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VIP接待のケータリング・サービス

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出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~

其の弐拾伍:VIP接待のケータリング・サービス

メンジーズ・ホテル内の日本食レストラン「景山」でのコンサルティング・シェフを務める傍ら、個人的にケータリングの仕事も行うようになりました。ホテル側に相談した際に、「景山」とホテルでのイベントをこなしさえすれば、外部でケータリング活動を始めても支障ないと確約も取れていました。

その後、ビジネス・ネーム「Japanese Catering Service」を登録し、ケータリング・ビジネスを少しずつスタートさせました。当初行っていたサービスは、依頼があった企業の社長宅などでフォーマル・ダイニングの会食をサービスするというものでした。そこで使う食材として鮮魚、生鮮食品などは地元のものを使いましたが、日本食材に関しては、依頼主である商社の方々が日本に帰るたびに持ち帰っていらっしゃったものを提供いただきました。当時は手に入りにくかった、地元の珍しい味噌や醤油、塩、それに加え、シシャモ、かずのこ、いくら、からすみ、ジュンサイ、まつたけ、かつお本節など、日本料理の珍味から和菓子に至るまでいろいろなものを提供いただきました。

当時は、日本食材が限られていたので、貴重な食材を生かす会食の際には、日本料理の幅を広げることができ大変助かりました。また、その中には、40年前のオーストラリアではまだまだ珍しかった日本の食材も多くあり、それらをシドニーで紹介できるという機会に、私自身、気持ちが高揚しました。

また、料理を盛り付ける器には、それぞれのご自宅にあるものを使わせていただきました。日本から持って来られたものも多く、その中には日本を代表する器も揃っており、私の好きな黄瀬戸の器もありました。少し黄色を帯びた薄茶色に、独創的な模様が軽快に入れられ、手にしっくりおさまる不思議なくぼみと流れが魅力的で、創造力を掻き立てられました。

また、中には尾形乾山(けんざん)(江戸時代の陶工)によるものや、魯山人らの本物の作品を使わせてもらう機会もありました。なかなか使うことのない貴重な器に料理を盛ることができる機会を与えられたのは、料理人にとって最高の経験でした。

料理人は接待を任されると、料理をするだけではなく、いろいろなおもてなしの演出も求められます。日本で学んできた技術と食礼法に沿った日本料理の格式と美を料理の中に表現することは非常に楽しいものです。いろいろな人の協力があって、ここオーストラリアでもそのような日本料理を実現できました。同様に、社長夫人の方々にも、食器棚に大切に飾っていた器を生かすことができたと、喜んでいただけました。

当時、オーストラリアの人たちに、日本の和食器で日本料理を紹介できたことは、その後の私の日本料理普及活動にもつながっていきました。今はなくなってしまいましたが、インターネットやソーシャル・メディアがなかったころは、ホスピタリティ・インダストリー関係の人やフード・インダストリー、メディア関係の人々が集まり、オーストラリアの食文化を盛り上げる活動を行うFood MediaやWine Pressというグループなどがありました。

縁があって、これらのグループのメンバーに入ることができ、ホテルの料理長クラスのシェフや、当時、料理番組で活躍されていたマーガレット・フルトンやピーター・ハワード氏などの料理人とも知り合え、パーソナルな関係を築くことができました。当時のオーストラリア・フード・メディアの友人たちを通して、レストラン以外での、仕事やケータリングの仕事が増えていきました。その後、日本企業はバブル期を迎え、隆盛を誇る時代がやってきました。それに伴い、各企業の社長宅での少人数のVIP接待の仕事が増えました。

一方で、300~500人という大規模なイベントも多くなり、一番苦労したのが、人探しです。日本の料理人を探すことは非常に難しい時代でした。特にワーキング・ホリデー制度が発足する前は大変でした。ホスピタリティー関係の人材派遣会社から料理人で日本料理に興味ある人を集め、仕事をしたという思い出もあります。人材集めは、昔も今も大変です。


出倉秀男(憲秀)
料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流文芸師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使

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