悔し涙を希望に変えて、南へ──林萌々、NPL、そしてブリスベンでのラスト・ダンス/日豪フットボール新時代 第170回

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試合後、勝者のセレモニーを見つめる林(手前右)。その表情には悔しさがあふれていた。この時には既に移籍は決まっていた。だからこそ、勝ちたかった

 ピッチ上の誰よりも悔しかった。

 いつもの着慣れたホームの黄色と紺のジャージではない。だが、ゴールドコースト・ユナイテッド(GCU)のエンブレムを胸にプレーするのが最後だと分かっていた。だからこそ、自分のキャリアと共にあり続けたクラブに惜別のタイトルを残し、苦楽を共にしたチーム・メイトとトロフィーを高々と掲げたかった……。

 GCダービーとなったQLD Cup決勝で惜敗した直後、さまざまな思いが込み上げた林萌々(31)は、しばし茫然自失。応援に訪れていたブリスベン・ロアのチーム・メイトとフェンス越しに言葉を交わした後、「泣いてないよ」と精一杯強がってみせたが、その目には光るものが見えた。

 引き上げてきた彼女は、「悔しいです。このクラブでの最後の試合で勝てなくて、タイトルを逃して……」と声を振り絞った。その脇を、敗戦のショックから既に立ち直ったかのような笑顔の若いチーム・メイトが通り過ぎる。この辺の意識の違いが、この日のピッチ上にも表れていたのではないか。試合に対する熱量が、林のそれと他の選手のそれとはあまりにも違って見えた。その辺の感想を試合直後ながら遠慮なくぶつけてみた。

 「そうですね。ピッチ内外でずっと、そういう意識の部分はアプローチしてきたんですけど……。やっぱり難しい。もう(セミプロの)NPLではやり切ったかな」

 ここ数年は、Aリーグのロアと、シーズン・オフにはGCUを掛け持ちしてプレーしてきた林。8月11日にはニュージーランドのオークランドFCに招待され、インビテーション・イレブンの一員として、世界的なスターをそろえるチェルシーと相見える機会もあった。大敗を喫したものの、個人としては世界レベルを体感、真のプロ・フットボーラーとはどんなものかを目の当たりにした。

 そんな時に舞い込んできたのが、本人曰く「プロだったら誰も断れないような良い話」。世界中にネットワークを持つシティ・グループ傘下のメルボルン・シティからのオファーだった。愛するゴールドコーストを離れ、勝手の分からないメルボルンへ行くことへの不安がないわけではなかったが、迷いはなかった。何よりも、正真正銘のフルタイムのプロ・フットボーラーとしてプレーできる環境こそ、もう若くはない林がさらに自らのキャリアを高みへと押し上げていくためにも必要だった。

 NPLクラブのレジェンドとしてのラスト・ダンスを終えた林は、メルボルン・シティでの活躍が新たな世界への扉を開くとの希望を胸に、オーストラリア大陸を南下する。

植松久隆(タカ植松)

ブリスベン在住のライター/コラムニスト。日豪フットボール関係を軸に、現地視点で競技の背景と熱量を描くスタジアムとコミュニティーを往復する観測者。Nichigo Press以外にも、多くの日本のメディアで執筆

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