第69回 日豪プレス法律相談室
業務上過失致死傷罪
オーストラリアでは雇用主の行動・非行動が原因で起きた労災で、従業員が死亡した時に適 用される雇用主に対する罰則法「業務上過失致死法」(各州で制定)が、過去2年間でかなり厳しくなりました。会社は最大1,650万豪ドルの罰金刑、職場責任者は最長懲役25年となることもあります。しかし、これを手荒な処罰だと感じますか?
オーストラリアでは毎年、平均180人を超える労働者が労災で亡くなっていますが、最もリスクの高い(全死者数の35%を占める)職業は、マシン・オペレーターとドライバーです。職場でのこうした痛ましい事故は大抵、雇用主が安全管理システムを整えていれば避けることができたと言われています。
数年前にテーマ・パークのドリームワールドで乗り物に乗っていた4人が亡くなるという事故が発生しましたが、それも含め近年、公衆を巻き込んだ事故が続いたため、法律強化を求める社会の声はより一層大きくなっています。
Brisbane Auto Recycling社は今年6月、国内初の業務上過失致死罪で有罪判決を受けた会社となりました。従業員がトラックとフォークリフトに挟まれて亡くなった労災事故に関し、会社は300万豪ドルの罰金、役員2人には懲役10カ月(執行猶予付き)が言い渡されました。地方裁判所のRafter判事は事故後、方策として標識やプラスチック製の車止めポールが導入されるなど、ほんの少しの費用で職場の安全性は著しく改善したとコメントしています。
VIC州は、労働者の権利を優先する政策の1つとして、現行の業務上過失致死法を拡張し、物議を醸しています。同法律について、解説者たちの多くは、雇用主に厳し過ぎるとコメントしていますが、COVID-19第2波で750人以上が亡くなったVIC州は、政府によるウイルス危機対策が失敗したと言われており、同法律を導入したVIC州の政治家たちが投獄されるかもしれない、という思わぬ展開になっています。
このコラムの著者
ミッチェル・クラーク
MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として25年以上の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。豪州法に関する日本企業のリーガル・アドバイザーも務める。高等裁判所での勝訴経験があるなど、多くの日本人案件をサポート。