レプリカ拳銃について – 身近な法律問題

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法律は何となく難しいもの――そう思ってはいませんか?しかし法律は私たちの日常生活と切っても切り離せないもの。このコラムでは毎月、身の回りで起こるさまざまな出来事を取り上げ、弁護士が分かりやすく解説を行います。

第54回:レプリカ拳銃について

豪州では、模造品であるレプリカ拳銃についての取り扱いが州によって違うことから、想像していなかったような問題に発展することがあります。

最近、実際に裁判になったケースですが、ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)州在住のAさんがクイーンズランド(QLD)州に滞在していた時に“Glock 18 Pistol Gel Blaster”という玩具を購入して帰途につきました。これは電動でBB弾を打ち出す拳銃で、QLD州では主にサバイバル・ゲームなどに使われる用途で合法的に販売されています。銃口にオレンジ色のキャップが付いているなどレプリカだと判別できるようになってはいますが、少し離れた距離からだと実銃のように見えます。

NSW州に戻った後、Aさんは友達とサーフィンに出掛け、友達が戻ってくるまでの間、窓を開けた車内から海に向かってレプリカ拳銃の試し打ちをしていたところ、その様子を離れた場所から見ていた一般人が警察に通報し、銃の乱射事件として警察が動く事態へと発展しました。

NSW州ではレプリカ拳銃に制限が設けられており、実際はレプリカであっても、本物のように見える銃を振り回している現場に遭遇した警察官は発砲することが認められています。この件ではボディ・アーマーを身にまとった警察官が現場に急行し、誰も傷付くことなく現場を制圧することに成功しましたが、あわや特殊部隊に出動要請が行われる寸前の逮捕劇でした。

ただ、逮捕されたAさんからしてみると、QLD州で合法的に買ったレプリカ拳銃で遊んでいただけですから、釈然としないのは理解できます。残念ながら、QLD州とNSW州の法律が違うことを知らなかったというのは理由にならず、「Firearms Act」の規定で銃の不法所持は14年以下の懲役刑が制定されています。最終的に出された判決は12カ月間の社会奉仕活動を2回、高額の罰金、更にAさんにとって一番厳しい処罰と言えるのは、銃刀法違反での前科が付いてしまったので、将来の就職や海外渡航に大きな制限が付いてしまったということです。

私たち日本人からしてみると重過ぎる判決であるように感じられるかもしれませんが、豪州の裁判所は何より公共の安全と法の秩序を守らなければならないというスタンスを崩さない可能性があるということを肝に銘じておく必要があるでしょう。モデル・ガンや電動ガンなどは子どもが喜びそうですが、豪州では大問題に発展する危険性がありますので、決して安易な考えで子どもに買い与えたりしないのが賢明です。


弁護士:神林佳吾
(神林佳吾法律事務所代表)

1980年東京生まれ。95年渡豪、2004年クイーンズランド大学経営学部・法学部、同大学大学院司法修習課程修了後、弁護士登録。以後15年にわたり離婚・遺言・相続・会社法・訴訟を中心に対応

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