5月12日に発表された連邦予算。一見、移民制度に大きな変化はないように見えますが、本年1月から続く一連の法改正と併せて読み解くと、これは「過去5年で最も重要な移民予算」と言えるものでした。今回は、皆さんの生活やビジネスに直結するポイントを、できるだけ平易にお伝えします。
1. 数字の表と裏
変わらないのに、変わっている
まず数字を整理しましょう。2026/27年度の永住権枠は18万5000で据え置き。これだけ見れば「変化なし」です。しかし「同じ18万5000の中身が大きく変わった」のです。政府は今回、永住権枠を「国内在住者向け」と「国外申請者向け」に明確に分けました。既に豪州に住んでいる人への割り当てが12万9590枠(約70%)。海外から申請する人への枠はわずか5万5110枠。しかも、この海外枠の大半は「長期的な労働力不足に対応する高度技能移民」に充てられるといいます。
純海外移民数(NOM)は、2026/27年度に24万5000、翌年度には22万5000まで下がる見通しです。2022/23年度のピークから既に約45%も減少しています。政府は明らかに、移民数を計画的に絞り込もうとしているのです。今回の予算の本質は「豪州国内にいる人を優先する」という方針の明確化です。これから新たに豪州移住を目指す人には厳しい風が、そして、一時ビザで豪州にお住まいの人には追い風が吹いています。
2. 技術移民の方へ
ポイント制が大きく変わる
技術移民を目指す人にとって、今回の予算で最も重要なのは「ポイント制の見直し」がはっきりと予告されたことです。政府は「より高学歴・高技能・若年層の移民を選ぶ仕組みに最適化する」と明記しました。具体的な制度案はまだ示されていませんが、これまでの政府発表や調査結果から、次のような方向性が見えてきます。
第1に、年齢加点の若年層シフト。現行で最大30点が付与される25〜32歳の枠が、より若い世代を優遇する形に変わる可能性があります。第2に、英語力ポイントの引き上げ。現在の「Proficient」レベルへの依存は、競争力を失うかもしれません。第3に、配偶者ポイントの再評価。技能と英語力を持つ配偶者がいる家庭の優先度が上がる見込みです。第4に、所得ベースの新ポイント導入。豪州での給与が一定水準(おそらく専門技能所得基準額に連動)を超える人への加点が示唆されています。現行制度で招待ラインがギリギリの場合、もはや「自分の点数」だけでなく「いつ申請するか」が戦略になります。26年5月時点で競争力のある点数が、27年5月にも通用するとは限りません。
更にもう1つ、技術移民を検討中の人に知っておいて頂きたいのは、海外からの申請枠が過去10年で最少になったことです。雇用主が海外から人材を呼び寄せる「サブクラス482」「サブクラス186」も、これまで以上に厳しい審査に直面することが予測できます。
一方、既に学生ビザ、卒業生ビザ、雇用主スポンサー・ビザで豪州に滞在している人にとっては、制度が構造的に味方をしてくれます。この優位性は限られた時間のものです。次回の予算で同じ扱いが続く保証はありません。経路を計画し、準備を進めることをお勧めします。
3. 職人・技能者へ
TRA改革は朗報
建設業や電気工・配管工など、技能職の海外資格保持者には、今回の予算で朗報がありました。職業認定機関「Trades Recognition Australia(TRA)」に4年間で8,520万豪ドルの大型投資が決まったのです。この内、560万豪ドルは豪州国内のビザ保有者向けの新しい技能評価プログラムに充てられます。更に州・準州の職業免許との連携も進み、優先職種では就業までの時間が最大6カ月短縮される可能性があるとされています。
評価機関の運営透明性も大きく改善される見込みです。27年から、評価機関は年次業績報告書の公表を義務付けられます。これまで「審査が遅い」「結果が一貫しない」と当方にもご相談頂いてきた問題が、制度的に改善される方向です。これはTRA関連の職種での申請を検討している人たちには朗報と言えます。
4. ワーキング・ホリデー・ビザ
抽選制が拡大
ワーキング・ホリデー(WHM)制度にも変化が予告されました。政府は抽選制度の拡大を明言しています。現在、サブクラス462(Work and Holiday)では一部の国(中国、ベトナム、インドなど)で既に抽選制が運用されていますが、今後はこの対象国が広がる見込みです。これまでのように「準備ができたら申請する」という形ではなく、決められた登録期間内に申請を行い、そこから無作為に選ばれる仕組みになります。抽選制が拡大された場合、登録期間を逃すと次の機会は1年後になります。申請準備がどれだけ整っていても、それまで待たなければなりません。豪州大使館や移民局の最新情報を、定期的にチェックする習慣を付けておきましょう。
5. ご家族・パートナーがいる場合
静かに厳しくなっていく家族関連ビザ
家族ストリームについて、今回の予算は表立った発表をしていません。配分(30%)も変わりません。しかし、実態は確実に厳しくなっていることは否めません。
【パートナー・ビザ】
パートナー・ビザの枠数は変わりませんが、内務省が4月に発表した「パートナー・ビザ・プロセス・ニュースレター」が状況を一変させました。追加情報請求(RFI)は原則として1度限り。提出時点で「審査即可能(decision-ready)」の状態であることが事実上の必須条件となったのです。後から書類を補足する余地は、ほぼなくなったとお考えください。
【親ビザ】
4月22日から「ImmiAccount」経由のオンライン申請に移行しました(LIN 26/005)。手続きは便利になりましたが、処理時間は変わりません。貢献型(Contributory)で約15年、非貢献型で約33年という現実は、政府も繰り返し強調している通りです。
6. 注意すべき点
人格要件(キャラクター・テスト)の大幅拡大
ここは特に説明が必要な部分かもしれません。本年1月22日に施行された「反ユダヤ主義・憎悪・過激主義対策(刑事・移民法)法2026」により、人格要件が大きく拡大されました。新たに導入された第501条(6A)では、ヘイトに動機付けられた行為、禁止憎悪集団への所属や関与、人種・宗教・民族集団に対する優越や憎悪に基づく主張の表明・賛同が、ビザ拒否・取消しの根拠となり得るようになりました。更に、一時的安全保護ビザに関する大臣判断の基準が「するであろう(would)」から「するかもしれない(might)」へと引き下げられています。これは、運用上、非常に大きな変化です。
人格要件はオンライン/オフラインを問わず、表現行為全般に及び得るようになりました。SNSへの投稿、所属するグループ、参加する集会など、日常的な行動が将来のビザ申請・更新に影響する可能性があります。刑事有罪判決がなくても、これらが根拠となり得ます。心当たりのある人、または不安をお持ちの人は、早めに専門家にご相談ください。
7. 最後に
既に豪州国内に一時ビザでお住まいの人にとって、永住権への移行は構造的に有利となる見込みです。海外で技能保持者は、的を絞った高度技能申請であれば道は残されています。サブクラス482で従業員を抱える雇用主の人は、早めに永住権取得のプランについて話し合うことをお勧めします。ご家族のビザを準備中の人は、提出時点で完成された申請書類を用意することが、これまで以上に大切になっています。そのため、正に「動くなら今」という状況になったというのが、今回の予算案のまとめかもしれません
アドバイザー

清水 英樹
オーストラリアQLD州弁護士。在豪30年以上。地元大学卒業後、弁護士資格を取得。フェニックス・グループCEOとして傘下にあたる「フェニックス法律事務所」、ビザ移民コンサルティング「Goオーストラリア・ビザ・コンサルタント」、交通事故ならびに労災を専門に扱う「Injury & Accident Lawyers」を経営
