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NSW州“大分水嶺山脈”2泊3日の石探し紀行 後編/トミヲが掘る、宝石大陸オーストラリア 第27回 

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硯(すずり)鉱山跡地。硯を採るため水晶を捨てていた場所だけに、掘れば掘るだけ出てくる

 3日目、朝5時。スワッグ(オーストラリア発祥の小型テント)から這い出ると周囲には牛の大群。こちらのことなど一向に気にせず、優雅に朝ご飯(草)を食べている牛の群れを横目に、こちらも朝食を済ませ、お弁当をちゃちゃっと作ってしまう。今回は都合により3日だけの参加で、この日が最終日。スワッグを畳み荷物を車に積み込んで、帰り支度を済ませてから採掘ポイントへと向かう。

 今回の遠征の目玉でもある、キャンプ場から30キロほど北西にある町トリントン(Torrington)がこの日のねらい目。ここもその昔、硯(すずり)の鉱山があって、石英のみならず、トパーズ、エメラルドなどの宝石が見つかることで有名な場所だ。道が少々険しいので、仲間の頑丈そうな車に乗り込み、いざ出発。トリントンの森を走ること5分。道端に大きな穴があちらこちらに見えてきたら、そこが硯鉱山跡地だ。





これが硯の結晶。見た目以上にずっしり重い

 コーディネーターによる危険事項の確認後、穴に気を付けながら皆で鉱山跡地の散策を開始した。すると、足元にはなんとクラスター状に集まった水晶がゴロゴロしているではないか。これだけ見つかると逆に持ち帰るのが大変になるので、気に入った形とサイズの水晶だけを拾い集めた。

 2メートルほど先で、「あったー!」と声が響いた。昨日、大物を見つけたあの仲間だ。「ツイてるなぁ」。両手に重さ3キロはありそうな水晶の塊を抱えて大興奮の仲間の姿を見て、少し羨ましい気分になったが、「次は自分の番だ」と思い直して歩を進める。

5kgくらいの重さはあろうかというクラスター・クォーツを見つけた仲間

 午前中いっぱい山歩きをして、ランチ休憩の後は、更に山奥へと進み、小川でウェット・シービングでトパーズを探すことに。先ほど駐車した場所から小道を通って川幅1メートルほどのポイントに到着後、さっそく仲間の1人が、露払いだと言わんばかりにふるいを振ると、どうだ !? ひっくり返したふるいの中央部分に無色透明、ギラリと力強く輝くトパーズの原石が!

 約3カラットでカットもできるサイズのトパーズとの突然の出合いに一同、大興奮。我先にと川の石をすくい、ふるいにかけ始める。すると、あちこちから「あったー!」と歓声が上がる。

「これは良い兆候だ」と念じてふるった僕のふるいにもギラリ! 実はこのポイント、今までに何度か挑戦してみたものの1度もトパーズに出合うことがなかった曰く付きのポイント。更に山火事とコロナが追い打ちを掛け、ただでさえ訪れづらくなっていた場所で、遂に目標が達成できた。

 小さくてカットできるサイズではないが、ねらっていた宝石をねらった場所で捕獲したことにテンションはだだ上がり。その後も青みがかった物などトパーズが次々と見つかるも、全て小さな欠片ばかり……。

小川でのトパーズ探し。この直後、手前のカップルが8カラットのトパーズの結晶を探し当てる!

 すると、3メートルほど上流で石を洗っていたカップルの叫び声が聞こえた。皆が一斉に石探しの手を止め、「何だ、何だ」とカップルの方へ歩み寄ると、そこには小ぶりだか完璧な結晶を保った無色透明のトパーズの姿が。トパーズ独特の側面は、4面のように見えるが実は8面で、縦に走る無数の成長線に上下の面は真っ平という完璧なトパーズの結晶だ。早速、重さを測ると、なんと8カラットの大物。正直、こんなにも完璧なトパーズの結晶に出合えるなんて予想外で、皆で大いに喜びを分かち合った。

「次こそ、俺の番だ!」と気持ちを切り替えてのセルフィー。どこで何と出合うか分からない、それこそが石探しの醍醐味なのだから

 その後、1時間ほど探すがこれといった成果は得られないうちにキャンプ場へ引き上げる時間が来てしまった。停めていた車に戻ると、なんと、自分の所属するゴールドコースト宝石細工クラブのメンバーが、「おーい、トミヲ!」と手を振っている。さすが、石好きの世界は狭い! 握手を交わしてから話を聞くと、ここ2週間ほどキャンプをしながら周辺で石探しをしていたらしく、トパーズの他にアクアマリンとエメラルドも見つけたとのこと。「やはりここには宝石がある」そんな確信を胸に抱き、再挑戦を誓ってトリントンの町を後にした。

トリントンで掘り出したトパーズ。欠片ばかりで残念だが、宝石であることに違いはない。なかなかカットできるサイズとクオリティーの石に出合うのは難しいが、それも石探しの宿命だ

 キャンプ場に戻ってから、3日間お世話になったブリスベンのクラブ・メンバーに別れを告げて帰宅の途に。道中休憩しては何度も車内で助手席に並べた戦利品を眺めたり触ったりして愛でる。今回の忘れがたい素敵な経験を噛み締めながら、ゆっくりと車を走らせていると、いつもより帰路に時間が掛かってしまったのはご愛嬌。

 あー、楽しかった。これだから石探しはやめられない。

(この稿、了)

トリントンで掘り当てたさざれ石のようなクラスター・クォーツ

このコラムの著者

文・写真 田口富雄

在豪25年。豪州各地を掘り歩く、石、旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。そのアクティブな活動の様子はYouTube(https://www.youtube.com/@gdaytomio/featured)やインスタグラム(@gdaytomio https://instagram.com/leisure_hunter_tomio)、TikTok(@gdaytomio https://www.tiktok.com/@gdaytomio)に詳しい。宝探し、宝石加工に興味があれば必見。前・ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長。23年全豪石磨き大会3位(エメラルド&プリンセス・カット部門)





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