
初夏になると、毎年思い出す花があります。
私が初めてシドニーでジャーマンアイリスを見たのは、青空が美しい季節でした。大きく波打つ花びらはまるでドレスのように優雅で、その美しさに思わず足を止めたことを覚えています。後に友人から株を分けてもらい、自宅の庭に植えたところ、翌年見事な花を咲かせてくれました。異国で出合った花が自分の庭で咲いた時の喜びは、今でも鮮やかに心に残っています。
日本ではこの季節になると、かきつばた、あやめ、花しょうぶが咲き始めます。よく似ているため見分けに迷うこともありますが、それぞれ育つ環境や花の特徴が異なります。ところが英語では、これらをまとめて「アイリス」と呼ぶことが少なくありません。細かな違いを愛でる日本の感性と、大きく1つの仲間として捉えるオーストラリアの感覚。その違いもまた面白く感じます。
花しょうぶには、忘れられない思い出があります。若いころに師事していた先生から切り花を頂き、自宅でいけていました。1輪が咲き終わり、そろそろ役目を終えたかと思っていたところ、花を包む苞(ほう)の中から次のつぼみが現れ、再び花開いたのです。「まだ咲くの?」と驚きながら、2度楽しませてくれる花の豊かさに感動しました。
花はただ美しいだけでなく、思いがけない発見や喜びを運んでくれます。シドニーのアイリスも、日本の花しょうぶも、私にとっては季節の幸せを届けてくれる存在です。今年もまた、その凛とした姿に心を和ませています。
このコラムの著者
多田玲秋(Tada Reishu)
いけばな作家
Web: https://www.instagram.com/yoshimi_ikebana/