執筆者=松田延子

「アバター」という言葉を聞くと、世界的に大ヒットした青いナヴィ族が登場するSF映画『アバター』シリーズを思い浮かべる人が多いかもしれません。けれども、その語源は、サンスクリット語で“神の化身”を意味する「アバターラ」。人が自分の分身を通して世界に働き掛けるという発想は、実はインドで数千年前から語られてきたものです。
その壮大な源流を、圧倒的なスケールで体験できる展覧会が、シドニーで開催中です。
NSW州立美術館の特別展「アバター:ヴィシュヌの化身(Avatar: Forms of Vishnu)」は、南アジア・東南アジア美術の精華を一堂に集めた、オーストラリア初のヴィシュヌ展。1500年以上にわたる信仰と芸術の歴史を、200点を超える作品でたどる、まさに“時空を超える旅”です。
古代の石像、精緻な絵画、神話を織り込んだテキスタイル、そして現代アートやインスタレーションまで──。各展示室を歩むごとに、ヴィシュヌがさまざまに姿を変えて現れます。
そこには、魚のマツヤ、亀のクールマ、猪の頭のヴァラーハ、半人半獅子のナラシンハ、英雄ラーマ、そして愛と知恵のクリシュナの姿があります。混乱が生じるたびに世界を救う“化身”たちの物語は、驚きと美しさに満ちています。
今回の展覧会のために、カンボジア、インド、スイス、イギリスなど世界の名だたる美術館が貴重な作品を貸し出しました。その多くはオーストラリア初公開、中には、通常は国外に出ることすらない作品も含まれています。

特に注目したいのは──
●6世紀カンボジアの「ゴーヴァルダナ山を持ち上げるクリシュナ像(Krishna Govardhana late 500s )」
● 修復を終えたばかりの7世紀カンボジアの「馬頭の化身像 ハヤグリーヴァ/カルキ (Vājimukha(Hayagriva or Kalkin)late 500s to early 600s)」
更に、現代アーティストによる新作も必見です。
デズモンド・ラザロ(Desmond Lazaro)が描く「乳海攪拌(Samudra Manthana, Churning of the Ocean of Milk)」 の巨大絵画は、神々が世界を創造する瞬間を鮮烈に描き出し、ヴェネツィア・ビエンナーレ出展作家スマクシ・シン(Sumakshi Singh)のレース作品は、神話を繊細な糸で“再生”するような美しさを放っています。

これは単なる美術展ではありません。
神話、歴史、文化、そして現代アートが交差する、壮大な“宇宙の物語”なのです。
限定期間(7月19日から8月23日の毎日曜日午前11時)の無料日本語ガイド・ツアーで更に深くお楽しみ頂けます。
「Avatar: Forms of Vishnu(アバター:ヴィシュヌの化身)」展
展覧会期:開催中~10月5日(月)
会場:Naala Badu(北新館)地下2階
入場料:大人$35〜
アバター:ヴィシュヌの化身展―無料日本語ツアー:7月19日(日)~8月23日(日)の
毎週日曜日午前11時から、予約不要、入場券要、展覧会入口に集合
Web: https://www.artgallery.nsw.gov.au/whats-on/exhibitions/avatar/
「Archibald, Wynne and Sulman Prizes 2026」展
展覧会期:開催中~8月16日(日)
会場:Naala Nura(南本館)地下2階
入場料:大人$30〜
アーチボルド賞展無料日本語ツアー:~8月1日(土)の毎週土曜日午前11時から、予約不要、入場券要、展覧会入口に集合
Web: https://www.artgallery.nsw.gov.au/whats-on/events/aws-26-japanese-guided-tour/
常設展:無料日本語ハイライト・ツアー
【Naala Nura(南本館)】
毎週金曜日午前11時から。集合場所はインフォメーション・デスク前
【Naala Badu(北新館)】
毎週日曜日午後1時から。集合場所はエントランス・パビリオン

Art Gallery of NSW
ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。
開館時間:10AM~5PM(水曜日のみ10PMまで)
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイト:www.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese