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2018年度EYグロースバロメーター調査結果(オーストラリア版)について【後編】

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税務&会計 REVIEW

EYジャパン・ビジネス・サービス・ディレクター
篠崎純也

プロフィル◎オーストラリア勅許会計士。2002年EYシドニー事務所入所。日系企業や現地の企業の豊富な監査・税務経験を経て、現在NSW州ジャパン・ビジネス・サービス代表として日系企業へのサービスを全般的にサポート。さまざまなチームと連携しサービスを提供すると共に、セミナーや広報活動なども幅広く行っている

2018年度EYグロースバロメーター調査結果(オーストラリア版)について【後編】

EYは毎年ミドル・マーケットの経営陣を対象に企業の成長戦略について調査を行い、その結果を「Growth Barometer」と題した報告書で公表しています。今年の調査は、21カ国の年間売上高100万~30億米ドルの企業幹部2,766人を対象に、2018年1月15日~3月1日に実施しました。更に、EYがグローバルで独自に行っているプログラム「Entrepreneur Of The Year」のアルムナイ・ネットワークにも参加を求めました。調査は、英語及びその他6カ国語で実施され、更に具体的な洞察を得るため綿密なフォローアップ面談を3月から4月に行いました。前回に引き続き、オーストラリアに焦点を当てた主要調査結果を紹介します。

成長への課題

与信の引き締めと資金繰りの問題は、オーストラリアのビジネス・リーダーの最大の脅威となっています。調査によると、回答者の24%(全世界:16%)は信用のアベイラビリティーが成長に対する最大の外部リスクだと考えています。こうした状況は、銀行、スーパーアニュエーション、金融サービス業界の不正行為に対するオーストラリア王立委員会の目下の調査が新たな貸し出し制限につながるという懸念を反映しているのかもしれません。信用のアベイラビリティーと資金繰りの脅威に僅差で続く脅威として挙げられたのが世界の経済成長の鈍化または横ばい(回答者の23%)で、これはオーストラリアのミドル・マーケットにおけるグローバルな成長への強い熱意を反映しています。一方、輸出が売上高の20%超を占めると回答した人の割合は3分の1以上(35%)だったにもかかわらず、地政学的な不透明感を脅威と感じる回答者の割合は2017年から8パーセント・ポイント低下して3%となり、懸念点として規制や貿易障壁を挙げたビジネス・リーダーは更に少数にとどまりました。今年は世界的な緊張や貿易戦争への懸念が尽きることのない年となっていますが、地政学的な不安定さが心配されるのは成長に影響を及ぼす場合に限られるようです。

変化に敏感に反応し続ける

運営面では、世界的なトレンドと同様、キャッシュ・フローの不足が成長の最大の足かせとなっています。オーストラリアの回答者のほぼ半数(48%)がこの問題を指摘しており、この割合は他の国・地域(34%)と比べて非常に高い数値となっています。こうした回答状況は変化に敏感に反応し続けなければならないことへのプレッシャーを反映し、販売サイクルの変化、業界統合、予測不可能なオンライン購買パターン、eコマースへの移行、消費者の嗜好(しこう)の変化に応じるための早急な投資に充てるためのキャッシュの必要性を増大させている可能性があります。今回、サプライチェーンの改善と業務運営の効率性が成長を加速させる最大の要因だとする回答者が36%に上り、更には新たな事業機会を評価する際に2番目に重視する要因として利益率を挙げる回答者の割合が2017年から23%上昇して30%となりましたが、その理由はキャッシュ不足とそれを回避しなければならないことに起因している可能性があります。

与信とキャッシュへのアクセスをめぐる2つの懸念は、新規株式上場(IPO)を検討しているオーストラリアの回答者の割合が4分の3以上(76%)と他の国・地域の回答者の割合(44%)を大きく上回る理由を示唆しているのかもしれません。また、これらの懸念は、政府による実行可能な成長支援策として法人税減税が第1位にランクされた(これを指摘した回答者の割合は48%と高く、しかも他の国・地域の29%を上回りました)理由も示している可能性があります。

より強力なチームを結成する

健全な兆候として、オーストラリアのビジネス・リーダーは自社の成長見通しを持続可能と考えており、半数近く(49%)が正社員の数を増やすことを計画しています。ギグ・エコノミー(※)から遠ざかるという国際的なトレンドとは反対に、オーストラリアのビジネス・リーダーは依然として数多くの契約社員及びフリーランス労働者(回答率は21%)、非常勤社員(同16%)を雇用する考えであり、現在の従業員数を維持する考えの回答者は9%と他の国・地域(35%)を大きく下回りました。

雇用計画

下記のグラフは、2017年と18年における企業の雇用優先順位とAIの使用状況を表示しています。

オーストラリアのミドル・マーケットはデジタル時代にふさわしい適切なスキルセットに目を向けており、適切なスキルを備えた人材が成長を加速させる要因の第2位にランクされています。更に50%の回答者が、理想的な組織は若年層の「デジタル・ネイティブ」なスタッフを引き付ける組織だと指摘しています。オーストラリアでは他の国・地域とは対照的に、人材不足への過度な懸念はないようです。すなわち、スキルを備えた人材の不足が成長の最大の足かせだと回答した人の割合は他の国・地域が13%だったのに対し、オーストラリアでは1%に過ぎませんでした(2017年から13パーセント・ポイント低下)。

雇用契約の比較

ダイバーシティーの推進

オーストラリアの企業幹部は貴重なスキルを重視しているにもかかわらず、雇用の最優先課題としてダイバーシティーの推進を挙げています(回答率は65%で、2017年からは58パーセント・ポイントと異例の増加を示しました)。多くの調査が示しているように、ダイバーシティーはチームの効率性と成功及び意思決定に大きく寄与する要因であり、本調査でも女性がCEOを務める17%の企業の目標成長率は15%を超えることを示しています(これに対して男性が経営者を務める企業の目標成長率は5%にとどまっています)。

グラフィック・デザイン・プラットフォームの「Canva」のオブレヒト氏は、考え方のダイバーシティーが性のダイバーシティと同様、雇用主と顧客の両方にとってプラスだと考えており、次のように述べています。

「平等に多様化されたコミュニケーションのためのベスト・プラクティスを構築するには、考え方と見通し及び表現のダイバーシティーを1つにまとめることが鍵を握っています。この目標を達成するため、Canvaが全ての人にとって最も働きやすい場所になるよう、私たちは常に働き続ける必要があります」

まとめ

オーストラリアは、急成長が期待されているアジア諸国に近いこともあり、今回の調査では世界的にも群を抜いた成長率予測を示しています。特に、オーストラリアのミドル・マーケットは、海外進出による事業拡大やビジネスの変化を見据えたAIの導入などに対して積極的であり、またイノベーションを推進するために従業員の創造性などに目を向けていることが分かりました。早いペースで変化しているビジネス環境に目を向け、継続的に成長戦略を見直していくことが大切と言えます。

(※)ギグ・エコノミー(Gig Economy)は、インターネットを通じて単発の仕事を受注する働き方や、それによって成り立つ経済形態


EYジャパン・ビジネス・サービスのウェブサイトはこちらから
www.ey.com/AU/en/JapanBusinessServices

コンタクト

篠崎純也
Tel: (02)9248-5739
Email: junya.shinozaki@au.ey.com

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