オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。
第18回 ノングリナ・マラウィル
(Nongirrna Marawili)
「The 22nd Biennale of Sydney – NIRIN –」
3月14日より開催予定だった第22回シドニー・ビエンナーレは残念ながら中止となってしまったが、本記事では参加予定だったアーティスト、ノングリナ・マラウィルのインスタレーションを紹介する。
今回のビエンナーレの副題は、ウィラドゥリ語で“Edge”を意味する”Nirin”。オーストラリアのアーティストであり、ビエンナーレ・キュレーターのブルック・アンドリュー氏は、ニュー・サウス・ウェールズ州のウィラドゥリ民族の子孫を母に持ち、ビエンナーレでは、“First Nations”(本来第1のオーストラリア人であるアボリジニー)というテーマを掲げた。地元のコミュニティーと、グローバル・ネットワークを結び付けることを目的とした広大な現代アートの展示となる予定であった。
ビエンナーレは、新型コロナウイルスのパンデミックが起きる何カ月も前から計画されていたが、崩壊寸前であるこの世界の経済や社会活動とリンクした”Nirin”というテーマは、まさに現在の状況に関連付くものとなっていた。
「この見通しのきかない世の中のためにも、Nirinが誠実な生命力を集めることを願っている。先行きがとても不安定な時こそ、アートは普遍的な意味を伝え、聴衆にスピリチュアルな理解を与えることができる」とアンドリュー氏は予言のように語っていた。
ビエンナーレは、オーストラリア現代美術館、NSW州立美術館、コカトゥー島を含む6カ所を展示会場に、24人のアーティストの作品を展示予定であった。その顔ぶれも幅広く、初参加国にはネパール、ジョージア、アフガニスタン、スーダン、エクアドルが含まれていた。
オーストラリア現代美術館では、参加アーティストの1人、ノングリナ・マラウィル氏が力強いプレゼンテーションを行った。マラウィル氏はオーストラリアの先住民アーティストで、北部準州、ノーザン・テリトリーのアーネム・ランドのシールド岬北部の海沿いのビーチで生まれた。マラウィル氏のアートは、ボディ・ペインティングや、宗教的な聖地、動物図形を描写する先住民アートとは一線を画しており、彼女の一族であるマラルパ族に、先祖から伝わる伝統や哲学からインスピレーションを受けている。
マラウィ氏は、絵画活動を通して彼女が過ごした場所や彼女の前に現れた人びとを具現化しているという。材料には、島で見つけたものを使用し、その中には天然素材はもちろん、埋め立て地に運ばれるような再利用品(ゴミ)も含まれている。「島を描くなら島を使わないと」と彼女は話す。
彼女は岩に激しくぶつかり空に爆ぜる水の動きや、満潮時の波を描くことを好み、その作品は岩のように強くもあり、水のように滑らかでもある。先祖から伝えられた伝統に、彼女は自身の息吹もまたそこに吹き込んでいるのである。
Instagram: biennalesydney
Website: www.biennaleofsydney.art
ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。クイーンズランド・カレッジ・オブ・アート並びにグリフィス大学でファイン・アートの美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、QLD州のサウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
■Web: www.lmcuratorial.com / ■email: lmcuratorial@gmail.com
■Instagram: @lmcuratorial