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海外生活をしていると、ビザ申請、銀行口座の開設、航空券の予約など、名前を書いたり入力したりする機会は非常に多い。ミドルネームの扱いに戸惑ったり、カタカナ表記との違いに悩んだりした経験がある在豪日本人や留学生も多いのではないだろうか。
ではもし、その“名前”が世界記録になるほど長かったら――。オーストラリア・シドニーに暮らすローレンス・ワトキンス(Laurence Watkins)さんは、2253個の名前を持つ「世界一長い名前の持ち主」として、ギネス世界記録に認定されている人物だ。一見するとユニークで話題性のある記録だが、その背景には、挫折や挑戦など1人の男性の人生があった。
日本人の名前も刻まれた世界記録

ギネス世界記録(Guinness World Records)は、1955年にイギリスで創設され、世界中の「最も○○」を公式に認定する機関として知られている。スポーツや科学、文化、エンターテインメントなど、「そんな記録があるの?」と思わず笑ってしまうようなユニークな分野まで幅広く網羅し、その記録は世界的な信頼性を持つ。
ワトキンスさんが認定されたのは、「世界で最も長い個人名(Longest personal name)」という非常に珍しいカテゴリーだ。単なる思いつきではなく、正式な改名手続きと高等裁判所での判断を経て、1990年に2253の名前を法的に追加。長年の申請と確認作業の末、世界記録として認められた。
ワトキンスさんのフルネームはあまりに長く、彼の公式サイト(www.laurencewatkins.com)では6ページにわたって名前のリストが掲載されているほど。その中には、約18個の日本人の名前も含まれている。
「ギネス世界記録に載りたいと思ったのが、全ての始まりでした」と語るワトキンスさんが着想を得たのは、ニュージーランド・オークランド市議会図書館で働いていたころ。図書館の資料と、同僚たちの協力を得ながら、少しずつ名前を集め、構想を形にしていったという。
ワトキンスさんは、日本人の名前が含まれている理由について、「数年間、日本人留学生が何人も我が家に滞在していました。そのご縁で、彼らの名前も私の記録に入れたいと思ったんです」と話す。
彼は、日本に対して特別な親しみを持っている人物でもある。これまでに2度、日本を訪れた経験があり、最初の訪日は改名後に取得した新しいパスポートにスタンプをもらうためだったという。しかし、その訪日は決してスムーズではなかった。「入国理由が分かりにくいと言われ、最初は入国を拒否されたんです」と語るワトキンスさん。海外での入国審査や書類トラブルは、在豪日本人や留学生にとっても身近な話だろう。彼の経験は、名前という“個人情報”が国境を越える際に直面する現実を象徴している。
学校最下位から世界記録保持者へ

ワトキンスさんはニュージーランド・オークランド生まれ。学校では成績が振るわず、クラスで最下位だったという。決してエリート街道を歩んできたわけではない。高校も修了せず、オークランド市長選に立候補したこともあったが当選には至らなかった。軍隊への入隊も断られている。それでも彼は挑戦をやめなかった。1986年には3カ月間、太平洋の島々を航海し、クジラを探す旅に出た経験もある。数々の挑戦と挫折を経た彼にとって、ギネス世界記録は何を意味するのか。
「学校では最下位だった自分が、世界一になれた。それだけで、全てが報われた気がしました」と語るワトキンスさん。「初めてギネス認定証を受け取った時、心からホッとし、そして本当にうれしかった」と振り返る。ギネス世界記録は、彼にとって“名誉”であると同時に、人生の証明でもあった。
とはいえ、2253の名前を持つことは、日常生活では想像以上の困難を伴う。ワトキンスさんは「フルネームを自分で書いたことは一度もありません。代わりに誰かにタイプしてもらいましたが、それだけで400ドル掛かりました」と話す。
最初の結婚式では、司式者が彼の名前を読み上げるのに20分を要したという。かつてのパスポートには、名前専用に6ページ分が使われた。しかしデジタル化が進んだ現在でも問題は続く。「最近更新したパスポートや出生証明書では、ほとんどの名前が省略されていました。これは今も悩みの種です」。フォームに名前が収まらない、システム・エラーが起きるなど、デジタル社会ならではの壁にも直面している。それは極端な例ではあるが、海外で暮らす日本人が直面する「名前の問題」と本質的には同じだ。
また、人びとの反応はさまざまだという。興味を示さない人もいれば、否定的なメールを送ってくる人もいる。「それでも、私は自分の名前をとても誇りに思っています」というワトキンスさん。日常生活では、「Laurence Alon Aloys Watkins」という短縮名を使っているそうだ。
ギネス世界記録とは

ギネス記録は、世界一を公式に認定・記録する国際的な仕組みであり、単なる話題作りにとどまらず、挑戦や創意工夫を可視化する役割を果たしてきた歴史を持つものだ。
近年では、巨大建造物や超人的な身体能力といった分かりやすい記録だけでなく、「最も多く集まったオンライン会議」や「最短時間で達成された社会貢献活動」など、時代性を反映した記録も増えている点が特徴だ。背景には、記録そのものよりも「挑戦する過程」や「人をつなぐストーリー」に価値を見出す社会の変化がある。ギネス記録は、個人や企業、自治体にとっても注目度の高い発信手段となっており、世界共通の“ものさし”として、今後も新たな挑戦を後押ししていくと見られている。
そんな中、世界一長い名前はワトキンスさんが自分の人生に意味を見出し、世界とつながるために選んだ1つの形だった。
海外で暮らしていると、「自分は何者なのか」「どこに属しているのか」を考えさせられる瞬間があるだろう。名前とは、単なる呼び名ではない。2253の名前を持つ彼の姿は、「どんな立場や経歴でも、自分なりの“世界一”を見つけられる可能性がある」というメッセージを私たちに投げ掛けているのかもしれない。
と語ると少々大げさかもしれないかもしれないが、昨今、夫婦別姓問題など、名前に関する話題も日本国内では少なくないようだ。
実際日本政府は、2026年の通常国会(1〜6月)に、婚姻時に出生時の姓を使用できる法案を提出する方向で検討していると報じられている。選択的夫婦別姓制度の導入につながる可能性もあるとして注目されているが、国会では既に2025年から本格的な議論が始まっているのも事実。通常国会から臨時国会にかけて法案提出、審議、採決の流れが進めば、2026〜27年前後に法案成立し、施行に向けた準備段階に入る可能性が高いと見られている。
話題を戻そう。世界一長い名前の全リストや、ワトキンスさん本人による詳細な情報は、公式ウェブサイトで公開されているのでぜひ一度、その圧倒的なボリュームとユニークな世界観をご覧頂ければ幸いだ。
公式サイト
https://www.laurencewatkins.com