
今回、存亡の危機のウエスタン・ユナイテッド(WU)について書いたが、状況が刻々と変化、その度に原稿の書き換えを迫られた。結果から言うと、クラブはライセンス剥奪から解散の瀬戸際に追い込まれ、当稿がアップされるころにクラブが存続している可能性はかなり低い。それでも、クラブに関わる全ての人びとは決してあきらめていない。
さまざまな事件で図らずも今オフの“主役”となったWU。かねてからの財政難で選手・スタッフへの給与未払いが続くクラブに一瞬の光明が挿し込んだのは5月。米国のスポーツ・コンソーシアムへの買収話が報じられ、新スタジアム構想と共にクラブの財政難も一気に解消すると楽観的な見込みが伝えられた。
その後、買収話が進展しないうちに度重なるトラブルがクラブを襲った。以前の所属選手との金銭的トラブルに端を発してFIFAから選手獲得禁止処分を受けて編成もままならないところに、来季の主力と目されたMF檀崎竜孔の逮捕のショッキングなニュースが追い打ちを掛けた。
8月14日、売却話が事実上頓挫したことを受け、改善の兆しが見えない財務状況にしびれを切らしたフットボール・オーストラリアがWUの来季のAリーグ・ライセンスの剥奪を発表。クラブは異議を申し立てたが、その決定が覆らないことが同27日に発表され、来季のAリーグ参戦に赤信号が灯った。決定を不服とするクラブ側がスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴することも予想されたが、同29日、連邦裁判所に最後の債務返済の申立が却下され、クラブ解散の決定が報じられ万事休すかと思いきや、同日中に出した執行停止申立が受理されて週明けに再審理の申立を……と、まだまだ法的アクションは続いているが、もうこれ以上は引っ張れない。続報は他に譲らざるを得ない。
現実問題として、開幕まで2カ月を切った来季のAリーグにWUの名は入らない。クラブは、現実的には上記の過程で決定が覆れば、新オーナーの下で債務を解消した上でライセンス再取得、願わくば26/27シーズンからの再参戦に備えることになる。これが残された最良のシナリオ。このまま状況が劇的に好転しなければ、WUは21年のAリーグの歴史で4つ目の消滅・撤退クラブになる憂き目に遭う。
創設から6年半、Aリーグ王者戴冠後、わずか3年3カ月でクラブの解散まで没落しようとは誰が想像していたろうか。結果がどうなれ、選手やスタッフを路頭に迷わせないこと、豪州有数の発展を見せるウエスタン・メルボルン地域に輝き始めているフットボールの灯を消さないことが肝要。そのためにも、奇跡が起こると最後まで信じたい。
植松久隆(タカ植松)
ライター、コラムニスト。タカの呟き「豪州への日本からの挑戦は来季も続く。メルボルンCにアビスパ福岡(筆者の愛するクラブ)の金森健志がやって来た。元マリノスの山村のような実績のある選手が下部リーグに移籍するような新しいケースも実現するようだ。さまざまな挑戦をこれからも当コラムでも取り上げていきたい」