第77回 日豪プレス法律相談室
法律とフットボール
たくさんのオージーが9月に行われるAFL(オーストラリアン・フットボール・リーグ)の決勝戦を楽しみにしています。コンタクト・スポーツであるフットボールは、そのルールに関する議論も多く、例えば競技中の暴力と公共の場での暴力とでは、法律上、別に扱われるということもその1つです。
1985年、当時のホーソンでプレーしていたフッティー・レジェンド、レイ・マシューズ(Leigh Matthews)が関係した悪名高きケースがあります。ボールがない所で、相手選手の顔面にドンピシャでパンチを浴びせたレイに対する制裁は、たった4週間の出場停止でした。その後、一般人からの激しい抗議を受け、VIC州警察はレイを暴行で起訴。有罪を認めたレイに科された罰は、失行がないことを条件とした保釈金の支払いでした。当時、その件が裁判になったことでフットボールへの悪影響は妨げられないと考えられましたが、プロのAFL史上で、フィールドでの行為に警察が介入したのは、結局はこの時だけでした。
ちなみにQLD州の刑法では、公共の場(レストランや道端など)で誰かの顔面をパンチした場合の刑罰は懲役7年です。“暴行”の定義はかなり広く、QLD州刑法第245項で説明されています(他州でも同様の法律あり)。定義の一部に、被害者の承諾なしに、あるいは被害者を騙すことで承諾を得て体に危害を加えること、とあります。また被害者に“重傷”(身体器官の損傷、損失を伴う)を負わせた場合は、最長で14年の懲役です。州政府は、深刻な暴行事件の加害者に対する強制的判決を求める法律を制定しました。
状況にもよりますが、暴行で起訴された場合、正当防衛だった、あるいは強要された、などの弁護がなされるかもしれません。更には、互いの同意があった、ということもあるでしょう。ボールを追いかけるフットボールの場合、フィールドに入った選手たちは、プレー中に体の接触があることを承諾しています。しかし、ボールから離れた所でパンチをした場合、上記、いずれの弁護も通用しません。
大きく変化する法的環境や社会を反映して、現在のAFL規則2021は、100年以上前に最初のルールができた時と比べられないほど、より複雑でかなり大きな範囲をカバーしています。今日の規則は70ページ以上にも及び、私たちの生活と関係したさまざまなトピック、例えば、選手が出血した時のコントロール、アンチドーピング法の導入などが盛り込まれています。
このコラムの著者
ミッチェル・クラーク
MBA法律事務所共同経営者。QUT法学部1989年卒。豪州弁護士として30年の経験を持つ。QLD州法律協会認定の賠償請求関連法スペシャリスト。豪州法に関する日本企業のリーガル・アドバイザーも務める。高等裁判所での勝訴経験があるなど、多くの日本人案件をサポート。