執筆者=吉澤なほみ

NSW州立美術館では、彫刻・建築・公共空間・遊びの要素を融合させた、実験的で社会的なアートで知られるマイク・ヒューソン(Mike Hewson)による大規模インスタレーション“The Key’s Under the Mat「鍵はマットの下」”が開催中。同プロジェクトは、タンク・ギャラリーで行われるこれまでにない大胆な試みで、ヒューソンはこの広大な空間を、ただの展示スペースとしてではなく、人びとが使い、遊び、休み、関われる空間へと作り変えました。
「鍵はマットの下」というタイトルには、「どうぞ、家の中へ自由に入ってください」という親しみと歓迎の気持ちが込められています。来場者が中に入り、参加することで作品は初めて“生きたアート”になると考えます。

空間を構成するほとんど全てのオブジェは、再利用された建築資材や廃材です。ヒューソンは、建設・解体現場や酪農場などあらゆる所から回収した鉄板、木材、タイル、レンガ、ガラスなど、役目を終えた素材たちに新しい命を与えます。その素材を使った、バーベキュー設備、仮設小屋サウナ、スチーム・ルーム、更衣室、滑り台やブランコなどの遊具、DJブースなどユニークな構造物が空間の中に設置されています。さまざまな素材がパッチワークのように組み合わされた床は歩くだけで質感の違いを感じることができます。

同インスタレーションは、空間全体が1つの巨大な彫刻作品であると同時に、実際に使える公共の遊び場のように機能しており、単なる空間演出にとどまらず、「美術館とは何か」、「アートとは誰のものか」という問いを投げかけます。美術館は静かに作品を眺める場所ではなく、来場者の行動そのものがアートの一部となり、アートを通して人がつながり、関わり合い、自由に過ごす経験が美術館を開かれた公共空間に変えていく意味を持ちます。
「鍵はマットの下」は誰にでも開かれた展示です。子どもたちは遊び、親はくつろぎ、アート・ファンは空間構成や素材に目を凝らします。来場者1人ひとりが自分なりの過ごし方で関われるのが、同展示の魅力です。
ぜひこの空間を訪れて新しいアートの楽しみ方を体験してみてください。
Mike Hewson:「The Key’s Under the Mat (鍵はマットの下)」
会場:Naala Badu(北新館)地下4階タンク・ギャラリー
開催期間:開催中〜2026年
入場料金:無料
特別展「Dangerously Modern:ヨーロッパに渡ったオーストラリア女性芸術家たち(1890−1940)」
開催期間:開催中〜2026年2月15日(日)
入場料金:大人$35(※詳細はNSW州立美術館公式サイトで要確認)
日本語ガイド・ツアー:展覧会会期中の日曜日/〜12月14日(日)及び26年1月11日(日)〜1月25日(日)催行。午前11時から。予約不要。入場券を購入の上、南本館地下2階展覧会場入り口集合
常設展:無料日本語ハイライト・ツアー
【Naala Nura(南本館)】
毎週金曜日午前11時から。集合場所はインフォメーション・デスク前
【Naala Badu(北新館)】
毎週日曜日午後1時から。集合場所はエントランス・パビリオン

Art Gallery of NSW
ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州立美術館。南本館に加え、日本人建築家ユニットSANAAのデザインによる北新館が2022年12月に新築オープンした。常設展は入場無料。
開館時間:10AM~5PM(水のみ10PMまで)。
Web: www.artgallery.nsw.gov.au
日本語サイト:www.artgallery.nsw.gov.au/visit/plan-your-visit/information-in-other-languages/japanese