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不思議なマグリットの世界へようこそ─その2/NSW州立美術館ボランティア・ガイド便り

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執筆=鴨粕弘美(NSW州立美術館日本語ガイド)

 ルネ・マグリットは、ベルギーのシュルレアリスム画家の第一人者です。今年は、20世紀最大の芸術運動と言われるシュルレアリスムがパリで創始されてから100周年に当たります。シュルレアリスムは、「超現実主義」と訳されますが、「超現実」、我々が現実と思っているものから露呈して夢と現実が共存する心が自由に活動するところ、に至ろうとするものです。

 マグリットは、ブリュッセルのベルギー王立美術アカデミーで学び、20歳ごろからポスターや広告デザイナーとして働き始め、画家としても活動を始めます。本展では、マグリットの当初から晩年に至る100点以上の作品が6つの展示室で時系列に展示されています。

 彼は、1898年ベルギー生まれの3人兄弟の長男。子ども時代は、兄弟そろって近所で札付きの悪童でした。マグリットが13歳の時に母親が入水自殺をし、本人は、その出来事をほとんど語らなかったと言われますが、「冒険の衣服」と題された初期作品にその影響がうかがえます。

René Magritte ‘The garment of adventure (La robe de l’aventure)’ 1926, oil on canvas, 80 × 120.2 cm, collection of Kawamura Memorial DIC Museum of Art © Copyright Agency, Sydney 2024

 1922年、23歳で幼なじみのジョルジェットと結婚。67年に彼が68歳で亡くなるまで45年間連れ添い、ジョルジェットをモデルにしてたくさんの作品を制作します。37年に描かれた彼女の肖像画「ジョルジェット」は、彼亡き後、彼女が死ぬまで手元に置き、1987年にベルギー王立美術館(ブリュッセル)に遺贈された作品で、3番展示室にあります。

René Magritte ‘Georgette’ 1937, oil on canvas, 65 x 54 cm, Royal Museums of Fine Arts of Belgium, Brussels, 10712 © Copyright Agency, Sydney 2024, photo © Photothèque R Magritte / Adagp Images, Paris, 2024

 1954年制作の水に映る光の描写が美しい「光の帝国」は、白昼の空と真夜中の闇に灯りの点る邸宅の黒いシルエットの組み合わせに不穏な感覚を覚えます。シュルレアリスムのデペイズマン(転置)と呼ばれる表現手法です。作品が発表されると注文が殺到し、27作も描いた内の1つは、映画『エクソシスト』で悪魔祓いをする神父が邸宅に入るシーンの着想にもつながったそうです。

 その他にもマグリットの作品は、青りんごを描いた「連想ゲーム」がビートルズのアップル・レーベルの発端となったり、「恋人たち」がビヨンセのビデオに、「ピレネーの城」が日本のアニメに引用されたり、現代にも影響が息づいています。

René Magritte ‘The dominion of light (L’empire des lumières)’ 1954, oil on canvas, 129.9 × 94.6 cm, The Menil Collection, Houston, V 616 © Copyright Agency, Sydney 2024, photo: Paul Hester

 5番展示室の右手では、写真や映画に興味のあったマグリットが自ら仲間や家族と制作・出演する、絵画作品にも関連する短編映像をご覧になれます。

 なお、会場は作品管理のため気温を少し下げてありますので、ご留意ください。

 自らを“アイデアの画家”と呼ぶマグリットの厳選作品を日本語ツアーで楽しんでみませんか? 日本語ツアーの詳細は、以下をご参照ください。

特別展「マグリット」

会期:開催中~2025年2月9日(日)
会場:Naala Nura(南本館)地下2階
入場料:大人$35ほか

【「マグリット」展の無料日本語ガイド・ツアー】
日時:毎週日曜日11AMスタート、会期中の(年末年始12/25~1/5を除く)2025年2月2日(日)まで
集合場所:展覧会会場入り口
約1時間のツアーで無料、予約不要です。 美術館のウェブサイトでもご確認頂けます。

ハイライト・ツアー

【Naala Badu(北新館)無料日本語ハイライト・ツアー】
開始時間:毎週日曜日1PM、集合場所:エントランス・パビリオン

【Naala Nura(南本館)無料日本語ハイライト・ツアー】
開始時間:毎週金曜日11AM、集合場所:インフォメーション・デスク付近

両ツアーとも約45分間、無料、予約不要です。 直前に変更などの可能性もありますので、美術館のウェブサイトをご確認の上、ご参加ください。

お知らせ
●2024 年4月、NSW州立美術館の2つの建物に先住民の言葉の新しい名称がつけられました。
「これらは先住民の知識と言語への深い敬意とともに、当美術館の場所の特異性と歴史の重なりを認識するものです」とマイケル・ブランド館長は語る。
Naala Badu(ナーラ・バドゥ 北新館)“seeing waters”  水辺を臨む
Naala Nura(ナーラ・ヌラ 南本館) ”seeing Country”  大地を臨む

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有料特別展情報:この夏、NSW州立美術館では、近年世界で最も影響力のあるアーティストの1人、ツァオ・フェイの展覧会も開催。シュールなユーモアとサイバー・フューチャリズムの世界を。北新館で、11月30日から2025年4月13日まで。

Art Gallery of NSW

ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。
開館時間:10AM~5PM(水のみ10PMまで)。2025年1月1日(水)は5PMで閉館。クリスマス・デー(24年12月25日)とイースター・フライデー(25年4月18日)は休館。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイトwww.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese



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