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キアシシギ

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第67回
キアシシギ

毎年オーストラリア・デーの前後は、台風が接近し大雨になることが多いですが、今年は少し遅く2月下旬に夏の嵐が訪れました。そのためか、例年たくさん保護されるミズナギドリ科の渡り鳥たち(Shearwaters)は、今年は10羽にも上りませんでした。オーストラリア南東部やタスマニアでの繁殖を終え、嵐が来る前に北半球のシベリアやアラスカまでの長い渡りへと旅立ったのでしょう。

そんな矢先、ブリスベン郊外の海岸で動かなくなっていたところを保護されたキアシシギ(Grey-tailed tattler)が、野鳥保護団体を通してカランビン野生動物病院(Currumbin Wildlife Hospital)に移送されてきました。キアシシギは、北半球の夏に当たる5月下旬から8月にかけてシベリアで繁殖し、その後東南アジアやオーストラリアで越冬する渡り鳥の一種です。日本でも春と秋によく見られる鳥です。ちょうど今の時期から6月にかけてオーストラリアを出発し、繁殖するために北を目指します。

動物看護士に補液されるキアシシギ
動物看護士に補液されるキアシシギ

診察してみると、痩せていて脱水症状が見られたもののけがなどはなく、血液検査の結果も問題ありませんでした。体を温めてから補液し、餌やりをします。キアシシギは野生ではカニや貝、小魚、水辺の昆虫を取って食べるのですが、保護されたばかりの衰弱している状態ではなかなか餌を丸飲みすることはできません。そこで、病院では魚をブレンダーにかけて作ったスムージーをチューブで直接胃に流し込みます。元気が出てきたら、自分で小魚を取って食べられるよう促します。

1日も早く体力を回復させて、北半球へ旅立たせてやらなければなりません。各地で渡り鳥の研究チームが、個体標識となる金属の輪を鳥の足に取り付ける活動を行っています。そのため、オーストラリアで足輪を着けられたキアシシギが日本やシベリアで見つかったり、また日本で足輪を着けた個体がQLD州で保護された、という事例もあるのです。

今回保護されたこのキアシシギの足にも、個体識別番号の付いた足輪がありました。オーストラリア野鳥コウモリ標識調査(Australian Bird and Bat Banding Scheme)という機関に照会を依頼し、この足輪がいつどこで誰によって着けられた物なのか、報告を待っているところです。


床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっている他、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

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