オーストラリアの田舎で暮らせば㊺「自然の落とし物」が語ること

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 空を飛ぶオウムやカワセミの羽根が抜け落ち、花が静かに舞い散り、ユーカリの葉が落ちる。オーストラリアの田舎の森に隣接した生活環境では、鳥や虫、植物などに由来する色とりどりの「自然の落とし物」に遭遇する。1つひとつの自然の落とし物から、オーストラリアの自然の面白さや、自然界と人間界との関わりが見えてくるようだ。(文・写真:七井マリ)

オーストラリア固有の鳥の落とし物

鳥の羽根を運ぶレッドへデッド・スパイダー・アント(red-headed spider ant)

 風もないのに、4センチほどの鳥の羽根が敷石の上を移動している。小さなアリが体の何倍も大きな羽根を運んでいるのだ。アリによく見られるこの行動について調べたところ、「羽根の根本に残った血液や組織などを餌として食べる」説が濃厚らしい。果たして、小さなアリの巣穴に羽根が収まるかどうかも気になるところだが。

 先端が赤い羽根はきっと、バードバスに来るクリムゾン・ロゼラ(crimson rosella/和名:アカクサインコ)のものではないかと思う。真紅と淡い青が基調の鳥で、尾羽根の青紫と白のグラデーションも美しい。

 森に隣接したサウス・コーストの我が家の周辺では他にも、オーストラリア固有の鳥が落とした多様な羽根を見つけることができる。メタリックな緑色の模様入りのモノクロの羽根は、オーストラリアン・ウッド・ダック(Australian wood duck/和名:タテガミガン)。白と黒にくっきり分かれた羽根はオーストラリアン・マグパイ(Australian magpie/和名:カササギフエガラス)かパイド・カラウォン(pied currawong/和名:フエガラス)だろう。

 野生の大きなオウムやタカの羽根はそう多くは落ちていないので特別感があり、知人宅には大人の指先から肘ほどの長さがある豪華な尾羽根が飾られていた。自然の美のかけらを愛でたくなるのは人間の本能かもしれない。地上で暮らす私たちがなかなか目にすることのない野鳥の羽根の繊細な造作は、空を飛ぶものたちの世界を垣間見せてくれる気がする。

ユーカリの木々の落とし物

落ちたユーカリの葉。強風などで枝からちぎれたばかりの葉は濃い緑色をしている

 ユーカリは常緑樹に分類されるが、落葉樹かと疑いたくなるくらいよく葉を落とす。雨が降らず土がひび割れるほど乾燥した日が続くと、ユーカリは自ら葉を落として蒸散量を調節する。例年乾燥が深刻な晩春には、ユーカリの森の中は乾いてベージュになった落ち葉でいっぱいだ。日本なら落葉の季節といえば秋だが、この辺りでは春にも落ち葉が積もり、踏んで歩くと軽快な音をたてる。

 風が吹き荒れる日は、窓の外でユーカリの葉が土埃と一緒に舞い踊る。オーストラリアの田舎町に移り住むまで見たことがなかったユーカリの葉の嵐は壮観だ。外へ出て乾ききった地面から葉を1枚拾い上げると、淡い緑色とかさついた手触りは樹木が本当に水を必要としていることを物語る。そうやってユーカリはオーストラリアの乾いた気候と共に生きているのだ。

 モミジのような落葉広葉樹と違ってユーカリは樹上で紅葉はしないが、乾燥の季節にはオレンジ色や黄色などカラフルなユーカリの落ち葉がそこら中に散らばっている。おそらくは乾燥や病気で弱った葉か、落ちてから枯れるまでの過程で変色したものだろう。自然の中はいつも変わりゆく色彩で満ちていて、うっかり見逃してしまうのが惜しいほどだ。

「袋」に入った落とし物

地面に落ちた大きなミノムシ。巣の中に本体もいるようだ

 落ちた枝の切れ端だと思っていたものがうごめき、よく見ると小枝を寄せ集めた造作で、15センチ近くもあるミノムシだった。日本で見たことのあるミノムシは3センチ程度だったが、オーストラリアの田舎ではスマートフォンの長辺くらいの丈のミノムシが珍しくない。

 ミノガという蛾の幼虫は自分で作った巣の中に収まって、たいていは軒下や木の枝にぶら下がっている。その巣がわらで作った雨具の箕(みの)に似ているとして、日本語ではミノムシの呼び名が付いた。英語だとバッグワーム(bagworm)と呼ぶので、箕でなく袋だ。

 半日続いた暴風で地面に叩き落されてしまったのだろう。私が近づいたせいで一度は動きを止めたミノムシだったが、すぐに頭だけ出して巣ごと移動を始めた。頭はオレンジ色と黒の縞模様で、調べたところサンダース・ケース・モス(saunders’ case moth)と呼ばれるミノガ。前肢の力だけで動いているようだがスピードは意外にも遅くなく、この調子ならぶら下がりやすい枝や軒下まですぐにたどり着くだろう。

小鳥の巣の落とし物

荒天の日に拾った、小さなコーヒー・カップほどのサイズの鳥の巣

 時速100キロ(秒速約28メートル)にもおよぶ暴風の後は、本当にいろいろなものが落ちている。大量の花びらや葉はもちろんのこと、裂けた樹皮、大枝、そして鳥の巣だ。手のひらで包み込める大きさの空の鳥の巣が地面に転がっているのをたびたび見た。この巣に何羽も入っていたであろう雛鳥が、どれほど小さいかよくわかる。

 鳥の巣は小枝や枯れ葉、コケ、鳥の羽根、獣の毛、クモの巣などの材料を組み合わせて作られている。ショックなのは、鳥の巣の材料の一部にプラスチックのような人工物が頻繁に含まれていることだ。菓子袋や飼料袋の断片、ビニールロープの切れ端、発泡スチロールのかけらなど。どれもたいてい劣化していて、鳥や獣による誤食はもちろんのこと、そこから出るマイクロプラスチックも気がかりだ。人の血管や脳に入ったマイクロプラスチックの影響について各国で研究が進められているが、野生動物への影響もきっと小さくはないだろう。

 羽根や木の葉など自然界が生み出した落とし物は、いずれ分解され自然に還る。しかし、人の暮らしから出た落とし物は分解されずに長く自然を傷つけ続けるものも多い。人口の少ない田舎町でも人間の営みが自然に与える影響は大きいのだと、拾った鳥の巣が告げる。

 意図せずとも、何気なく外に放置した空き容器やポケットから落ちたビニール袋が、風に飛ばされ自然を傷つけるかもしれない。ゴミや自然分解されない素材を適切に処理するのはもちろんのこと、できる限りプラスチックなどの使用を減らして自然素材を多く使う暮らし方を意識したい。自戒の意を込めて、ビニール混じりの鳥の巣をしばらく住まいの玄関先に飾っておいた。

著者

七井マリ
オーストラリア在住のエッセイスト。日本での子ども時代の教育体験から海外移住後の田舎暮らしまでを綴ったエッセイ本『高校に行かないと決めた14歳の日から』(文芸社)を2026年2月に上梓

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