異国情緒が漂う神戸のギャラリー北野坂で、いけばなの展覧会が行われました。斬新なデザインを有するコンクリート打ちっ放しのギャラリー内には、個性あふれる作品の数々が展示されていました。壁から枝を伸ばして森のようになった空間や、絵の具を水面に垂らし、偶然にできた模様を紙に写し取るマーブリングという技法を用いた芸術表現にトライしました。色彩豊かな紙を重ね合わせて、いけばなに組み込んだ合作なども夢のあるものでした。
私の作品は、柿の古木を組み合わせてガラス越しのライトアップに映えるよう作りました。窓の向こう側にある風景や、作品の背景にはクロスされた太い鉄骨の線があり、既に存在する環境を考慮しつつデザインすることの難しさを感じた機会でもありました。
いけばなを学んでいた母は、いつも作品鑑賞に来てくれます。ちょっとした意見もなかなかのもので、それを聞くことで良いインスピレーションを得られます。母が私に伝えた印象的な言葉の中に「既にある空間を生かした作品は見応えがある」というものがあります。あるがままの環境で花を咲かせている自然界の植物にはかないませんが、どんな境遇にあっても自分らしく花を咲かせて欲しいという母心を感じました。
「私のいけばなの原点は何だったのだろうか」と自分に問い掛けてみました。幼少期、母が習ういけばなレッスンについて、お稽古の邪魔にならないよう残った花材を集めて、自分流に小さな花をいけること。そこには何ものにもとらわれない心があって、やってみたいなと思うことだけでした。
時を経て、花をいけて喜んで頂けることはとても幸せで、さまざまなシーンで花いけをさせてもらえることにも深く感謝しています。初めて出合う花材、花器、場所が三位一体となって、いけばなの作品が見応えあるものになるのなら、どんな環境でも花がいけられることを目標にやってみよう! 与えられたことを大切に、余さず学びに変えていきたいなと思います。
このコラムの著者
多田玲秋(Tada Reishu)
いけばな作家
Web: https://www.7elements.me/