執筆者=ファーズみどり
オーストラリアを代表する3つの公募展、アーチボルド賞展、ウィン賞展、サルマン賞展(通称AWS展)が、今年もNSW州立美術館で開催されています。
1921年に始まり、オーストラリアで最も古く、権威ある肖像画のアーチボルド賞、風景画と具象彫刻のウィン賞、そして歴史・宗教画、壁画などのサルマン賞。幅広い視点と技法が集まり、“今のオーストラリア”を映し出すアートを一堂に楽しめる、年に1度の特別な展覧会です。
中でも圧倒的な人気を誇るのがアーチボルド賞展。毎年テレビや新聞でも大きく取り上げられ、会場には多くの来場者が訪れます。卓越した技術や大胆な表現に驚かされるだけでなく、各界で注目を集める“時の人”がモデルとして登場することでも話題をさらいます。アートを通して、その年のオーストラリア社会を映し出す一大イベントとなっています。
今年のAWS展には応募総数2524点が寄せられ、その中から最終選考に残ったのは137作品。その内、アーチボルド賞には59作品が展示されています。
注目のアーチボルド賞優勝者は、ファイナリスト6度目のベテラン・アーティスト、リチャード・ルアー(Richard Lewer)。モデルとなったのは、ピチャンチャラ族の長老であり、伝統的ヒーラー、そしてアーティストのイルワンティ・ケン(Iluwanti Ken)です。

ルアーは、イルワンティ・ケンが暮らす南オーストラリア州内陸部を訪れ、共に時間を過ごしながら制作を進めました。黄土色の背景には、その土地の熱気と強い光が込められています。小柄な彼女を実物大で描き、鑑賞者と真正面から向き合わせることで、「知識を受け継ぎ、人びとを見守る存在」としての威厳を表現したと語っています。腕に残る絵の具の跡は、まるでつい先ほどまで作品制作に携わっていたかのよう。その姿は現役アーティストとして生きる静かな存在感を放っています。
アーチボルド展ならではの賞に「パッキング・ルーム賞」と呼ばれるものがあります。AWS展では、応募作品は全て美術館へ届ける決まりがあり、最初に作品を受け取るのが美術館のパッキング・ルームのスタッフです。そのスタッフがアーチボルド応募作品の中から“自分たちのお気に入り”を選ぶというユニークな賞です。

今回選ばれたのは、俳優ジェイコブ・コリンズ(Jacob Collins)が舞台で演じた、苦悩に満ちたハムレットを描いた、ショーン・レイ(Sean Layh)の肖像画。舞台上の緊張感までも伝わってくるような印象的な作品です。
今年のアーチボルド賞展には、シドニーで活躍する日本人ファッション・デザイナー、五十川明をモデルにした作品も登場しています。タイトルは「ナナコロビ ヤオキ(七転八起)」。作品にはモデル自身の直筆も取り入れられ、日本文化への敬意と人生観が織り込まれた肖像画です。
この機会に、ぜひNSW州立美術館で“今のオーストラリア”を感じてみてください。
「Archibald, Wynne and Sulman Prizes 2026」展
展覧会期:開催中~8月16日(日)
会場:Naala Nura(南本館)地下2階
入場料:大人30ドル〜
アーチボルド賞展無料日本語ツアー:6月6日(土)~8月1日(土)の毎週土曜日11AM~、予約不要、入場券要、展覧会入口に集合
Web: https://www.artgallery.nsw.gov.au/whats-on/exhibitions/
常設展:無料日本語ハイライト・ツアー
【Naala Nura(南本館)】
毎週金曜日午前11時から。集合場所はインフォメーション・デスク前
【Naala Badu(北新館)】
毎週日曜日午後1時から。集合場所はエントランス・パビリオン

Art Gallery of NSW
ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。
開館時間:10AM~5PM(水曜日のみ10PMまで)
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイト:www.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese