豪州国境警備隊(ABF – Australian Border Force)が、トレーニング(サブクラス407)・ビザを対象に、4カ月間の全国一斉調査を始めました。狙いは、偽の「訓練・トレーニング」で移民労働者を働かせる悪質な雇用主です。研修生を受け入れる企業も、407ビザで働く皆さんにも関わるお話を、今月はできるだけ分かりやすくお伝えします。
5月末、ABFが「トレーニング(サブクラス407)・ビザ」の全国一斉調査に乗り出しました。最初の1カ月だけで、6つの州・準州で100件を超える職場を訪問。これから全体で200件以上を回る予定だといいます。「うちには関係ない」と思われた人も、少しだけお付き合いください。
1. そもそもの話
「トレーニングビザ」って、どんなビザ?
サブクラス407は、職場での体系的な訓練・専門能力の開発のためのビザです。あくまで「学ぶ」ことが目的で、一般的な就労ビザとは違います。人手が足りないから穴を埋めてもらう、という使い方は想定されていません。
カギになるのが「きちんとしたトレーニング・プラン」です。何を、どのくらいの期間で、誰の指導のもと、どこまで習得するのか──これが文書で定められていて、実際にその通り運用されている必要があります。プランが名ばかりで、実際は普通の現場作業をさせている……。そうなると、もう「訓練・トレーニング」とは呼べません。今回の調査は、まさにこの「建前と実態のズレ」を見つけにきています。
2. 何が起きているのか
地方を中心に、全国で一斉調査
この調査は内務省の「スポンサー監視ユニット」が主導し、4カ月間続く予定です。標的は、偽の訓練制度やトレーニング・プランなどを使って移民労働者を搾取する雇用主。都市部だけでなく地方部が重点という点も特徴で、ダーウィン、タウンズビル、ゴールドコースト、アルバリー、ワガワガ、バララット、マーガレット・リバー地域など、全国各地の事業者が訪問を受けています。
ABFは、雇用主と研修生の双方に聞き取りを行い、訓練の中身が本物かどうかを確認します。調査は公正労働オンブズマン(FWO – Fair Work Ombudsman)と連携して進められています。併せて公表された数字も見逃せません。

特に55%という拒否・取下げ率は驚きです。今年度に407ビザを申請した人の半分以上が通っていないということ。これほどの規模の現地調査と合わせて考えると、内務省がこのビザを「要注意」とみなし、入口(申請)から現場まで一貫して厳しく見ている様子がうかがえます。
3. 研修生を受け入れている企業へ
研修生を受け入れている、あるいはこれから受け入れる企業は、訓練・トレーニングの取り決めを「申請の時だけの手続き」と考えないことが重要です。抜き打ちの訪問が、現実に起こっています。本来の目的においてトレーニングを施す必要があるというだけで、難しいことではありません。次の5つを確認しておきましょう。
チェック・リスト(受け入れ企業向け)
① 訓練計画を「実際に」使う。 計画と日々の業務が一致していますか? 書類だけあって中身は通常業務というのが一番危険です。
② 欠員補充に使わない。 承認された訓練と関係のない仕事をさせるのはNG。ABFが既に問題視しています。
③ 賃金・手当てを正しく全額払う。 研修生も他の従業員と同じ権利があります。「訓練だから」は低賃金の言い訳になりません。
④ 記録をそろえておく。 監督体制、進捗、勤務表、給与明細、訓練計画。矛盾なくすぐ出せる状態に。
⑤ 聞き取りに備える。 担当官は雇用主と研修生の両方に話を聞きます。説明が食い違えば、すぐ分かります。
移民法のもと、ビザ保有者を搾取する行為(無給の「訓練」を含む)は重大な刑事犯罪で、罰金や禁固刑の対象になり得ます。更に、悪質なスポンサーはプログラムからの除外やスポンサー資格の停止にも直面します。今回の調査は、まさにそうした業者を制度から外すためのものです。
4. サブクラス407ビザで 働いている人へ
あなたの権利は、ビザの種類では変わりません
407ビザ──いえ、どのビザであっても、豪州で働くあなたを法律は守ります。内務省も「全ての労働者は、ビザの種類に関係なく公正に扱われる権利がある」と改めて明言しています。
知っておいてほしいこと
① 他の従業員と同じ権利があります。 適正な賃金・手当てを受け取る権利は、トレーニング・ビザでも変わりません。
② 実質は労働なのに無給の「訓練」は違法です。 「訓練」の名目で普通の仕事をさせられ、正しく払われていないなら、それこそ当局が探している状況です。
③ 無料で相談できます。 FWOが無料で相談に応じています。Web: fairwork.gov.au、またはTel: 13 13 94 へ。無料の通訳はTel: 13 14 50です。
④ 通報しても、あなたのビザは守られます。 FWOは、職場の違反を通報した人のビザを保護する仕組みがあるとしています。動く前に、ご自身の状況について助言を受けると安心です。
5. 最後に
この調査は、2026年の豪州移民制度全体の流れ「整合性(インテグリティー)を重視する」方向とひとつながりです。学生ビザの審査強化、人格要件の拡大、パートナー・ビザの証拠要件の厳格化。そして今回のトレーニング・ビザ。全て同じ方向を示しています。
ただ、ここは強調しておきたいところです。本物の訓練・トレーニングを提供する真面目な企業と、そのもとで学ぶ研修生にとって、この調査は脅威ではなく「プロテクション(保護)」です。悪質な企業が淘汰(とうた)されれば、正しくやっている企業の土俵が公平になり、そこで育つ人たちも守られます。
内務省から通知が届くと短期間で回答を求められることになり、そこでの対応を誤ると深刻な結果を招くことになります。できるだけ早い段階で専門家に相談することが、より良い結果につながります。
アドバイザー

清水 英樹
オーストラリアQLD州弁護士。在豪30年以上。地元大学卒業後、弁護士資格を取得。フェニックス・グループCEOとして傘下にあたる「フェニックス法律事務所」、ビザ移民コンサルティング「Goオーストラリア・ビザ・コンサルタント」、交通事故ならびに労災を専門に扱う「Injury & Accident Lawyers」を経営
