した後、心変わりをして別の人を雇うことにしたB社は、少なくともAさんが負った損失を補償することになるでしょう。

 私の専門とする人身傷害に関する賠償請求の案件でよくあるのが、期限に関するestoppel(禁反言)です。同案件の大半には、事故日から3年以内に裁判手続きを開始する必要があるという、請求人にとって厳しい規則があります。この期限を過ぎるとどんなに確実なケースであっても先には進めません。

 しかし例えば、保険会社が指定医による請求人の障害度診断日を、事故日から3年の期限到来後に設定し、レターでその日程を請求人に伝えていたとします。こうした場合、たとえ保険会社と請求人との間に期限延長に関する正式同意がなくても、後から保険会社にとって有利になるよう、保険会社が案件の期限超過に関して問題にすることはestopされて(禁じられて)います。この場合、estoppelは保険会社が自らのアクション(3年の期限到来後に指定医による請求人の診察日を設定)に矛盾、相反する法的権利(期限3年ルール適用)を主張し、請求人を不当に陥れることを阻止します。

 もちろん、当事者間の単純な誤解から契約に関して揉めることもありますので、当然のことながら正式契約書に契約条件を記録しておくことは常に好ましいと言えるでしょう。

 前回でご紹介した、有名な判例「Waltons Stores v Maher」も、MaherにののしられたWaltonsの代表が、弁護士に最終版契約書の作成をゆっくり行うよう指示した(結局契約書は未完成)ことが発端だったと言われています。

このコラムの著者

ミッチェル・クラーク

ミッチェル・クラーク

MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として25年以上の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。豪州法に関する日本企業のリーガル・アドバイザーも務める。高等裁判所での勝訴経験があるなど、多くの日本人案件をサポート。

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