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オーストラリアで日本包丁が人気/出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~ 其の六拾三

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シェフズ・アーマリーのホームページより(Web: www.chefsarmoury.com)

 このところオーストラリアで日本包丁の人気が更に高まっている気がしています。私のクラスの生徒の中には、日本包丁の魅力は侍の刀に通ずるものがあると、とても大切にされ、使うのを惜しんでいる人さえいます。しかし、包丁は使用してこそ、その良さが味わえるもの。メインテナンスを怠らず、どんどん使って食生活を楽しんでもらいたいものです。

 日本料理の人気と共に道具も注目されるようになり、食材の切れ味に対する認識と探究心を持つ人が増え、包丁の人気が高まりました。1990年に入ると、日本の包丁ブランド「グローバル(GLOBAL Knife)」が海外でのシェアを広げ始め、オーストラリアの包丁の会社でもグローバルを意識した日本スタイルの包丁の開発が進むと同時に、本物の日本の和包丁を日本から購入したいという人も増えました。そして2000年に入ると、オーストラリア国内でも日本の包丁を専門に扱う店が現れ始めました。

 その中で今回紹介するのは、シドニーで2007年にオープンした「シェフズ・アーマリー(Chef’s Armoury=シェフの武器庫)」。開店以来、心強い響きの名前が、プロのシェフの心を惹きつけ続けています。

オーナーのレイ・ハドソン氏と奥様のステファニーさん

 オーナーのレイ・ハドソン氏はレストランのキッチンで働き始めた10代後半のころ、店のシェフが包丁のメインテナンスを怠らず、真摯に包丁を磨く姿に感銘し、共鳴したことから、包丁に興味を持ったと言います。それがきっかけで、その後、ソムリエとしての経験を積みながら、包丁の探究のために何度も日本に足を運んだと言います。

 シェフズ・アーマリーが開店した当時、和包丁を扱う専門店として地元紙「シドニー・モーニング・ヘラルド」に大きく取り上げられ、私も店を訪れて話を聞きかせてもらいました。

 ハドソン氏は「日本との連絡や交渉においては、職人たちと電話かファクスで連絡を取り合うのがほとんどで、連絡手段は今のようにスムーズではなかった」と当時を振り返ります。その後、時間を掛けて日本中を周り、大阪の堺で包丁研ぎの修行を積み、オーストラリアで「研ぎ師」と呼ばれるまでになりました。

 西洋料理でよく使われている西洋包丁は、強くて丈夫でメンテナンスが楽です。日本の包丁は、薄くて切れ味が良く、繊細な物が作れるが、欠けやすく、手入れに手間が掛かる。しかし、ハドソン氏はオーストラリアのシェフたちに向け、日本の包丁の良さを知ってもらい、オーストラリアの食文化を向上させてもらいたいと、訴え続けたのです。

 また、和包丁を扱うには手入れや研ぎを学ぶことが不可欠と考え、和包丁の販売と同時に、09年から包丁研ぎのクラスを開講。これまで約5000人がシェフズ・アーマリーでクラスを受講したそうです。

 12年には奥様のステファニーさんが会社を退職し、シェフズ・アーマリーに本格的に参加。強力なパートナーを得たハドソン氏はその後、ソムリエ経験を生かして「Kikizake -shi(日本酒の利き酒師)」の資格を取得。同時に米国人日本酒伝道師、ジョン・ゴントナー氏が開催する「Sake Professional Course」を受講します。その後、WSET(英国に本校を持つWine & Spirits Education Trust)で講師の資格を得た後、メルボルンのリッチモンドにシェフズ・アーマリーの2号店をオープン。日本包丁の販売と共に、日本酒のプロモーションへと事業を拡大させました。そして現在では、ロンドンで開催されるIWC(International Wine Challenge)酒部門の審査員を務めているそうです。

 シドニーのシェフズ・アーマリーは16年、アレクサンドリア(Alexandria )からスタンモア(Stanmore)に移転し、その隣にオーストラリアで最初の日本酒店をオープン。ハドソン氏はそこで日本酒のクラスを開設するなど、オーストラリアでの日本酒伝道師としての活動を活発に行っています。

 そして23年には、シェフズ・アーマリーの3号店をアーターモン(Artarmon)にオープンしました。ハドソン氏いわく、「Little Japanese Village」の雰囲気が漂うアーターモンの「Wilkes Avenue」に店を持つのが夢だったそうで、シェフズ・アーマリーが加わることで、この街の魅力が更に増すことでしょう。日本の包丁、砥石(といし)、火鉢などの調理道具がそろう専門店です。ぜひ1度、お立ち寄りください。

■Chef’s Armoury 

Web: www.chefsarmoury.com 

シドニー・スタンモア店
105-107 Percival Rd Stanmore NSW

メルボルン・リッチモンド店
422 Church St., Richmond VIC

シドニー・アーターモン店
13 Elizabeth St ., Artarmon NSW

■「和包丁」取扱店

Knives & Stones 
Web: www.knivesandstones.com.au 

このコラムの著者

出倉秀男(憲秀)

出倉秀男(憲秀)

料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese Cuisine、Japanese Cooking at Home, Essentially Japanese他著書多数。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流師範、四條司家師範、四條司家公認天日大膳宗匠、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使。2021年春の叙勲で日本国より旭日双光章を受章





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