第77回
史上最悪の森林火災
オーストラリア史上最悪とされる森林火災の最中の年明けとなりました。2019年の1年間にカランビン野生動物病院で治療を受けた動物は256種、その数は延べ1万2,198匹。9月にクイーンズランド州南部で大規模な山火事が起こってから、火災で被害に遭った動物がたくさんカランビンで保護されているのか、とよく質問されます。その質問の答えはイエスとノー、両方です。
確かに火事でやけどを負った動物が保護され治療を受けていますが、その数は少数です。森林火災では野生動物はほとんどが火から逃れるため縄張りを離れます。火から逃げ遅れた場合はその場で焼け死んでしまいます。鎮火して野生動物レスキューのボランティアが現場への出入りを許されたころには、何とか生き延びていたわずかな動物が保護されるだけです。
ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州北部でFriends of the Koala Inc.(friendsofthekoala.org)によって保護された若い雌コアラのエンバーも、四肢と耳、鼻、口にやけどを負っていました。状態が安定した今も病院で2日置きに包帯を替える処置を受けています。自由に木を登り降りできるようになるまでには数カ月は掛かるでしょう。
火災現場から保護された動物は少ないにもかかわらず、9月以降に過去最大数の動物が保護されてきた理由は、長期間にわたる干ばつで水や食糧が不足し、哺乳類も鳥も爬虫類も全て飢えで弱り切ってしまっているからです。そのほとんどがひどい脱水状態にあったり、長期間の飢餓により消化器官が働いていなかったりと、手の施しようがないほどの重症患者です。病院では勤務時間内外に関わらず、スタッフとボランティアが必死に対応しています。
干ばつで苦しんでいる動物たちのために私たちが身近で簡単にできることは、水を汲んだバケツなどを外に置いて、水飲み場を作ってやることです。庭木を枯らさずにいれば、その花や果実を動物が食べることもできます。
また、南のNSW州、ビクトリア州と南オーストラリア州では今も大規模な森林火災による被害が続いています。消防団や野生動物保護団体への寄付は、この先何年も続くであろう復興活動に必ず役立つことでしょう。
床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっている他、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。