世界的ピアニスト亀井聖矢の初シドニー・リサイタルをレポート!ショパンの旋律が響く夜

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 2024年12月14日、シドニー・タウンホールで「JAPAN EXPO 2024」が開催された夜、同会場で亀井聖矢(かめいまさや)氏のピアノ・リサイタルが行われた。若干22歳で「チケットが取りにくい」と言われている、世界が注目する日本人ピアニストである。そんな亀井氏の演奏を間近で聞く機会を得たので、その公演の様子と感動をお届けする。
(写真・文=櫻木恵理)

 4歳からピアノを始めたという亀井氏は、桐朋学園大学初となる飛び入学特待生となり、在学中の2019年には「ピティナ・ピアノ・コンペティション」と「日本音楽コンクール」で史上初の同年優勝を果たす。22年にはパリで開催された「ロン=ティボー国際音楽コンクール」で第1位を獲得し、注目を浴びる。

 午後7時半の公演を前にリサイタルの会場には、国籍問わず多くの人が集まり、日本語もあちこちから聞こえた。会場となったタウンホールは美しく重厚で、亀井氏の演奏を想像して胸が高鳴る。私は幼少のころに少しだけピアノを齧った程度で、この日亀井氏が演奏するショパンの曲にはあまりなじみがなかったため、事前に少し予習して臨んだ。不思議なもので、作曲者の背景を知ると、曲にも興味がわいてくる。

 「ピアノの詩人」と評されているショパンは、1810年にポーランドで生まれ、成人後は父親の祖国フランスで暮らしながらも、ポーランドの国民的舞曲である「マズルカ」や「ポロネーズ」をもとにした多くの曲を、生涯にわたって作曲している。当時まだ進化の途中だったピアノの新しい表現方法を探求し続けた、19世紀のロマン派音楽を代表する作曲家の1人である。

 亀井氏が最初に披露したのは、全4曲からなるマズルカ作品17(Mazurka Op.17 No.1〜No.4)だった。軽快なリズムから始まる美しい旋律は、どこか遠い夢の国にいるような気分になる。夜想曲 第7番と第8番 (Nocturne Op.27 No.1、No.2)、バラード第3番(Ballade Op. 47)と続き、その繊細で情熱的な音は、うっとりするくらい美しい。

 15分休憩の後は前半とは雰囲気が変わり、ドラマティックで激しいポロネーズが鳴り響く。ポロネーズ第5番(Polonaise Op.44)は、ポロネーズの間にマズルカが取り込まれている傑作と言われている曲だ。そして、誰もが一度は聞いたことがあるであろう「英雄ポロネーズ」の通称で知られるポロネーズ第6番(Polonaise Op.53)は、迫力ある軽快なリズムが気持ち良い。最後はショパンの晩年の傑作と言われている「幻想ポロネーズ」と呼ばれるポロネーズ第7番(Polonaise Op. 61)で締めくくられた。

 ショパンが精神的にも肉体的にも不調だった時に作曲されたというこの曲は、亀井氏の指を通じて悲しさとうれしさをミックスしたような響きで語りかけてくる。やはり目の前で聞く生演奏はすばらしい。名曲は、国境や時代を超えて人びとに何かを訴えてくる。ショパンは祖国をどのような目で見ていたのだろう。曲目はショパンの曲のみだったが、その後リストのラ・カンパネラなども披露され、それも感動であった。

 今回「JAPAN EXPO」関連のイベントとして能や吟剣詩舞の舞台も鑑賞したが、全てに共通するのは、想像力を働かせて当時の時代背景や心情を味わうということだ。近年では字幕付きの動画や分かりやすい説明に慣れてしまい、そういった作業を忘れがちだが、心を豊かにする上で改めて大切なことだと思い出させてくれた。





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