執筆者=森岡薫(NSW州立美術館日本語ボランティア・ガイド)
この冬、NSW州立美術館では、アール・ヌーヴォーの巨匠、アルフォンス・ミュシャ(1860~1939年)の不朽の名作を紹介する「アルフォンス・ミュシャ:アール・ヌーヴォーの精神」展が開催されます。
プラハのミュシャ財団との協力により実現した同展は、ミュシャ・ファミリー・コレクションから200点以上が一堂に会し、時代を超越した造形の美しさと人間の精神を高めるアートを探求したミュシャの芸術家としての本質を明らかにします。
19世紀末から20世紀初頭、パリが華やかに繁栄した「ベル・エポック(美しい時代)」と呼ばれる時代、ヨーロッパ各地では植物的な曲線を特色とするデザイン様式、アール・ヌーヴォーが全盛期を迎えました。そのころ、ミュシャはフランスの大女優、サラ・ベルナールの主演した演劇「Gismonda」のポスターで一躍有名になります。
その後もシャンパン、香水などの広告ポスターで成功を収め、魅惑的でしなやかな構図「ル・スタイル・ミュシャ」はパリのアール・ヌーヴォーの代名詞となりました。しかし、現在のチェコ共和国で生まれたミュシャは、「自分の道はもっと高い所にある」と考えます。
そして当時、オーストリア・ハンガリー帝国の支配下にあった、祖国チェコとスラヴ民族の解放への思いから、一大連作「スラヴ叙事詩」を制作したのです。同展では、日本でも人気を博す優美で装飾的な作品に加え、デジタルで制作された「スラヴ叙事詩」を展示し、画家の素顔に迫ります。
最後の展示室ではミュシャにも影響を与えた浮世絵(AGNSW所蔵品)や、1960~70年代のバンドのポスターやレコード・ジャケットなども展示されます。
今年の冬はシドニーでミュシャの世界をぜひご体験ください。
「Alphonse Mucha:Spirit of Art Nouveau」展
展覧会期:6月15日(土)~9月22日(日)
会場:Naala Bada(北新館)地下2階
入場料:大人$35
無料日本語ツアー:6月23日(日)~9月8日(日)の毎週日曜日10:30AM~、予約不要、入場券要、展覧会場入口集合
Web: www.artgallery.nsw.gov.au/whats-on/exhibitions/mucha
Naala Nura(ナーラ・ヌラ南本館)ハイライト・ツアー
日時:毎週金曜日11AM~
Web: www.artgallery.nsw.gov.au/whats-on/events/japanese-language-tours-south-building
Naala Badu(ナーラ・バドゥ北本館)ハイライト・ツアー
日時:毎週日曜日1PM~
Web: www.artgallery.nsw.gov.au/whats-on/events/japanese-art-highlights
お知らせ
●2024 年4月、NSW州立美術館の2つの建物に先住民の言葉の新しい名称がつけられました。
「これらは先住民の知識と言語への深い敬意とともに、当美術館の場所の特異性と歴史の重なりを認識するものです」とマイケル・ブランド館長は語る。
Naala Badu(ナーラ・バドゥ 北新館)“seeing waters” 水辺を臨む
Naala Nura(ナーラ・ヌラ 南本館 ”seeing Country” 大地を臨む
●2024年肖像画公募展「アーチボルド賞展」が6月8日(土)~9月8日(日)に開催。無料日本語ツアーを7月6日(土)~8月17日(土)の毎週土曜日に行います。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au/whats-on/exhibitions/archibald-wynne-and-sulman-prizes-2024
Art Gallery of NSW
ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au