2026年連邦予算とオーストラリア不動産取引への影響/豪州ビザ・法律最新事情

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 2026年の今、市場は大きな転換期を迎えています。ただ、今回筆者がお伝えしたいのは、「価格が上がるか下がるか」という予測ではありません。あくまでも法律家として、どのような市場環境であれ、「正しい法的手続きと事前準備」こそが、皆さんの資産と権利を守る最も確実な手段であるということです。

26年連邦予算:法的に見て何が変わるか

 今年5月の連邦予算で発表された不動産税制改革は、単なる「税金の変更」ではありません。所有構造の設計、契約条件の選択、売却のタイミング判断など、不動産に関わるあらゆる法的投資判断に影響することになります。

2大改革の概要

【改革① ネガティブ・ギアリングの制限(27年7月1日施行)】

 26年5月12日(予算発表日)以降に取得する既存住宅について、家賃収入の赤字を給与等の所得と相殺することができなくなります。

【改革② キャピタルゲイン税(CGT)の変更】

 50%割引制度が廃止され、CPI連動方式+実質利益への最低30%税率が導入されます。CGTの計算起算日は27年7月1日です(購入日ではありません)。

 信託(トラスト)やファミリー・カンパニーを通じて不動産を保有している場合、CGT割引の適用ルールが個人と異なります。特に家族信託(Family Trust)の受益者分配とCGTの関係は複雑であり、予算改革を機に構造全体を専門家と見直すことが賢明です。

【既存保有者への保護:グランドファザリング】

 予算発表前(26年5月12日以前)に取得ずみの投資不動産については、現行のネガティブ・ギアリングのルールが継続適用されます。

 グランドファザリングの保護は「物件単位」であり、所有者が変わると消滅します。配偶者間の名義変更、相続による移転、信託への移転なども「取得」として扱われる可能性があります。名義変更を検討中の方は、必ず事前に法的助言を受けてください。

不動産取引に潜む「落とし穴」

 前述の法改正の影響により市場が落ち着いてくると、買い手・売り手双方に交渉の余地が生まれる可能性があります。しかし同時に、契約条件をめぐるトラブルも増える傾向があります。以下が市場が沈静化してくる場合に起こり得る問題点となります。

【問題① ファイナンス条項の不備】

 価格上昇が止まった市場では、銀行の評価額(バリュエーション)が合意した購入価格を下回るケースが増えます。ファイナンス条項が曖昧な場合、買い手が法的に契約から抜け出せない状況に陥ることがあります。

対策:ファイナンス条項には「融資金額」「評価額」「承認期限」を明確に記載し、評価額が購入価格を下回った場合の取り扱いを条項内で規定しておくことが不可欠です。

【問題② オークション前売却と冷却期間】

 オーストラリアでは、オークションによる購入には冷却期間(クーリングオフ期間)がありません。売り手がオークション前にオファーを受け入れるケースが増えている現在、書面での合意を急がされる場面が増えています。

対策:オークション前購入の場合でも、冷却期間の有無と条件を事前に確認してください。州によって異なります(例:QLD州では5営業日、NSW州では5営業日)。弁護士による事前審査なしに署名することは避けてください。

【問題③ サンセット条項の罠(オフ・ザ・プランの場合)】

 23〜24年に契約されたオフ・ザ・プラン物件で、建設遅延によりサンセット日(完成期限)が近づいているケースが相次いでいます。デベロッパーが意図的に遅延させてサンセット条項を行使し、より高い価格で第三者に転売するリスクが指摘されています。

対策:サンセット条項の内容(延長条件、解約権の発動要件)を今すぐ確認してください。デベロッパーからサンセット条項による解約通知を受け取った場合は、直ちに法的助言を求めてください。各州の消費者保護法に基づき、一定の条件下でデベロッパーの権利行使が制限される場合があります。

【問題④ 登記・権原(タイトル)の問題】

 外国人が関与する取引では、土地の所有権の移転が適切に完了していない、または未記録の担保権が存在するケースが稀にあります。特に相続や贈与により取得した物件ではリスクが高まります。

対策:タイトルサーチ(登記調査)は全ての取引で必須です。特に日本からの送金で購入する場合、AML/CTF(マネー・ロンダリング防止)規制に基づく書類提出が求められることがあり、事前準備が取引の遅延防止につながります。

国境をまたぐ不動産所有:法的に注意すべき3つのポイント

【①オーストラリアの遺言(Will)は日本の財産を網羅しない】

 オーストラリアで作成した遺言であっても、日本国内の資産に効力が及ぶ場合はありますが、実務上は日本の法律や相続手続との関係で別途対応が必要になることが少なくありません。

そのため、両国それぞれで遺言を作成し、互いに矛盾しないよう専門家のもとで整合性を確認してください。「どちらか一方でいい」という思い込みが後の紛争を招きます。

【②オーストラリアには相続税がない——しかしCGTがある】

 オーストラリアには相続税がありません。しかし、相続によって取得した不動産を売却する際には、キャピタルゲイン税(CGT)が課せられる場合があります。特に今回の予算改革でCGTの計算方法が変わるため、相続後の売却計画は早めの見直しが必要です。

 特に相続した不動産の売却を検討している場合は、27年7月1日の改革施行前後でCGTの負担がどう変わるかを試算した上で、売却時期を判断することをお勧めします。

【③日本からの送金と資金証明】

 マネー・ロンダリング・テロ資金供与防止制度(AML/CTF)の強化に伴い、日本から送金してオーストラリアの不動産を購入する場合には、資金の出所(Source of Funds)や資産形成の経緯(Source of Wealth)に関する確認を求められるケースが増えることが予想されます。特に高額取引では、送金履歴・源泉証明・贈与の場合は贈与契約書等の準備が求められます。

 今後は購入前に手続きを行う弁護士に必要書類を確認し、日本の銀行や税務当局との手続きも含めて早めに準備を進めることが必要です。書類不備による取引遅延は、決済条件違反につながる可能性があります。

まとめ


 連邦予算で示された税制改革により、不動産市場には一定の影響が生じることが予想されます。しかし、市場の動向に惑わされず、ご自身の状況を正確に把握し、信頼できる専門家と共に1歩1歩進む。それが、どのような市場環境でも、皆さんの資産と権利を守るための最も確実な道です。 

アドバイザー

清水 英樹

清水 英樹

オーストラリアQLD州弁護士。在豪30年以上。地元大学卒業後、弁護士資格を取得。フェニックス・グループCEOとして傘下にあたる「フェニックス法律事務所」、ビザ移民コンサルティング「Goオーストラリア・ビザ・コンサルタント」、交通事故ならびに労災を専門に扱う「Injury & Accident Lawyers」を経営

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