執筆者=花咲三起子(NSW州立美術館日本語ボランティア・ガイド)
NSW州立美術館ではこの冬、「アルフォンス・ミュシャ展」が開催されていますが、彼と同世代のアール・ヌーヴォーの作品が南館(Naala Nura)の常設展で幾つかご覧頂くことができます。
アール・ヌーヴォーとは19世紀末から20世紀初頭にかけてヨーロッパを中心に開花した芸術運動です。植物、昆虫、動物などのモチーフがよく用いられ、自由な曲線と組み合わせて、自然界にある美を気付かせてくれるような芸術です。絵画だけでなく、建築、家具、陶磁器、ガラスなどさまざまな分野にわたってデザインされました。花鳥風月を描く日本の浮世絵の影響を強く受けていると言われています。
まずご紹介したいのはグランド・コートに展示されている、日本の名人たちが手掛けた陶磁器です。美濃焼の名工、加藤五輔の美しい染付壺と、名古屋の工人、竹内忠兵衛の磁胎七宝の蓋付き壺の2作品です。染付と七宝で趣は違いますが、どちらも菊花、ツバメ、蝶、つる草などが細かく描かれ、本人たちはアール・ヌーヴォーという言葉は知らなかったでしょうが、まさにそのものです。この2つは1879年のシドニー万国博覧会で日本館にて展示され、その後、当美術館へ収められました。
また、NSW州出身の画家、シドニー・ロングの「Pan」と「Fantasy」もぜひご覧ください。どちらも淡い色彩で美しいニンフたちと異教の自然神が踊っている様子が描かれています。牧人たちのアルカディアを描いているようで、流れるように美しい枝ぶりの大木が暗にオーストラリアの大地を表現しています。アール・ヌーヴォーの装飾的なスタイルと神話的な題材を融合させて、自然の豊かさと解放的な奔放さをオーストラリアの風景と照らし合わせているのです。
同じ時代にヨーロッパから興ったアール・ヌーヴォーのムーブメントが極東の日本や南半球のオーストラリアでも見られるというのは本当に興味深いことですね。
私たち日本語ガイド・グループはこのような作品も含めて美術館常設展のハイライト・ツアーを行っています。皆様のご来館をお待ちしております。
ハイライト・ツアー
・北新館(Naala Badu)
開始時間:毎週日曜日1PM、集合場所:エントランス・パビリオン
・南本館( Naala Nura)
開始時間:毎週金曜日11AM、集合場所:インフォメーション・デスク付近
両ツアーとも約45分間、無料、予約不要です。 直前に変更などの可能性もありますので、美術館のウェブサイトをご確認の上、ご参加ください。
アルフォンス・ミュシャ展
期間:9月22日まで、会場: Naala Badu(北新館)地下2階
無料日本語ツアーは9月8日(日)が最終日です。10:30AMスタート、チケットをお求めの上、展覧会場入り口までお越しください。
お知らせ
●2024 年4月、NSW州立美術館の2つの建物に先住民の言葉の新しい名称がつけられました。
「これらは先住民の知識と言語への深い敬意とともに、当美術館の場所の特異性と歴史の重なりを認識するものです」とマイケル・ブランド館長は語る。
Naala Badu(ナーラ・バドゥ 北新館)“seeing waters” 水辺を臨む
Naala Nura(ナーラ・ヌラ 南本館) ”seeing Country” 大地を臨む
Art Gallery of NSW
ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイト:www.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese