
七夕を迎えるころ、山々では幾重にも緑が重なり合い、濃淡を織りなす木々が、夏の訪れを静かに告げています。
私はこの時季になると、決まって会いたくなる木があります。それが、青もみじです。
なかでも「鴫立沢(しぎたつさわ)もみじ」は、とりわけ心惹かれる存在です。驚くほど薄い葉は、陽の光を受けると向こうが透けるほど繊細で、細やかな葉脈はまるで自然が描いたレースのよう。風が吹けば、さらさら、ゆらゆらと揺れ、その姿は、幼子の掌を思わせる無垢な愛らしさがあり、眺めているだけで心に涼やかな風が通り抜けていきます。
「鴫立沢」という名は、鴫が沢辺から羽ばたく姿に由来すると聞きました。羽を広げ、水の流れに寄り添うように飛び立つ姿と、この繊細な葉の形が重なったのでしょう。名の由来を知ると、ひと枝のもみじが風景を語り始め、自然の営みに美を見出し、その情景を言葉に映してきた豊かな感性に、あらためて心を動かされます。
オーストラリアでは、ユーカリやバンクシア、ワックスフラワーなど、大地の息吹を感じる花材に出合います。その力強さも魅力ですが、そこへ青もみじをひと枝添えるだけで、空間には静けさと余白が生まれます。いけばなが大切にしてきた「間」の美しさは、葉ものがあってこそ育まれるものなのかもしれません。
秋の紅葉は、目を奪い、青もみじは、心を奪うもの。
強く主張することなく、光を透かし、風に揺れ、季節を映しながら、そっと寄り添ってくれる。その美しさは、年を重ねるほど、いっそう愛おしく感じられます。
だから私は、今年もまた青もみじに恋をします。
このコラムの著者
多田玲秋(Tada Reishu)
いけばな作家
Web: https://www.instagram.com/yoshimi_ikebana/