法律は何となく難しいもの――そう思ってはいませんか?しかし法律は私たちの日常生活と切っても切り離せないもの。このコラムでは毎月、身の回りで起こるさまざまな出来事を取り上げ、弁護士が分かりやすく解説を行います。
第41回:オーストラリアで刑事事件に巻き込まれたら ①
今月から、オーストラリアで刑事事件に巻き込まれてしまった場合、どのように対処すべきかについて、ご紹介していきます。
はじめに
オーストラリアの刑事事件における司法制度は日本のものとは大きく異なり、日本のテレビ・ドラマや映画のシーンなどを想像すると、もしもの時に戸惑うことになると思います。とは言え、もしあなたが刑事事件の被疑者として逮捕されてしまった場合、最初にすべきことは「弁護士を呼ぶこと」は万国共通なのです。
逮捕されることは誰にでも起こり得ることです。そして当事者の誰もが狼狽(ろうばい)して混乱し、苦悩を感じるものです。強く感情的になり、正しい選択を行うことが難しくなってしまうことも珍しくありません。
当然ですが、一般の人で、刑事訴訟法などの刑事事件についての法律に詳しい人はほとんどいません。逮捕する警察側も、そうした一般の人が逮捕された場合に、法的知識が不足していることから、逮捕の過程で法的には認められていない行き過ぎた取り調べなどを行ってしまう警察官もいるようです。
しかし、この違法な取り調べで自身に不利な供述などをしてしまった場合、その後その供述が重大なものになってしまう可能性があります。逮捕されたからといって、必ず有罪となるわけではありません。法的知識の不足からデメリットを受けることを防止するためにも、逮捕されて身柄を拘束された際は、すぐに弁護士に連絡するようにしましょう。
日本とオーストラリアの刑事司法制度の違い
アメリカのドラマなどとは異なり、オーストラリアに「ミランダ警告(Miranda rights / Miranda warning)」(警察官が容疑者を逮捕する時に言い渡すことが義務付けられている警告)はありませんが、警察官は被疑者が最低限の権利を理解していることを確認することが義務付けられています。
黙秘は認められていますが、警察官は捜査の一環として被疑者の名前と正確な住所を確認する権限があるので、これらには答えなければなりません。当たり前ですが、名前と住所の説明に関して虚偽を行うと刑法で罰せられることになります。
ミランダ警告でよく使われる4項目の言い回しは以下の通りです。
- あなたには黙秘する権利がある。
- あなたの言ったことは何であれ、法廷で不利に扱われる恐れがある。
- あなたには弁護士と話し合い、また、尋問中に弁護士を同席させる権利がある。
- もしあなたが弁護士を雇うことができなくても、希望するならば、尋問の前に国選弁護士を任命し、あなたの代理にすることができる。
弁護士:神林佳吾
(神林佳吾法律事務所代表)
1980年東京生まれ。95年渡豪、2004年クイーンズランド大学経営学部・法学部、同大学大学院司法修習課程修了後、弁護士登録。以後14年以上にわたって訴訟を中心に応対