法律
Q
ある従業員が、仕事と関係のない理由でうつ病を発症し、数カ月にわたり休職中です。この従業員がいつ職場に復帰できるかが分からないため、代わりの人を雇う事ができません。電話でその従業員に連絡したところ「そういった解雇は違法だ」と言われました。どうしたらいいのでしょうか?(50代男性=会社役員)
A
まず、大原則として「病気や怪我による一時的な休職を理由としての解雇」は、法律により禁じられています。また、「(病気や怪我などによる)Disabilityを理由とした差別(解雇を含む)」も同様に禁じられており、ここでの“病気”には精神疾患も含まれます。
しかし、無給休暇扱いであっても、長期間休職している従業員を解雇できないとなると、会社としてはマネージメントに支障をきたします。従い、法律は上記の大原則に幾つかの例外を設けています。
「一時的な休職を理由としての解雇」については、こうした休職期間が連続3カ月以上にわたって継続するか、あるいは12カ月間に合計3カ月以上にわたり休職する(ただしSick Leave取得期間は除く)場合、その休職は「一時的」ではなくなると考えられ、これを理由とした解雇は例外的に合法となり得ます。ただし今回のケースの場合、たとえ上記の例外要件を満たしているとしても、休職4カ月目で即解雇ということになると、もう1つの「Disabilityを理由とした差別的解雇の禁止」に抵触して違法な解雇となってしまうリスクが残ります。
Disabilityに基づく差別的解雇の禁止についてもまた、例外が設けられています。すなわち、「もしもDisabilityがある故に、与えられた職務を遂行できない場合」です。
例えば、大工として現場で働いていた従業員が交通事故で下半身不随になった場合です。大工はその職務上、工事現場で自由に動き回ることが求められます。しかし怪我の結果、不安定な足場での作業が不可能となると、これは「Disabilityがある故に、与えられた職務を遂行できない」ということになり、合法的な解雇は可能になると考えられます。ただし、この従業員が車椅子に座りながらできる事務仕事などがあれば、その従業員のDisabilityを考慮した妥当な他の職務を提供するといった努力をする義務を雇用主は負います。
今回の相談のような精神疾患の場合、「Disabilityがある故に職務を遂行できない状態」であるか否かの判断は、主に医師の判断に委ねられることになります。雇用主は、従業員の休職に当たり必要に応じ医師から診断書を取得するよう求めることができます。もしも休職が3カ月を超えた時点で、医師から明確に「当該従業員はまだ、仕事のできない状態にある。また、予期可能な近い将来、復職可能なほどに回復する可能性も無い、もしくは定かではない」といった診断書が発行されれば、それは「Disabilityがある故に職務が遂行できない」という証明(以下「証明」)になり得るので、当該従業員の解雇は合法になると考えられます。
重要なのは、そのような診断書が病気や怪我などを患った従業員を合法的に解雇できる証明となり得るかという点です。従い、場合によっては雇用主が任命する医師を含む、複数の医師から証明となり得る診断書を得ることも考慮に入れる必要があります。なお、Disabilityを理由とした違法な解雇に対する損害賠償額は高額になることも考えられます。証明が曖昧な場合には当該従業員と話し合って、和解して「退職」させるのも無難な方法の1つです。
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林 由紀夫(はやし ゆきお)
H&H Lawyers
横浜市出身。1972年来豪。78年ニュー・サウス・ウェールズ大学法学部卒(法学士、法理学士)。79年弁護士資格取得。同年ベーカー&マッケンジー法律事務所入所。80年フリーヒル・ホリングデール&ページ法律事務所入所。84年パートナーに昇格。オーストラリアでの日系企業の事業活動に関し、商法の分野でのさまざまなアドバイスを手掛ける