執筆者=松田延子

「危険なほどモダン」──。そんな言葉で作品を評されたら、あなたならどう感じますか?
1921年、ロンドンからシドニーに戻った画家テア・プロクターは、まさにそう言われました。大胆な色使い、斬新な構図、そして女性が自らの視点で世界を描くこと。それは当時、少し“危険”に見えたのかもしれません。
そんなエピソードをもとに名付けられた展覧会『Dangerously Modern: ヨーロッパに渡ったオーストラリア女性芸術家たち(1890-1940)』が10月からNSW州立美術館で開催されます。この展覧会では、これまで十分に語られてこなかった女性芸術家たちの挑戦と創造の軌跡をたどるように、19世紀末から20世紀前半に掛けてヨーロッパで活躍したオーストラリアの女性芸術家50人以上による作品が展示されます。絵画、版画、彫刻、陶芸など、200点以上の数々の作品が勢ぞろい。
彼女たちは、当時まだ珍しかった「女性が海外で芸術を学び、発表する」という道を選びました。ロンドンやパリで学び、展示を重ね、時にはオーストラリアに戻らずそのまま国際的なキャリアを築いた女性たちもいます。それらの作品には、旅の記憶、愛や喪失、内面の葛藤、そして新しい表現への挑戦が詰まっています。
本展では、ドリット・ブラック、ノラ・ヘイセン、マーガレット・プレストンなど、南オーストラリア出身の芸術家に加え、グレース・クロウリー、アン・ダンガー、グレース・コッシントン・スミスらシドニー出身の作家たちの作品も紹介されます。彼女たちの表現は、モダン・アートの流れ(印象派、ポスト印象派、キュビスム、抽象表現など)を女性の視点から再発見するきっかけになります。
美術館に足を運んで作品の前に立つと、ただ「見る」だけでなく、彼女たちの人生にそっと触れるような感覚になります。
「こんな時代に、こんな表現をしていたんだ」
「この色使い、今見ても新鮮」
そんなふうに、作品と対話する時間が生まれるはずです。
芸術の歴史に埋もれていた、女性たちの声。それは、静かだけれど力強く、現代を生きる私たちにも響いてくるものです。シドニーで「危険なほどモダン」な美の冒険に出掛けてみませんか?

特別展「Dangerously Modern: ヨーロッパに渡ったオーストラリア女性芸術家たち(1890-1940)」
開催期間: 10月11日(土)〜2026年2月15日(日)
入場料金:大人$35 ※詳細はNSW州立美術館公式サイトで要確認
日本語ガイド・ツアー:展覧会会期中の日曜日:10月26日(日)~12月14日(日)及び26年1月11日(日)~1月25日(日)催行。午前11時から。予約不要。入場券を購入の上、南本館地下2階展覧会場入り口集合
常設展:無料日本語ハイライト・ツアー
【Naala Nura(南本館)】
毎週金曜日午前11時から。集合場所はインフォメーション・デスク前
【Naala Badu(北新館)】
毎週日曜日午後1時から。集合場所はエントランス・パビリオン

Art Gallery of NSW
ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。
開館時間:10AM~5PM(水のみ10PMまで)。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイト:www.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese