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共有不動産の売却に際して共有者が応じてくれない場合 – 身近な法律問題

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法律は何となく難しいもの――そう思ってはいませんか?しかし法律は私たちの日常生活と切っても切り離せないもの。このコラムでは毎月、身の回りで起こるさまざまな出来事を取り上げ、弁護士が分かりやすく解説を行います。

第53回:共有不動産の売却に際して共有者が応じてくれない場合

オーストラリアでは家の購入時に不動産の名義を夫婦の共有名義にする人が多くいます。夫婦の共有名義になっている不動産を売却する際には夫婦の同意のもと売りに出すことになりますが、もし、もう一方の所有者である夫(妻)が応じてくれない場合には、どのような選択肢があるのか、今回のコラムで解説したいと思います。

まず、最も合理的な解決策は話し合いで、家を売りたくない所有者が他方所有者から権利を買い取るという方法です。住宅ローンを組み直すなど、売りたい側の権利を担保にして資金を捻出される方も多くいます。もし、話し合いで解決できない場合には高等裁判所(夫婦間における紛争である場合はFamily Court)に、法定管財人となるStatutory Trusteeを任命してもらい、他方所有者の意思とは関係なく売却を進めるという法的措置を取ることができます。

この場合、Statutory Trusteeを任命してもらってから家の売却が行われ、その売却金をStatutory Trusteeが裁判所の判決通りに分配することになります。分配は折半である必要はなく、購入金額の出資率に応じた金額でしたり、所有権の割合に応じて行われることもあります。裁判所におけるStatutory Trusteeの任命と、その後の手続きに当たって相応の費用は掛かりますが、家を売りたい所有者が他方の所有者が応じてくれるまで何年も見通しが立たない状況に晒されることを考えたら、ほとんどのケースで裁判手続きは合理的な判断と言えるかもしれません。

なお、共有所有者によるStatutory Trustee任命の申請を裁判所が認めないケースは主に2パターンあります。まず、共有所有者が全員同意しない場合には売却は行わないという取り決めが事前に存在している場合、もう1つは、その家で共有所有者が年老いた親を介護していたり、子どもを育てているなどといった特段の家族の事情がある場合であれば、裁判所は申請に対する異議申し立てを受け入れる場合があります。

夫婦が離婚した際に共有名義の家に一方が住み続けるというのは決して珍しいケースではありません。特にローンの支払いが終わっているような場合、住み続けている方からしてみると、家賃が発生しませんので、そのまま交渉に応じず、のらりくらりと住み続ける方が家を売るよりもメリットがあります。他方、その家を出た方からしてみると、早く家を売却して、売却金を分配してほしいと思うのは普通のことです。離婚時には見落とされがちですが、そうならないよう、なるべく早い段階で財産分与で家の売却について正式に取り決めておいた方が良いでしょう。


弁護士:神林佳吾
(神林佳吾法律事務所代表)

1980年東京生まれ。95年渡豪、2004年クイーンズランド大学経営学部・法学部、同大学大学院司法修習課程修了後、弁護士登録。以後15年にわたり離婚・遺言・相続・会社法・訴訟を中心に対応

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