トミヲが掘る!宝石大陸オーストラリア
QLD Charters Towers – Fossil coral
チャーターズ・タワーズのサンゴの化石
QLD州北部の中心の街、タウンズビルから南西130キロにある人口約8000人の町、チャーターズ・タワーズ。1880年代のゴールド・ラッシュ時には200トン以上の金が採掘され、3万人超の人口を擁したQLD州第2の都市として栄えた。そんな往時のにぎわいは、町の中心部にある現在の町の規模には似つかわしくないほど大きな郵便局にわずかに垣間見える。
そのチャーターズ・タワーズを今年の正月休みに訪ねたが、断続的な雨に見舞われるあいにくの天気。石探し、金探し、キャンプも思うに任せず、元日は渋々、地元のモーテルに泊まる羽目となった。そのモーテルのフロントに大きなアメジストが無造作に置いてあった。その石を褒めるとオーナーは「アメジストはここで採れた物ではないが、サンゴの化石は全部、地元のバーデキン川で採れたんだ」と、自慢のコレクションを見せてくれた。サイズ、形もさまざまで、到底1人では持ち上げられないほど大きな単体のサンゴの化石もある。「ポイントはここから30キロ北」と聞き、翌朝、車を飛ばした。
ちょうど北に30キロで「Big Bend」という標識と右折できる未舗装路が見えた。間もなく現れた川は、年末の豪雨で増水し、流れも急で茶濁色。車を降りて川に向けて歩を進め、ふと足下の灰色の石を拾った。「ん? 何か模様があるぞ」。なんと拾い上げる石の全てがサンゴの化石。形をはっきり保ったもの、複数のサンゴが混ざった化石などさまざまで、どれを持ち帰ろうかと迷ってしまうほどだ。川の増水で正確なポイントまでたどり着けずに得た収穫には正直驚いた。バケツ一杯に化石を積み込み、乾季の再アタックを誓ってその日は撤収した。
遠征から戻って早速、大きめの複数のサンゴが集まった化石に手を付ける。電動ノコギリで薄切りし、断面を研磨。中からは多種多様のサンゴの模様が現れて思わず笑みがこぼれる。
この「石探し初め」で見つけた石とは、雨凌ぎのモーテルでたった一言、オーナーの石を褒めたことで出合えた。運命を感じるその石の研磨の最中、強烈な潮と埃の匂いが鼻をくすぐった。太古の昔に閉じ込められたサンゴと海水や溶岩の匂いだ。3億8000年前のデボン紀にあったサンゴ礁が、約2万年前のタウンズビル西のトゥームバ火山の噴火で広範囲に流れ出た溶岩に覆われた。そして長らく大地に封じ込められていた独特な匂いが解き放たれたのだ。化石を見る度にそんな壮大な浪漫をかき立てられる。だから石探しは止められないんだ。
このコラムの著者
文・写真 田口富雄
在豪24年。本職の不動産仲介業の傍ら暇を見つけては愛用のGoProを片手に豪州各地を掘り歩く、石と旅をこよなく愛するトレジャー・ハンター。その活動の様子は、公式YouTubeチャンネル(Web: youtube.com/user/gdaytomio)で楽しめる。現ゴールドコースト宝石細工クラブ理事長