サーフ・シーンが盛り上がる季節が今年もやってきた。世界最高峰のサーフィン大会であるワールド・サーフィン・リーグ(以下、WSL)のチャンピオンシップ・ツアー(以下、CT )の第1戦がゴールドコーストのクーランガッタで4月3日から13日まで開催される。世界各国から集結したプロ・サーファーたちの豪快なライディングやパフォーマンスを一瞬たりとも見逃すまいと、全観客は熱い視線を送る。今大会の表彰台のトップに立つのは、一体誰になるのか。大会の見どころを紹介する(文中敬称略)。(文=塩澤真奈美)
レジェンド・サーファーが今季で引退
昨年、サーフィン界に衝撃をもたらしたのは、WSLで11度の世界タイトルを手にしたケリー・スレーター(アメリカ)の引退発表だ。レジェンド・サーファーと呼ばれる彼は、47歳という年齢でありながらもそれを感じさせない肉体と、まるでボードが足に吸いついているかのようなライディングを見せてきた。豪快なエアー・アクションやプロの中でも完成度の高いボトム・ターン、リラックスした状態で挑む大波のチューブ・ライドなど、全てをいとも簡単にこなす大御所ならではのパフォーマンスがプロの中でも称賛を浴びている。
これまで会場を沸かせてきた「サーフィン界の神・ケリー」は今シーズンをもって自身ラストとなるCTにワイルド・カード枠で出場。引退前最後となる彼のパフォーマンスをひと目見ようと、多くの観客が集まることが予想される。
迫力満点の注目メンズ選手
前年のグランド・チャンピオンを獲得したガブリエル・メディナ(ブラジル)はキュートな笑顔の持ち主で、サーフィンのみならずインスタグラムで754万人のフォロワー(2019年3月時点)を持つことでも有名。2014年に初のCTグランド・チャンピオンを獲得して以来、常にトップ3にランクインしている。ジャンク・コンディションの波や、抜けられそうもないチューブ・ライドも乗りこなしてしまうメディナのパフォーマンスに観客は魅了されてしまう。どんな波もマルチにメイクする彼の波を見極める力にも注目だ。最近の彼の傾向としては、ヒート後半まで良い波を待ち続け、ここぞという場面でパーフェクトな波を乗りこなし、逆転勝利を飾っている。ドラマティックなライディングを生み出すメディナの試合は必見だ。
そして日本人にとって目を離せないのが、五十嵐カノアの存在だ。幼少期にサーファーの日本人の両親と共にサーフィンの英才教育のため、アメリカに拠点を移したサラブレッド。日米二重国籍のカノアは、昨年20歳になったのを機に日本国籍を選択。2020年東京五輪の日本人メダリスト有力候補として期待の眼差しを浴びている。5カ国語を巧みに操り、2年飛び級で高校を卒業した頭脳明晰の彼は、21歳にして4度目のCT参戦者。しなやかでバランスの取れたボディーから繰り出すテクニックは、どれも堅実でスタイリッシュなパフォーマンスだ。
その他にも今年CT初参戦となる4人のルーキーや、16年から2年連続でグランド・チャンピオンを獲得し、昨年けがにより思うように成績を残せず、ワイルド・カードで今大会出場を果たすジョン・ジョン・フローレンス(ハワイ)、昨年ゴールドコースト戦を制し、世界ランク2位のジュリアン・ウィルソン(オーストラリア)の活躍も見逃せない。
ウィメンズ選手にも注目
メンズと同時期に開催されるウィメンズ部門で注目されているのは、7度グランド・チャンピオンに輝いたキャリアを持つステファニー・ギルモア(オーストラリア)と世界ランク2位に位置し、昨年度の初戦を制したレイキー・ピーターソン(アメリカ)だ。ベテランのステファニーとCT8度目の参戦となるレイキーは、パフォーマンス力に長けており、CTグランド・チャンピオン予測にこの2人を挙げるメディアも多数。強くも美しい彼女たちの活躍も要チェックだ。
WSLのCTはWSL公式アプリよりライブ配信を行っているが、緊迫感漂う試合の雰囲気と間近で観るパワフルなウェーブ、そして波にアートのような弧を描く世界トップ・レベルのプロ・サーファーたちのパなどフォーマンスを観にぜひ会場に足を運んで欲しい。
WSL Championship Tour Quiksilver & Boost Mobile Pro 2019
■開催地: Snapper Rocks, Coolangatta, Gold Coast
■日程:4月3日(水)~13日(土)
■Web: www.worldsurfleague.com
※波の状況によりキラ・ビーチなどへ会場変更あり、詳細はウェブサイトで要確認
※チケット不要、駐車場はパブリック・パークなどを使用
初めてでも楽しめるWSL CTの基本情報解説
今大会の概要
WSLが主催するCTは、4月から12月までの期間に世界各地の名だたるサーフ・スポットを回りながら、メンズ11戦、ウィメンズ10戦の試合を行うサーフィンの世界大会。今年はゴールド・コースト、クーランガッタを皮切りにハワイ、パイプ・ラインで閉幕する。各試合で獲得したポイントで年間ランキングが決まり、グランド・チャンピオンが決定する仕組みだ。
昨年までは3月から12月までをツアー期間となっていたが、「十分な調整期間を確保したい」という多くの選手の声が反映され、今年は4月開幕となった。翌年のスケジュールは11月に開催地や日程の情報と共に発表される。
出場選手の選抜
メンズCTの参加選手は、前年度のCT最終ランキング上位22人、CTの1つ下のランクのセカンド・リーグとなるクオリファイング・シリーズ(以下、QS)の上位10人、前年にけがでCT上位22位にランクインできなかった選手を対象にWSLが選抜する特別枠「シーズン・ワイルド・カード」2人と、イベント・スポンサーによって大会直前に選抜される特別枠「イベント・ワイルド・カード」2人の合計36人で構成されている。
一方、ウィメンズは18人で構成。前年度のCT最終ランキング上位10人、QSの上位6人、シーズン及びイベント・ワイルド・カードは計2人という内訳だ。
その他、CT参加選手がけがなどで欠場になった際の補欠選手として、メンズ3人、ウィメンズ2人が選ばれる。
試合形式
CTは、1ヒート(1試合)30分で展開されるトーナメント形式で、ラウンド(以下、R)1~4に続き、クオーター・ファイナル(以下、QF)、セミ・ファイナル(以下、SF)、ファイナルで1大会が構成されている。
R1とR4のみ1ヒート3人で競い合い、その他は1ヒート2人で戦う。
12ヒートで構成されるR1の1位はR3に進み、下位2人は敗者復活戦であるR2でR3への生き残りを競う。R3を勝ち抜いた選手がR4に進み、1ヒート3人のR4で上位2人がQFに駒を進められる。QF、SF、ファイナルはそれぞれ1ヒート2人で争われる。
採点方法
各ヒートにつき5人のジャッジがサーファーを審査する。各ジャッジは選手の1ライディングごとに0.1~10のレンジでスコアを出し、5人の中の最高スコアと最低スコアを除いた3人の採点の平均が1本のライディングのスコアとして算出される。試合終了後に各選手が獲得したベスト2のスコアの合計で勝敗が決まる。
ちなみに1ヒートを3人で競う場合のみ、15ライディングまでが採点の対象となる。ジャッジの判定基準は①マニューバー(技や動き)の難易度、②マニューバーの組み合わせ、③多種類のマニューバーのコンビネーション力、④革新的なマニューバーの有無、⑤スピードやパワー、マニューバーのフローの5点から構成されている。より高いスコアを狙うためには、クリティカル・ポジション(波が崩れかかった最もパワーがある位置)で高難易度の技(ターンやカット・バック、チューブ・ライド、エアなど)を何種類も行い、更に誰もやったことのないような革新的な技を取り入れ、それらをスピード感を持ってスムーズに行う必要がある。選手には自然の波に対してベストなパフォーマンスを一瞬にして考える精神力と集中力、そしてそれをかなえる身体能力が求められる。
優先権とペナルティー
WSL CTでは、基本的なサーフィン・ルールの他にコンペティション特有のルールが存在する。代表的なのが、波を優先的に取ることができる優先権、プライオリティーだ。
1ヒート2人での対戦の場合、優先権を持つ選手は好きなタイミングで対戦者に邪魔されず波に乗ることができる。優先権を持たない選手は優先権を持つ選手の邪魔にならない限り、波に乗ることは可能だが、もし優先権を持つサーファーを妨害した場合は、インターフェアレンスという反則となってしまい、ペナルティーとして2番目のスコアが没収される。
優先権は一度波に乗ると自動的に別の選手に移るので、あえて良い波が来るまで優先権を保持するなど、プライオリティーの使い方で勝敗が決まることもあることから、選手同士の心理戦もサーフィンのヒート中に行われているのだ。
その他の詳しいルールについてはWSL公式ウェブサイトで確認できる。