筍と八重桜で表現─健やかさと美しさが調和する“命の舞台”/花のある生活 – flower in life – 第60回

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宝塚市後援の「美と健康のサミット」で、命が響き合う“花の舞台”を装花

 日本では、4月13日から10月13日まで大阪・関西万博が開催されています。会場の中心には、世界最大規模の木造建築「大屋根リング」が架けられ、57の国際パビリオンをその内側に配置。「多様でありながら、ひとつ」という深いメッセージを、美意識あふれる構造で体現しています。

 この春、私は兵庫県宝塚市後援の「美と健康のサミット」で、舞台装花を担当させて頂きました。万博のテーマでもある「いのち輝く未来社会のデザイン」に感化され、いけばなで命の輝きを表現したいと願い、健やかさと美しさが調和する“命の舞台”を構成しました。そこに据えたのは八重桜と、強い生命力の筍(たけのこ)で会場を飾らせて頂きました。

 筍の真っ直ぐに空へと伸びていく姿に、成長していく力強さや、未来へ向かう希望が自然と重なります。厳しい冬を越え、わずかな光と水を頼りに地中から顔を出すその力強さは、どの命にも備わっている底力を思い出させてくれます。また、新芽である筍は高く成長するまで硬い皮に覆われて身を守っています。ふっくらと花びらを重ねた八重桜は、ひと枝にあふれるほどの華やぎをもたらし、やさしさや包容力を感じさせてくれます。

 全体の調和には青もじの瑞々しい枝葉を加えることで、春の光を受けて芽吹く植物たちの躍動感を引き出しました。色・形・質感が語り合うような花のしつらえは、見る人の心にそっと触れることを願って構成しました。

 万博の象徴とも言える大屋根リングは、清水寺にも用いられる日本の伝統工法で組まれ、夜にはライトアップされて、海と陸とをつなぐ幻想的な光の輪として浮かび上がります。多様な命が共鳴し、1つに溶け合うその風景は、まさに私がいけばなで表現したかった世界そのものでした。その輝きの一端に、いけばなの表現が、静かに寄り添えたのではと感じています。未来への願いを、花と共に託して──。花をいける日々は、自分を生きることそのもの。

 草月100周年へ──「いける。生きる。」その言葉が、そっと背中を押してくれます。

このコラムの著者

多田玲秋(Tada Reishu)

いけばな作家
Web: https://www.7elements.me/

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