
食後に胸が焼けるような感じがする、胃酸が上がってくる、胃が重い、胃がムカムカする――。こうした胃の不調は、多くの人が一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
日本では「胃薬」とひとことで呼ばれる市販薬が多くありますが、オーストラリアの薬局では、症状に合わせて薬を選ぶのが基本です。
特に「胸焼け(heartburn)」「胃酸逆流(acid reflux)」「胃もたれ・消化不良(indigestion)」は、似ているようで少しずつ症状や原因が異なります。今回は、オーストラリアの薬局でよく相談される胸焼けや胃酸逆流を中心に、代表的な薬をご紹介します。
胸焼けと胃酸逆流はなぜ起こる?

食べ物は口から食道を通って胃へ運ばれます。胃と食道のつなぎ目には「下部食道括約筋(lower oesophageal sphincter)」という筋肉があり、食べ物を胃へ通した後に閉じることで、胃の内容物が食道へ逆流するのを防いでいます。
ところが、この筋肉が一時的に緩んだり、胃に食べ物がたくさん入って圧力が高くなったりすると、胃の内容物や胃酸が食道へ逆流することがあります。これが「胃酸逆流(acid reflux)」です。
また、年齢を重ねるにつれて、この括約筋の働きが弱くなり、逆流が起こりやすくなることもあります。以前は何ともなかったのに、年齢とともに胸焼けが気になるようになったという方も少なくありません。
食道は胃と違って、強い酸から守る仕組みが十分ではありません。そのため、胃酸が食道に上がってくると、胸のあたりが焼けるように感じる「胸焼け(heartburn)」が起こります。酸っぱいものが口まで上がってくる、げっぷが増える、のどに違和感がある、といった症状を伴うこともあります。
食べ過ぎ、脂っこい食事、アルコールなどは症状を起こしやすくすることがあります。また、食後すぐに横になると逆流しやすくなるため、夕食から就寝までの時間を空けることも大切です。
ストレスや睡眠不足も、胃の不快感や胸焼けを悪化させることがあります。仕事や生活環境が変わった時期に症状が増えた場合は、食事だけでなく、睡眠やストレスとの関係も少し振り返ってみるとよいでしょう。
こうした症状が繰り返し起こったり、日常生活に影響するようになった状態がGORD(gastro-oesophageal reflux disease:胃食道逆流症)です。GORDは単に「胃酸が多すぎる」ということではなく、胃の内容物が食道へ逆流することが問題となります。
まずは生活習慣を見直してみる
胸焼けが時々起こる程度なら、薬を使う前に生活習慣を見直すだけでも改善することがあります。
・一度にたくさん食べず、食事量を控える
・食後すぐに横にならない
・夕食は寝る2~3時間前までに済ませる
・脂っこいものや辛いものを控える
・コーヒーやアルコールなど、症状のきっかけになるものを控える
・体重が気になる場合は、適正体重を目指す
・喫煙している場合は禁煙を検討する
ただし、症状を引き起こす食品には個人差があります。「コーヒーは絶対にダメ」ということではなく、自分の場合は何を食べた時に症状が出やすいのかを知ることがポイントです。
軽い胸焼けには制酸薬

オーストラリアの薬局で、軽い胸焼けや胃の不快感に使われる代表的な薬がantacid(制酸薬)です。
例えば、
- Mylanta
- Gaviscon
などがあります。
Mylantaなどの制酸薬は、胃の中にある酸を中和して、胸焼けや胃の不快感を一時的に和らげます。
一方、Gavisconに代表されるalginate(アルギン酸)を含む製品は、胃の内容物の上にバリアを作ることで、胃酸が食道へ逆流するのを抑える働きがあります。
これらには液体タイプだけでなく、チュアブル(噛んで服用する)タイプなど、さまざまな剤形があります。自宅では液体、外出時にはタブレットなど、自分が使いやすいものを選ぶのもよいでしょう。症状や好みに合わせて、薬剤師に相談しながら選んでみてください。
ただし、制酸薬は他の薬の吸収に影響することがあります。普段から薬を服用している方は、薬剤師に相談してから使用しましょう。
頻繁な胸焼けにはPPI

胸焼けが頻繁に起こる場合には、PPI(proton pump inhibitor:プロトンポンプ阻害薬)というタイプの薬が使われることがあります。
PPIは胃酸を作る働きを抑える薬で、オーストラリアでは一部の製品を薬局で購入することができます。例えば、esomeprazole(エソメプラゾール)やpantoprazole(パントプラゾール)などがあります。
PPIは非常に効果の高い薬ですが、飲んですぐ症状を止めるタイプではありません。症状の頻度や程度に合わせて、決められた方法で使用することが大切です。
また、「胃薬だから」と自己判断で長期間飲み続けるのではなく、症状が続く場合には、PPIが本当に必要なのかを医師や薬剤師と一度見直すことも大切です。
胃の不調は「胃酸」だけが原因ではない
胃もたれや胃の痛みがあるからといって、必ずしも胃酸が多すぎるとは限りません。
例えば、Helicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ菌、H. pylori)は、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などに関係する代表的な細菌です。また、イブプロフェンなどのNSAIDsを長期間使用することで、胃の粘膜に負担がかかることもあります。
H. pyloriが原因の場合は、単に市販の胃薬を飲み続けるのではなく、検査を受け、必要に応じて抗菌薬とPPIなどを組み合わせた治療を行います。
「胃薬を飲めば治る」と自己判断せず、症状が繰り返す場合は原因を調べることも大切です。
こんな時はGPへ
次のような症状がある場合は、薬局で市販薬を選ぶだけで済ませず、GPに相談しましょう。
・胸焼けが頻繁に起こる
・市販薬を使っても改善しない
・食べ物が飲み込みにくい、つかえる
・原因不明の体重減少がある
・吐血や黒い便がある
・繰り返し嘔吐する
また、強い胸痛や息苦しさ、冷や汗などがある場合は、胸焼けだと思っても心臓の病気の可能性があります。自己判断せず、緊急の医療対応が必要です。
まとめ 胃薬は「症状に合わせて選ぶ」
オーストラリアの薬局では、「胃薬をください」だけではなく、胸焼けなのか、胃酸が上がってくるのか、胃もたれなのかなど、症状を確認してから薬を選びます。
たまに起こる軽い胸焼けなら、食事や生活習慣を見直したり、MylantaやGavisconなどを利用したりする方法があります。一方、症状が頻繁に起こる場合には、PPIなどが適していることもあります。
「どの胃薬を選べばいいか分からない」という時は、薬局で薬剤師に相談してみてください。薬を選ぶだけでなく、「この症状ならGPに行った方がいいのか」といった相談もできます。
メールでのご相談も受け付けています。薬や健康について気になることがあれば、お気軽にご連絡ください

Profile
鐵池めぐみ(カナイケメグミ)
薬剤師。シドニー大学薬学部卒業後、オーストラリア薬剤師国家資格を取得。シドニー及び南オーストラリア州の大学病院で、がん治療を中心とした臨床薬学に20年以上従事。現在は、がん治療の研究に携わる傍ら、薬局を拠点に英語と日本語で薬の相談や服薬支援を行っている。
Email: megkanaike@gmail.com