海と川、そしてルーツへの旅/NSW州立美術館ボランティア・日本語ガイド便り

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執筆者=森岡薫

Billy Bain in the exhibition ‘Billy Bain: By the River’ at the Art Gallery of New South Wales, 4 July – 8 November 2026, artworks © Billy Bain, photo © Art Gallery of New South Wales, Diana Panuccio

 NSW州立美術館の「コンテンポラリー・プロジェクト」シリーズはオーストラリアのアーティストが新作を発表する重要なプラットホームです。現在その一環でダラグ族(シドニー大都市圏西部先住民)のアーティスト、ビリー・ベインの新作個展「ビリー・ベイン:川のほとりにて」が開催されています。これはNSW州立美術館の155年の歴史の中でダラグ族アーティストによる初めての個展となります。

Billy Bain:By the River

 シドニーを拠点とするベインは、陶芸、彫刻、絵画などを手掛ける多分野アーティストです。マンリーで生まれ、シドニー北部のアバロンで育った彼にとって、水、サーフィンは人生に欠かせないもの。サーフィンを通して海とつながり、彼のサーフ・カルチャー及び風刺的な美学を持つ具象彫刻で知られています。

 シドニー北部のビーチにはディアルビン川/ホークスベリー川の河口で海水と淡水が出合う場所もあり、川沿いの祖先への土地、物語とのつながりをベインに与えてくれました。

Installation view of the ‘Billy Bain: By the River’ exhibition at the Art Gallery of New South Wales, 4 July – 8 November 2026, artworks © Billy Bain, photo © Art Gallery of New South Wales, Diana Panuccio

 展示場の中央には、ダラグ語で「家族」を意味する、「Mudjin」と題された彼の家族や友人たちを表した像と犬1匹が展示されています。ビキニやショート・パンツ姿の人びとが、先頭を歩く「Warami(ダラグ語でHello)」とプリントされた帽子をかぶった人物に続き、行列を作っています。背は膝丈ほど。一見ユーモラスで個性的な群像ですが、ここには少年時代に地元の海でしばしば“よそ者扱い”された、ベイン自身の経験が重ねられています。「ビーチはかつても今もアボリジナルの空間だ。全ての人に開かれた場所を取り戻す」──そんな彼の強い意思がこの作品には込められています。

 一行の頭上にはダラグ語で「ブラ」と呼ばれ長い鰭(ひれ)を持つウナギのソフト・スカルプチャーが浮かび、彼らを導くように展示されています。このウナギはベインの母親であるキャスリーン・ベインとのコラボレーションで制作されたテキスタイル作品です。共同制作や交換といった行為を通して、文化が水のように世代を超えて流れていく様子が表現されています。ベインは、海水から淡水へ戻る「ブラ」の生態が、祖先の文化へ回帰しようとする自分自身の姿と似ていると語ります。

Billy Bain ‘Wallu-mill (Bullhead shark)’ 2026, oil on canvas; wood, oxide and underglazed ceramic, 179.5 x 139 x 5 cm, collection of the artist © Billy Bain

 壁に展示される物憂げなトーンで描かれた5点の新作絵画は、海水から淡水へ至るベインの旅路をたどるものです。その旅はアバロン・ビーチの日の出を描いた「Betungi(牡蠣)2026」で始まり、アダイアル川/ホークスベリー川を上流へ進み、夕暮れ時の「Gadial(煙)2026」で終わりを迎えます。全ての額縁はベインの友人で大工のウイル・バジャーがリサイクル木材を使用し制作し、はめ込まれたタイルは川の旅で出合った光景を描いたベインの作品で、展示場にはその旅でとらえた鳥の声などが流れてきます。

 シドニーはまだ冬ですが、ぜひご来館頂きたい、ホークスベリー川の川沿いの旅、そしてサーフィン文化をお楽しみください。

特別展:Billy Bain: By the River(ビリー・ベイン:川のほとりにて)展
会場:Naala Badu(北新館)地下2階
期間:開催中~11月6日まで
入場料:無料

Archibald, Wynne and Sulman Prizes 2026展
会場:Naala Nura(南本館)地下2階
期間:開催中~8月16日まで
入場料:大人$30/32(詳細は美術館公式サイトで要確認)
日本語ガイド・ツアー:6月6日~8月1日の毎週土曜日午前11時。予約不要。入場券を購入の上、展覧会場入口集合

Avatar: Forms of Vishnu(アバター:ヴィシュヌの化身展)
会場:Naala Badu(北新館)地下2階
期間:開催中~10月5日まで
入場料:大人$35~
日本語ガイドツアー:7月19日~8月23日の毎週日曜日午前11時。予約不要。入場券を購入の上、展覧会場入口集合

常設展:無料日本語ハイライト・ツアー
Naala Nura(南本館)
毎週金曜日午前11時から。 集合場所はインフォメーション・デスク前
Naala Badu(北新館)
毎週日曜日午後1時から。 集合場所はエントランス・パビリオン

Art Gallery of NSW

ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。

開館時間:10AM~5PM(水曜日のみ10PMまで)
Webwww.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイトwww.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese

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