ワーホリの方々からよく仕事の問い合わせを頂きます。私自身もワーホリ出身。まだ、Wi-Fiがなかった時代、ほぼ直談判で仕事を探していたので、仕事探しには、すごく苦労しました。20年前はあまり選択肢がなかったのが正直なところです。誰でもより良い条件で働きたいもの。歩合制か時給制のどちらが良いか、雇う側、雇われる側、両方を経験した私の意見をお伝えしたいと思います。
時給制のメリットとデメリット
仕事探しの問い合わせでよくあるのが「時給制の仕事を探しています」。時給制なら、そこにいれば、必ず給料がもらえます。現在は、時給保障をすることが定められており、もし、歩合で稼げなかったら、時給保障をすることになっていますが、実際は保証されないこともしばしば。私のファームでは、ほとんどの仕事は時給制ですが、必ず今日は何箱、何本、何列などというノルマがあり、ノルマを達成しない場合、クビになります。少し厳しく聞こえるかもしれませんが、これだけ仕事の問い合わせがある中で、ノルマを達成しない人を雇うほど優しい世界ではありません。
時給制の場合、働く前から給料がいくらになるか大体見当が付きます。約束されている感じがするし、「頑張ってできなくても、給料がもらる」というのが良い点かもしれません。しかし、多くのファームでは、ノルマに達さないのならクビ、もしくは、下から何位まではクビになるなど、シビアだと思います。ノルマを達成できないことがプレッシャーになり、それが嫌で辞める人も多いです。
歩合制のメリットとデメリット
時給制で働きたい人が圧倒的な中で、歩合制でもできる人は、時給制の給料よりも稼ぐことができます。それでも場所によって、作物のできが違ったりするので、良い時は稼げるし、悪い時やシーズンの終わりは稼げなかったりすることも多いです。時給制に比べれば、いつトイレに行こうが、ランチを食べようが指摘されない所が多いので、ノルマのプレッシャーもなく、比較的に自由に仕事ができます。
クビにするということ
ファームで働く場合、ほとんどがカジュアル・ポジションです。たまに、フルタイムでの雇用もあるみたいですが、すごく稀だと思います。その中で、私のファームでは大体3日でノルマに達さなければ、クビになります。それは働く前にお伝えし、了承して頂いていますが、それでもクビにされると納得がいかない人がたまにいます。以前「お前の仕事は教えることだろう。クビにされて納得がいかない」とSNSで悪徳ファームだと言われたことがあります。確かに私は、3日頑張って教えたのに、できないどころか、ぶどうの木の枝を折られてしまいました。枝を折られると、数年その木から実は成らず、おいしいぶどうができません。そして、給料まで払わないといけない……。もちろん、彼の気持ちは良く分かります。誰だって、頑張ったことは報われたいと思いますが、ビジネスとして成り立ちません。
オーストラリア政府もユニオンと呼ばれる労働組合も、時給に見合わない場合はどうぞクビにしてくださいと謳っています。人間として、もちろんクビにしたくてしているわけではありません。ビジネスとして成り立たないことに加え、その人がどうこうではなく、ただ仕事が合わないということもあります。時給保障になってから、特にクビにするファームが増えたのは事実です。青果物やミルク、肉の値段はそんなに変わらないのに、人件費ばかりが上がっているからだと言えます。私がファームを始めた10年前は時給が19ドルだったのに、現在は28ドル。それにも関わらず、ぶどうの売り値はほぼ同じで、ファーマーもクビにしたくてしているわけではありません。日本のように終身雇用だったとしたら、数年は新人教育に力を入れたいところですが、オーストラリアのファーム・ジョブは1日だけの仕事もある中で、即戦力以外のものは何もいらないのが現状です。
また、いくら仕事ができても、シーズンの終わりなどは、クビにされることもあります。私の住む地域では、先週300人がクビになりました。そういうことが日常的に起こるので、カジュアル・ポジションは、給料が高いのです。
今できることを精一杯取り組む
ファーム・ジョブの先輩として言えることは、歩合制でも時給制でも、とにかく目の前にあることを頑張ってみて下さい。やる前から、時給制が良い、歩合制が良い、休みやエリアなど、条件を絞ってしまうと選択肢が狭くなります。やれるだけやってみて「この仕事は自分には合わない」「給料がもっと欲しい」と思ったら、移動すれば良いでしょう。人手があふれた現在、あまり条件を絞りすぎると仕事探しが難しいかもしれません。まずは、頂けた仕事を頑張る。お金やセカンド、サード・ビザのカウントだけでなく、経験をしてみる。それもワーホリ生活の立派な1ページになると思います。
Profile
松﨑絢子
葡萄ファームズ及びBudou Exportの経営者。オーストラリアVIC州で、生食用ぶどうを生産し、日本を中心とするアジアに輸出している。日本では大手スーパーマーケットで販売中。共同通信グループNNAオーストラリア発行の農業専門誌「ウェルス」で、「南半球でブドウを作る VIC州農園ダイアリー」も連載中。一児の母。
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