最低賃金が週1,004.90豪ドルに──初の「4桁」時代へ 2027年度のキーワードは「見える化」と「待ったなし」/豪州ビザ・法律最新事情

SHARE

 2026年度は、ここ数年続いてきたオーストラリア労働法改革の集大成とも言える年です。最低賃金が史上初めて週1,000豪ドルを突破し、7月1日からはスーパーアニュエーション(退職年金)の給料日払いが義務化。育児休暇給付の拡充、競業避止条項の禁止に向けた動きなど、雇用主・従業員の双方に直接影響する変更が相次いでいます。雇用法を専門とする弁護士の視点から、在豪日本人の皆さんに特に関係の深いポイントを解説します。

①最低賃金が週1,004.90豪ドルに──初の「4桁」時代へ

 公正労働委員会(Fair Work Commission)は26年6月2日、年次賃金審査(Annual Wage Review)の決定を発表しました。26年7月1日以降の最初の給与期間から、

全国最低賃金(National Minimum Wage):週1,004.90豪ドル(時給26.44豪ドル)
モダンアワード(産業別最低賃金):一律4.75%引き上げ

 となります。全国最低賃金が週1,000豪ドルを超えるのは史上初めてです。

従業員の方へ:7月最初のフル給与期間の給与明細で、新しいレートが反映されているか必ず確認しましょう。カジュアル勤務の方は、25%のカジュアル・ローディングが新レートに基づいて計算されているかもチェック・ポイントです。

雇用主の方へ:リスクは「時給幾ら」という表面的な数字ではなく、その裏側にあります。年俸制(annualised salary)でアワード上の残業代や手当てを「込み」で支払っている場合、賃金改定の度ににそのバッファーは目減りします。意図的な賃金未払い(wage theft)は現在、刑事罰の対象です。飲食業や小売業など、日系ビジネスに多い業種はアワード依存度が高いため、年1回の給与監査を強くお勧めします。

②「ペイデー・スーパー」始動──四半期払いの時代は終わり

 26年7月1日から、スーパーアニュエーションは給与と同時に支払うことが義務化されました。拠出金は給料日から7営業日以内に従業員のファンドに着金しなければなりません。従来の四半期ごとのまとめ払いは廃止です。

従業員の方へ:これは非常に重要な改正です。スーパーが毎回の給料日ごとに「見える化」されるため、未払いがあればすぐに気付けます。マイガブ(myGov)などでファンドへの入金を定期的に確認する習慣を付けましょう。

雇用主の方へ:これは単なる法令順守の問題ではなく、給与システムの問題です。入金処理の遅れや新入社員のファンド情報の登録漏れが、そのままスーパーアニュエーション・ギャランティー・チャージ(SGC)や利息、ATO(国税庁)のペナルティーにつながります。給与計算の締め日、クリアリングハウスの処理日数、入社手続きのフローを今すぐ点検してください。

③育児休暇給付が26週間に拡大+スーパー付き

 26年7月1日以降に出生・養子縁組した子どもについて、政府の有給育児休暇(Paid Parental Leave)は最大130日(週5日勤務換算で26週間)に拡大されました。両親それぞれに「使わなければ失効する」枠が設けられ、共働き家庭での分担取得が促されています。更に、25年7月1日以降に出生した子どもの分から、政府育児休暇給付にもスーパーが上乗せされるようになりました。

 長期的な資産形成における男女格差(特に出産・育児で離職した女性の年金格差)に対応する、構造的に大きな1歩です。

④競業避止条項(Non-Compete)の禁止へ──2027年カウントダウン

 連邦政府は、高所得基準額(high-income threshold)未満の労働者について、雇用契約における競業避止条項を27年から禁止する方針を確定しています。禁止は将来に向かって適用される予定で、企業間の引き抜き禁止協定や賃金固定協定も併せて禁止されます。

従業員の方へ:「退職後○年間は同業他社で働けない」という契約条項に縛られて転職をためらっている人は多いはずです。27年以降の新規契約では、大多数の労働者についてこうした条項は無効になります。ただし、現時点で既存の契約条項が自動的に無効になるわけではない点に注意してください。現行法では「合理性」の有無で有効性が判断されます。

雇用主の方へ:法律の成立を待つのは得策ではありません。今のうちに、①基準額未満の従業員の契約を洗い出す、②秘密保持条項・知的財産条項を強化する、③(現時点では禁止対象外の)顧客・従業員の勧誘禁止条項(non-solicitation)を適切に設計し直す──という3ステップの準備をお勧めします。

⑤その他の注目ポイント

男女平等目標の義務化:従業員500人以上の企業は、賃金格差是正やハラスメント防止などの具体的目標を選択し、WGEA(職場男女平等庁)に報告する義務が始まりました。

労働者派遣(Labour Hire)ライセンス制度の拡大:南オーストラリア州は全業種に適用を拡大、ビクトリア州は審査基準を厳格化しました。

国民雇用基準(NES)の全面見直し:09年のFair Work法制定以来初となるNESの包括的な議会調査が進行中です。ギグ・ワーク、リモート・ワーク、AIの時代に「安全網」が機能しているかが問われています。

まとめ

 今年の改正に共通するキーワードは「見える化」と「待ったなし」です。規制当局は事後チェックからリアルタイム監視へ移行し、従業員は自分の権利を確認する手段を得ました。一方で、競業避止条項、NDA、四半期スーパー払いといった従来の「雇用主側の道具」は次々と縮小・撤廃されています。  ワーキング・ホリデーや学生ビザで働く人、日系企業の駐在員・現地採用の人、そして日系ビジネスのオーナー──立場を問わず、この変化の波は全員に関係します。「知らなかった」が最も高くつく1年になりそうです。

アドバイザー

清水 英樹

清水 英樹

オーストラリアQLD州弁護士。在豪30年以上。地元大学卒業後、弁護士資格を取得。フェニックス・グループCEOとして傘下にあたる「フェニックス法律事務所」、ビザ移民コンサルティング「Goオーストラリア・ビザ・コンサルタント」、交通事故ならびに労災を専門に扱う「Injury & Accident Lawyers」を経営

SHARE
ビジネスの最新記事
関連記事一覧
Google Adsense